ICTシステムの費用は、規模や保守・運用の体制、法改正やセキュリティ対応によって変わり、0円から数億円規模まで幅があります。
導入後の費用を見るときは、費用が膨らむ要因と運用体制の選び方を合わせて考えることが大切です。全体像はICTシステム開発の完全ガイドもご覧ください。
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ICTシステム導入後にかかる費用の全体像
ICTシステムの費用は、初期費用と保守・運用費用に分けて見ると全体をつかみやすくなります。特に保守・運用費用は、稼働中に毎年発生します。そのため、長期では初期費用を上回ることもあります。
初期費用と保守・運用費用の違い
初期費用と保守・運用費用は、発生する時期と役割が異なります。
- 初期費用:本稼働までに一度発生する構築コスト。
- 保守・運用費用:安定稼働を続けるための継続費用。
初期費用には、要件定義や設計、開発といった構築の工程に加えて、データ移行や研修も含まれます。
保守・運用費用には、サポートやバージョンアップ、障害対応が含まれます。さらに、インフラ利用料や、法改正対応の追加改修費用も、継続費用に含まれます。
教育機関や自治体では法制度への対応が、企業では既存システムとの連携の維持が、それぞれ追加費用になります。
発注時には、見積書の費用区分と法改正対応の請求条件を確認しておくことが大切です。
教育機関・自治体・企業の規模別費用の目安
規模別の費用感を比べると、自組織に近い予算帯を見積もりやすくなります。費用帯は、組織の規模と対象範囲によって変わるため、まず自組織がどの区分に近いかを確かめておくとよいでしょう。
- 小規模教育機関:小・中・高校や小規模専門学校。
- 中規模組織:中堅大学や複数業務の統合。
- 大規模組織:総合大学や自治体の基幹システム。
- 企業のシステム統合:対象範囲に応じて費用帯が変動。
小規模教育機関の初期費用は、0円から数十万円が目安です。一方で、フルカスタマイズや小規模なオーダーメイドにすると、500万〜1,500万円程度になります。
運用・保守費用は、月額数万円から数十万円が目安です。また、クラウド型には、生徒1人あたり月額330円という料金体系もあります。
たとえば、生徒600名規模では、5年間の総額が約1,188万円という試算があります。
中堅大学や複数業務の統合では、初期費用が2,000万〜8,000万円になります。運用・保守費用は、初期費用の年額10〜20%が相場です。
一方で、パッケージ型の運用・保守費用は、初期費用の年額10〜15%が相場です。総合大学や自治体の基幹システムでは、初期費用が1億〜数億円規模になります。
ガバメントクラウドへの移行後に、運用経費が想定を超えた事例も報告されています。中核市62市の調査では、59市の回答を得ています。
移行前の平均3億3,800万円は、移行後に6億8,400万円となりました。運用経費は平均で2.3倍に増え、最大5.7倍になった自治体もあります。
企業の情シス主導でシステム統合を行う場合は、対象範囲が広いときに、中規模〜大規模の費用感に準じて考えます。
保守・運用費用が膨張する構造要因

保守・運用費用は、物価の上昇だけでなく、制度改正やセキュリティの高度化によっても増えます。教育機関・自治体・企業のいずれも、契約の段階で増加要因を確認しておく必要があります。
法制度対応・標準仕様の肥大化によるコスト増
自治体や教育機関では、制度改正への対応が保守費用を押し上げます。保守費用に響く点は、次の2つです。
- 要件追加:法や制度が改正されるたびに、開発と保守の負担が増えます。
- 標準仕様:要件数の増加が、ソフトウェア借料に影響します。
「異次元の少子化対策」や「ふりがな法制化」への対応で、要件が増えました。また、ベンダーヒアリングでは、標準仕様書の要件数が平均1.2倍になっています。
一部では要件数が3倍以上に増え、ソフトウェア借料の高騰を招いています。そうしたなかで、えびの市は、法改正による機能改修を追加請求なしで提供する旨を仕様書に明記しました。この調達では、追加コストをベンダー側で吸収させる契約としています。
