病院情報システム(HIS)の発注・外注は、電子カルテだけでなく医事会計、部門システム、ネットワーク、データ移行、運用保守までを一つの業務基盤として整理してから、病院の規模と診療機能に合う委託先を選ぶことが成功の近道です。
「何をRFPに書けばよいのか」「パッケージとスクラッチのどちらを選ぶべきか」「見積金額の差は何から生まれるのか」と悩む病院の担当者に向けて、発注形態の選択、要件整理、契約、費用相場、委託先の比較方法、稼働後の責任分担までを発注実務の順番に沿って解説します。
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病院情報システム(HIS)の発注・外注は何を委託しますか?

病院情報システム(HIS)の発注では、製品のライセンスだけを買うのではなく、診療業務を止めずに情報を連携させる仕組み全体を委託します。したがって、見積書の安さだけを比べると、後から連携開発、端末、移行、教育、保守の費用が増える可能性があります。
電子カルテだけでなくHIS全体を発注範囲に含めます
HISは、患者基本情報、受付、予約、外来、入院、退院、電子カルテ、看護記録、処方・注射・検査・放射線・病理・手術・リハビリなどのオーダリング、医事会計、レセプト、DPC、病床管理、薬剤・物品管理、PACS、検査機器連携、地域連携、患者ポータル、経営分析までを含む広い概念です。電子カルテを中核にする場合でも、医事会計や画像管理を別製品で運用するなら、誰が連携仕様を定義し、障害時にどの会社が一次対応するのかをRFPと契約書に書く必要があります。
要件一覧には、診療科、病棟、病床数、端末数、同時接続数、既存の医事会計・PACS・検査機器、外注検査センター、電子処方箋、オンライン資格確認、地域連携の有無を記載します。さらに、HL7やFHIR、SS-MIX2、DICOMなどの標準規格への対応可否、連携先ごとのデータ項目、連携テストの担当範囲も明記すると、提案会社ごとの前提条件がそろいやすくなります。
発注形態は標準化の範囲と病院独自要件で選びます
発注形態は、標準パッケージ、クラウド型、オンプレミス型、ハイブリッド型、スクラッチ開発の五つに整理できます。一般的には、標準パッケージを基本にして、医療安全、法令、病院独自の診療フローに関わる部分だけを追加開発する方法が、導入期間と保守負担のバランスを取りやすいです。独自性が高い業務でも、最初から全面スクラッチにせず、標準機能で業務を変えられる部分と、変えられない部分を分けて検討します。
クラウド型はサーバー更新やアップデートの負担を抑えやすい一方、通信障害時の診療継続、データの保管場所、バックアップの復元、接続断時の緊急閲覧、契約終了時のデータ返却を確認する必要があります。デジタル庁は2026年6月、電子カルテ、レセコン、部門システムを一体的にクラウド型へ移行する方針を示し、中小病院向け標準仕様に続いて大病院向けの要件整理に着手すると発表しています。将来の接続性を考え、クラウドかどうかだけでなく、標準仕様への対応方針を質問することが重要です(出典: デジタル庁「病院情報システム等の刷新に向けた協議会」、2026年)。
病院情報システム(HIS)の発注・外注はどのように進めますか?