えびの市の例にならい、契約時に追加改修の扱いを明記しておきます。また、国は制度所管省庁ごとに改修補助金を措置し、自治体の負担軽減を図っています。
予算計画では、公的な支援策の有無も確認しておきたいところです。
セキュリティ・BCP対策の高度化に伴うインフラ費用の純増
クラウド移行は、データ保全やセキュリティを高める一方で費用を増やします。増えやすいのは、回線、運用管理、設計の3か所です。
- 専用回線:クラウド接続回線費が新設されることがあります。
- 運用管理:運用管理補助委託費が追加されることがあります。
- 設計適合:水準に合うインフラ設計が費用を左右します。
A市では、年間の運用経費が2億800万円から7億8,400万円へ増えました。運用経費は約3.8倍で、AWSなどの利用料が高止まりしたことが一因です。
既存システムがクラウドに最適化されていないことも、費用増に影響します。企業でも、シャドーIT対策として整える公式インフラに、閉域網の構築費用がかかります。
セキュリティ・BCP対策は必要な投資です。ただし、設計が水準に合わないと費用が増えます。
マクロ経済環境・データ整備が及ぼすランニングコストへの影響
ランニングコストは、為替や人件費に加えて、データ整備の負荷によっても変わります。企業の情シス部門では、保守運用の実態が予算計画にも影響します。
為替・IT人材不足による運用コストの上昇
海外クラウドの利用料は為替の影響を直接受けるため、円安時に上昇しやすくなります。2018年〜2020年の為替は、1ドル100〜110円程度で推移していました。直近の為替は130〜160円で推移しており、クラウド利用料を押し上げています。
運用コストには、次の3つの面が関わります。
- 為替:海外クラウドの支払額を、円換算で左右します。
- 人件費:IT人材の不足が、賃上げを通じて単価に響きます。
- 予算計画:数年単位の変動リスクを織り込みます。
1人平均の賃金改定率は3.2〜4.1%増となっており、運用作業員の単価の高騰につながります。
契約時点の単価だけで予算を組むと、数年後に実態と合わなくなるおそれがあります。
データ整備の保守負荷と企業情シスのROI試算
企業の情シスでは、データ整備と運用担当者の配置が保守負荷を左右します。
- 保守運用:IT予算の約7〜8割を占めるケースがあります。
- データ整備:移行前の整理が導入後の精度を左右します。
- ROI試算:削減効果を初期段階で数字にして把握します。
担当者を決めたうえで、データ検証とマニュアル更新を定期的な作業にしておくと、抜けが起きにくくなります。移行前には、表記ゆれをそろえ、古い情報を整理し、重複コンテンツを削除しておく必要があります。
ある大企業では、月間4,000件の問い合わせを、AIエージェントとRPAで70%自動化する試算があります。条件は、初期構築費用600万円、年間運用コスト400万円、1件あたり1,200円です。
この試算では、年間約4,032万円のコスト削減効果が見込まれます。また、初年度のROI(投資対効果)は363.2%という水準になります。
保守運用費を見積もっておくと、予算の説明に役立ちます。
保守運用体制の費用(内製 vs 外部委託)

人的費用は、内製にするか外部委託にするかで大きく変わります。そのため、専門人材を確保できるかどうかと、求められる可用性の水準に応じて、体制を選ぶ必要があります。
内製運用のメリットと専任担当者配置の必要性
内製運用は、組織固有の知識を生かして障害や仕様変更に対応しやすい体制です。その強みは、対応の速さ、制度改正の把握、運用の継続性の3つの面に表れます。
- 機動力:業務知識を持つ担当者が素早く対応します。
- 制度対応:制度改正の動きを社内で早くつかめます。
- 運用継続:担当者と更新の仕組みを、自社の中で明確にできます。
教育機関や自治体の担当者は、制度改正の内容をつかみやすい立場にあります。ただし、ネットワーク、セキュリティ、データ管理の知識を持つ人材は欠かせません。
教育機関や中小規模の自治体・企業では、専門人材を専任で確保するのが難しい場合があります。人員が薄いままでは属人化が進み、異動や退職でノウハウを失うリスクが高まります。そのため、専任または兼任の担当者を置き、データ検証とマニュアル更新を仕組みとして決めておくことが大切です。
外部委託・運用代行のメリットと注意点
外部委託は、専門人材の採用や育成を自社で抱えずに運用できる方式です。利点は、人材の負担と専門的な対応の2つの観点で捉えられます。
- 人材負担:採用・育成の負担を抑えられます。
- 専門対応:監視や法改正対応を任せられます。
限られた人員体制でも、一定の運用水準を維持しやすくなります。一方で、任せきりにすると、構成や運用のノウハウが組織内に蓄積されません。そのため、内製化や委託先の変更を検討する際に、移行が難しくなる場合があります。
障害対応や法改正対応が範囲外になり、追加費用になることもあります。また、営業時間内だけの対応では、想定したサービス水準とのギャップも生じます。そのため、委託先との契約では、対応範囲と応答時間を取り決めておきます。
委託先を選ぶ際は、同種の運用実績があるかどうかも判断材料になります。
ランニングコストを抑えるための契約・発注上の工夫

ランニングコストは、技術面の工夫だけでなく、契約とパートナー選びでも抑えられます。そのため、契約時の費用負担と段階的な最適化を、発注の前から検討しておくことが大切です。
契約時の費用吸収条項(法改正対応の明記など)
法改正のたびに追加費用が発生する契約では、保守費用が膨らみ続けます。契約では、次の3点を決めておく必要があります。
- 法改正対応:費用負担と対応範囲の明記
- 更新対応:頻度と費用負担の取り決め
- 公的支援:補助金の活用可否の確認
えびの市は、法改正による機能改修を追加請求なしで提供する旨を明記しました。教育機関や企業の調達でも、追加コストをベンダー側で吸収させる際の参考になります。
契約では、バージョンアップの頻度や、セキュリティパッチの範囲も、具体的に決めておきます。
自治体向けには、国の制度所管省庁による改修補助金が措置される場合があります。そのため、公的支援策の活用可否を事前に確認すると、実質的な費用を抑えられます。
段階的なクラウド最適化・パートナー選定のポイント
既存システムをそのまま移すだけでは、クラウド移行後も費用が高止まりします。発注側と開発会社は、利用状況、契約範囲、比較の軸の3面から段階的に見直せます。
- 利用状況:段階的なリソースの見直し
- 契約範囲:法改正とセキュリティ対応の確認
- 比較軸:5年・10年単位の総額での比較
クラウド特有の課金体系に合わせると、不要な過剰スペックを削減できます。
教育機関・自治体・企業のいずれでも、初期開発費用の安さだけで選ぶと、保守・運用の費用構造を見落とすおそれがあります。
法改正やセキュリティ対応の範囲を契約時に明確にできるか、同種のICTシステム統合・保守の実績があるかも、パートナー選びの判断材料になります。
まとめ
ICTシステムの費用は、初期費用だけでなく保守・運用費用まで含めて見通す必要があります。教育機関・自治体・企業のいずれでも、規模と運用体制に応じて費用の幅が変わります。
年間保守費用は初期費用の10〜20%程度が目安ですが、追加要因によって増える場合があります。ガバメントクラウド移行後に、運用経費が平均2.3倍に膨張した事例もあります。
法制度対応とセキュリティ高度化に加え、為替や人件費も重なって、費用を押し上げます。そのため、契約で法改正対応の負担を明確にし、内製と外部委託の役割分担を設計しておくことが重要です。
判断は、初期費用だけでなく5年・10年単位のトータルコストで行います。導入前の段階から運用費用を含めた予算計画を立てると、安定稼働と適正なコストを両立しやすくなります。
まずは、現行システムの保守費用を洗い出し、複数のパートナーに相談してみてください。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