HISの発注は、現状整理、RFP作成、候補会社の提案・デモ、契約、要件定義、設計・構築、データ移行、教育、総合テスト、切替、安定稼働という順番で進めます。発注前にすべての画面仕様を決める必要はありませんが、対象業務、品質条件、移行範囲、停止許容時間、責任分界を決めておくと、提案の比較が可能になります。
現状業務と要件を整理してRFPを作成します
最初に、院長や事務長だけでなく、医師、看護師、薬剤師、検査技師、放射線技師、リハビリ、医事、医療情報部門を含むワーキンググループをつくります。部門ごとに「現在の業務」「困っていること」「守るべきルール」「変更できること」「稼働日に必要なこと」を聞き取り、業務フローとシステム一覧に落とし込みます。入力回数や検索時間など、現場が評価できる指標を置くと、機能数だけに引っ張られにくくなります。
RFPには、導入目的、対象範囲、病院概要、診療科・病棟、端末・利用者数、必要機能、外部連携、非機能要件、移行対象、教育計画、切替条件、保守要件、見積書の内訳形式を記載します。非機能要件には、画面応答、同時利用、稼働率、バックアップ頻度、復旧目標時間、監査ログ、認証、脆弱性対応、障害連絡の受付時間を含めます。「標準機能」「設定」「追加開発」「別途オプション」を分けて回答してもらうことが、後からの追加請求を防ぎます。
提案書と実業務に沿ったデモを同じ条件で比較します
候補会社には同じRFPを渡し、初期費用、月額・年額、保守、端末、ネットワーク、連携、移行、教育、追加開発を同じ分類で見積もってもらいます。提案金額だけでなく、前提条件、除外項目、病院側の作業、再委託先、契約期間、価格改定の条件まで並べることが大切です。価格の差が大きいときは、安い会社に理由を聞くのではなく、どの項目が見積もりから抜けているのかを確認します。
デモでは、患者受付から診察、検査オーダー、結果確認、処方、看護記録、退院、会計まで、実際の一日の流れを再現します。医師には入力と参照、看護師には一覧と申し送り、医事には会計・レセプト、情報システム担当には権限・ログ・障害対応を確認してもらいます。営業担当の説明だけで判断せず、稼働後に担当する導入責任者、医療ドメインの設計者、保守責任者にも質問し、回答が契約書と整合しているかを確認します。
移行・訓練・切替リハーサルを発注段階から設計します
HIS更新で大きなリスクになりやすいのが、旧システムからのデータ移行と切替です。患者基本情報、病名、アレルギー、処方、検査結果、画像、文書、看護記録などを対象ごとに分類し、移行する期間、変換ルール、欠損時の扱い、照合件数、旧環境を参照できる期間を決めます。移行後のデータを現場が確認する責任者と、誤りが見つかった場合の修正期限も契約に入れます。
本番切替の前には、データ移行リハーサル、連携テスト、負荷テスト、障害訓練、紙運用訓練、復旧訓練を行います。教育は集合研修だけでなく、職種別の操作シナリオ、短時間の反復練習、稼働初日の現場支援まで設計します。導入期間の目安は、100〜200床のパッケージ・クラウド導入で12〜24か月、300〜500床で18〜30か月、大学病院級で24〜36か月程度と考えられます。ただし、これは病床数だけから決まる相場ではなく、連携数、移行対象、カスタマイズ、教育体制で大きく変わる推定目安です。
HISの契約形態は請負と準委任のどちらを選びますか?

HISの契約は、成果物と完成責任を明確にしたい工程には請負、要件整理や専門人材の支援を受けたい工程には準委任を使い分ける考え方が適しています。病院全体を一つの契約に押し込めるのではなく、企画・要件定義、製品導入・設定、追加開発、移行・教育、保守・運用に分けて契約条件を設計すると、変更管理と責任分担を整理しやすくなります。
請負契約は成果物・検収・変更条件を具体化します
請負契約では、受託会社が合意した成果物を完成させ、病院が検収する関係になります。要件定義書、基本設計書、詳細設計書、設定一覧、連携仕様書、テスト計画書、移行計画書、操作マニュアル、運用設計書などを成果物として一覧化し、検収基準を「納品したか」ではなく「何を満たしたら合格か」で定めます。画面の使いやすさや処理速度など、数値で確認できる条件は受入テストのシナリオに落とし込みます。
医療制度の変更、病院側の業務変更、連携先の仕様変更が起きた場合に備え、追加費用と納期を協議する変更管理手続きを入れます。口頭の要望を無償対応として積み重ねると、後半で品質と納期が崩れやすくなります。逆に、受託会社が仕様の不明点を確認せずに固定価格を提示している場合も注意が必要で、前提条件と未確定事項を契約書の別紙に残します。
準委任契約は作業範囲と体制を管理します
準委任契約は、要件定義の支援、プロジェクト管理、医療業務の整理、ベンダー間調整など、専門的な作業を一定期間依頼する場合に使われます。成果物の完成を保証する契約ではないため、月ごとの作業内容、会議体、担当者、稼働時間、報告書、課題管理表、意思決定の期限を明確にします。病院内に発注側の責任者がいないまま準委任だけを契約すると、判断が先送りされて費用が膨らみやすくなります。
複数ベンダーを組み合わせる場合は、全体を統括するプライム会社を置くか、病院が各社を直接管理するかを決めます。電子カルテ会社、医事会計会社、PACS会社、ネットワーク会社が別々に存在するなら、インターフェースの設計責任、障害の切り分け、変更申請、稼働判定を一社に集約する方法も検討できます。契約終了時には、データ形式、返却方法、移行支援、アカウント停止、ログの保存期間を確認し、ベンダー依存を減らします。
HISの発注・外注費用相場はいくらですか?

HIS全体の全国一律の費用相場は、2026年時点でも公開統計が十分に整っていません。病床数、診療科、端末数、部門システム、既存機器との連携、データ移行、冗長化、教育、保守の条件が病院ごとに違うためです。厚生労働省も2026年度に、病院規模別の導入・運用費や、オンプレミス型とクラウドネイティブ型の総保有コストを比較する調査を設定しており、今は統計的な相場を整備している段階です(出典: 厚生労働省「電子カルテシステムの導入・運用費用の実態把握及びコスト比較に関する研究」、2026年)。
公開価格は一部機能の目安として使います
公開価格の例として、AHISのクラウド電子カルテは、2025年改定後の料金として標準プランが10端末構成で月額24万5,850円(税込)からと案内されています。単純計算では年間約295万円ですが、医事会計は別途必要で、端末、初期設定、データ移行支援、部門システム連携、追加オプションは別見積です。この金額はHIS一式の相場ではなく、クラウド電子カルテ本体の公開料金として扱います(出典: AHIS「料金プラン」、2025年料金改定)。
このように、月額が明示されたサービスでも、病院側で準備するネットワークや端末、医事会計、既存機器との接続が残ります。公開価格を相見積もりの基準にする場合は、「含まれる機能」「含まれない機能」「初期費用」「データ移行」「保守・アップデート」「契約期間」を分解し、同じ条件にそろえて比較します。月額だけで5年分の費用を判断せず、初期費用と追加開発を加えたTCOで評価します。
病床規模別の費用は推定レンジとして予算化します
リサーチノートで整理した公開価格・周辺サービス・公的調達事例からの推定では、100〜200床のHIS一式は初期5,000万円〜2億円程度、300〜500床の更新は2億円〜8億円程度、500床以上の大学病院級では8億円〜15億円超も想定されます。ただし、これはHIS全体の公的な統計相場ではなく、電子カルテ、医事会計、部門連携、端末、ネットワーク、移行、教育、保守を含む場合の予算検討用レンジです。病院機能や連携数で上下するため、発注前には必ず自院のRFPに基づく見積もりを取得します。
大規模事例として、京都府立医科大学附属病院は第4期総合医療情報システム開発業務の委託上限額を15億4,770万円(税込)とし、2027年1月の運用開始を条件にしています。これは特定機能病院の公募上限であって、一般病院にそのまま適用できる価格ではありませんが、システム開発、移行、教育、切替を含む大規模発注では、金額だけでなく期間と要求水準が同時に定義されることを示す事例です(出典: 京都府立医科大学附属病院「第4期総合医療情報システム開発業務募集要領」、2025年公募)。
費用の内訳は、ライセンスまたはクラウド利用料、要件定義・設計、設定・追加開発、インターフェース、サーバー・端末・ネットワーク、データ移行、テスト、教育、稼働立会い、保守、セキュリティ対策、バックアップ、制度改正対応に分けます。見積書が「システム一式」だけの場合は、比較できないため再提出を依頼します。特に連携一件ごとの費用、データ変換の単価、休日・夜間の切替費用、稼働後の追加要員を確認します。
HISの委託先選定と見積比較では何を確認しますか?

委託先は、知名度や価格だけでなく、自院と似た規模・診療機能・更新条件での稼働実績、導入責任者の経験、連携と移行の実績、24時間障害対応、サイバー攻撃時のBCP、契約終了時のデータ可搬性で評価します。「導入実績が多い」という説明だけではなく、許可される範囲で類似病院を2〜3件示してもらい、稼働後の問い合わせ件数、現場定着、障害対応、追加費用の発生要因を確認します。
RFPの回答を同じ評価軸で採点します
評価表は、機能適合、医療安全、現場操作性、連携、移行、セキュリティ、運用体制、導入スケジュール、費用、契約条件に分けます。例えば、機能適合と現場操作性だけでなく、移行・切替を15点、セキュリティとBCPを15点、運用保守を10点とするように、稼働後のリスクにも配点を置きます。点数の比率は病院ごとに決めますが、価格だけで候補が決まらない仕組みにすることが大切です。
見積比較では、初期費用と5年程度の運用費を合算し、追加開発が増えたときの単価、端末追加、ストレージ増量、制度改正対応、問い合わせ時間外の費用、データ取り出し費用を並べます。クラウド型は初期投資が小さく見えても、月額、通信、端末、連携、移行、教育が別になる場合があります。オンプレミス型はサーバー更新、保守契約、バックアップ媒体、災害対策の費用を含めます。形態の違いを同じ5年TCOに変換してから、経営会議へ報告します。
セキュリティと障害時の責任分界を契約に入れます
医療情報を扱うHISでは、セキュリティは納品後に追加する機能ではなく、委託先選定の条件です。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版」は2026年6月に見直され、医療機関・薬局向けのサイバーセキュリティ対策チェックリストと、サイバー攻撃を想定したBCPの確認表が公開されています。RFPには、多要素認証、最小権限、監査ログ、暗号化、脆弱性管理、バックアップの隔離、復元テスト、インシデント連絡、復旧訓練を含めます(出典: 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版」、2026年)。
契約書では、障害の定義、一次受付、切り分け、現地対応、復旧目標時間、報告期限、再発防止、損害時の連絡、再委託先の管理を決めます。クラウドの場合は、通信回線やデータセンターの障害を含めたSLA、バックアップの世代数、復元の実績、データセンターの所在地、サービス終了時の移行支援を確認します。ランサムウェアで本番環境が使えない場合に、紙運用へ切り替える手順と復旧後の再入力方法まで訓練できる委託先を選びます。
病院情報システム(HIS)の発注・外注でよくある質問

HISの発注では、費用だけでなく範囲、期間、責任分界、現場定着を一緒に確認することが重要です。ここでは、発注前によく寄せられる質問に、公開情報と発注実務の観点から回答します。
HISはパッケージとクラウドのどちらを発注すべきですか?
標準化できる業務が多く、サーバー更新やアップデートの負担を抑えたい病院はクラウド型が候補になります。独自の診療フロー、複雑な連携、通信断時の要件、既存資産を重視する場合は、パッケージのオンプレミス型やハイブリッド型も比較します。最終判断は形態のイメージではなく、5年程度のTCO、BCP、データ可搬性、現場の操作性を同じ条件で評価して決めます。
100〜200床のHIS発注費用はいくらかかりますか?
公開情報と周辺サービス事例からの推定では、100〜200床のHIS一式は初期5,000万円〜2億円程度を予算検討の起点にできます。ただし、このレンジは公的な全国統計ではなく、電子カルテ単体、医事会計、部門連携、端末、ネットワーク、移行、教育、保守の範囲で大きく変動します。RFPで内訳をそろえ、初期費用だけでなく5年分の運用費、制度改正、追加開発、障害対策を含めて確認します。
HISのRFPには最低限何を書けばよいですか?
病院の規模・診療機能、対象業務、既存システム、端末数、外部連携、データ移行、非機能要件、導入期限、教育、保守、障害対応、見積内訳の形式を記載します。特に、標準機能と追加開発の境界、病院側の作業、契約終了時のデータ返却、切替リハーサル、障害時の紙運用を明記すると、会社間の比較がしやすくなります。未確定の項目は未確定と書き、提案会社に前提条件と確認事項を回答してもらいます。
まとめ

病院情報システム(HIS)の発注・外注では、電子カルテだけでなく、医事会計、部門システム、機器連携、ネットワーク、データ移行、教育、保守、BCPまでを一つの業務基盤として整理します。パッケージ、クラウド、オンプレミス、スクラッチを先に決めるのではなく、病院が守るべき業務と標準化できる業務を切り分けて、発注形態を選びます。
発注前に確認するポイント
発注前は、(1)対象範囲と連携先、(2)現場を含む要件整理、(3)標準機能と追加開発の境界、(4)請負・準委任の使い分け、(5)移行・教育・切替の計画、(6)初期費用と5年TCO、(7)セキュリティとBCP、(8)障害時と契約終了時の責任分界を確認します。見積書が一式表記になっている場合は、同じ分類で再提出してもらい、価格差の理由を説明できる状態にします。
次に行うこと
まずは院内の現行システム、診療フロー、連携機器、更新期限、困りごとを一覧にし、部門横断の発注責任者を決めます。そのうえで、病院規模と診療機能が近い会社を複数社選び、同じRFP、同じデモシナリオ、同じ見積内訳で比較します。HISは一度導入すると長期間使う基盤だからこそ、導入価格だけでなく、現場が使い続けられること、障害時にも診療を継続できること、将来データを持ち出せることまで含めて委託先を選ぶことが大切です。
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会社紹介
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
