情報系システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

情報系システムとは、販売管理・生産管理・会計・在庫管理といった日常業務のトランザクション処理を担う「基幹系システム」と対をなす概念で、基幹系が生成した大量のデータを集約・分析し、経営の意思決定や社内の情報共有を支援する周辺システム群の総称です。データウェアハウス(DWH)やBI・レポーティング、経営ダッシュボード、需要予測などの分析システムに加え、グループウェアや社内ポータルといった情報共有基盤(情報系ネットワーク)までを含みます。こうした情報系システムを導入する際、初期の開発費用に目が向きがちですが、実際にコストの大半を占めるのは稼働後の保守・運用費用です。しかも情報系システムの保守は、基幹系システムの保守とは目的も構造も大きく異なるという特徴があります。

本記事では、情報系システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、基幹系システムとの対比構造を軸に、TCO(総保有コスト)の考え方、データ活用系システム(BI・DWH・予測分析)のコスト構造、情報共有系システム(グループウェア)のランニングコスト、そして費用を最適化する実務ポイントまでを、具体的な金額感とともに体系的に解説します。「初期費用は見積もれても、運用にいくらかかるのか読めない」「基幹システムの保守費とは何が違うのか」といった疑問を持つ経営層・情報システム部門の方が、中長期の予算を現実的に組み立てるための判断軸を得られる内容です。

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情報系システムの保守運用費用の全体像とTCOの考え方

情報系システムの保守運用費用の全体像とTCOの考え方

情報系システムのランニングコストを考えるうえで、まず押さえておきたいのは、システム導入において初期開発費用はTCO(総保有コスト)全体の約20%に過ぎず、残りの約80%は導入後の維持管理・教育・運用サポートが占めるという事実です。つまり、見積書に載る初期費用だけでシステムの経済性を判断すると、実際の負担を大きく見誤ることになります。特に情報系システムは、基幹系システムとは保守の目的そのものが異なるため、そのコスト構造の違いを理解しておくことが、適切な予算計画の第一歩になります。

基幹系の「守りの保守」と情報系の「攻めの保守」の違い

基幹系システムと情報系システムでは、保守の性質が対照的です。会計や販売、生産といった業務を担う基幹系システムの保守は、主に「システムの安定稼働」「障害対応」「インボイス制度や電子帳簿保存法などの法改正対応」といった現状維持が目的であり、いわば守りの保守です。業務を止めないことが最優先であるため、費用は比較的固定化しやすい傾向があります。これに対して情報系システムの保守は、性質がまったく異なります。データ分析やダッシュボードは「導入して終わり」ではなく、ビジネス環境や意思決定の変化に合わせて、新しい分析指標(KPI)を追加したり、ダッシュボードを改善したりすることが前提となる、攻めの保守だからです。経営会議で使われるツールである以上、事業の変化に追随して育て続ける必要があり、保守運用費をゼロにすることは現実的ではありません。この「使いながら改善し続ける」ための費用が継続的に発生する点が、情報系システムの保守費用を考えるうえでの出発点になります。

初期20%・運用80%というTCOの構造

前述の通り、情報系システムのTCOは初期開発が約20%、運用が約80%という構造になっています。この配分は、情報系システムの費用対効果を評価する際に決定的に重要です。たとえば初期開発費が500万円のシステムであれば、その稼働ライフサイクル全体では、単純計算で初期費用の4倍にあたる2,000万円規模の維持費が別途かかる可能性があるということになります。この運用費には、後述するBIツールのライセンスやクラウド基盤の従量課金といった目に見える費用だけでなく、データを維持・改善する人件費や、現場にデータ活用を根付かせるための教育・研修費といった、見積書には載りにくい隠れコストも含まれます。中長期の予算を組む際は、「作るための費用」と「使い続けるための費用」を明確に分けて捉え、後者を軽視しないことが、情報系システム投資を成功させるうえでの前提条件になります。次章以降では、この運用費を構成する具体的な項目を、データ活用系と情報共有系に分けて見ていきます。

データ活用系システム(BI・DWH・予測分析)のランニングコスト構造

データ活用系システムのランニングコスト構造

情報系システムの中核であるデータ活用系(DWH・BI・ダッシュボード・予測分析)のランニングコストは、ツールのライセンス、クラウド基盤の利用料、データ品質を維持するための費用、そして運用人件費という複数の要素で構成されます。それぞれの費用が発生する仕組みと膨張リスクを理解しておきましょう。

BIツールのライセンス(ユーザー課金)とクラウド基盤の従量課金

データ活用系のランニングコストで大きな割合を占めるのが、BIツールのライセンス費用とクラウドデータ基盤の利用料です。Tableau、Power BI、Looker StudioといったSaaS型のBIツールは、その多くがユーザー課金型の料金体系を採っており、目安として月額数万円から数十万円以上が発生します。ここで注意すべきは、全社展開が進んで現場の利用部門や閲覧するユーザーが増えるほど、ライセンス費用がユーザー数に比例して増加するという膨張リスクです。導入当初は数人だった利用者が、便利さが評判になって数十人・数百人に広がると、ライセンス費だけで想定を大きく超えることがあります。一方、クラウドサーバーやデータベース、DWH、ストレージ、ETL(データ抽出・変換・格納)ツール、データ転送にかかるインフラ費用は、月額数万円から30万円程度が目安ですが、こちらはデータ処理量に応じた従量課金であることが多く、非効率で重い抽出処理を放置したり、不要になったデータを保持し続けたりすると、クラウド費用が想定以上に膨らむ要因になります。特に大量のデータを扱う需要予測などのシステムでは、計算リソースの負荷によってインフラ費用が高くなる傾向があります。

データ品質管理・ダッシュボード改修・予測モデル運用の費用

情報系システムでは「見た目の不具合」よりも「数値のズレ」が致命的になるため、データの品質を維持し、継続的に改修していく費用が不可欠です。まず、欠損値や異常値の整理・加工といった継続的なデータ整備(クレンジング)にかかるデータ品質管理の費用として、月額5万円から15万円程度が目安になります。加えて、新しい分析指標の追加、既存指標の定義変更、新規データソースの連携対応などのためのダッシュボード改修・追加要件対応の予算枠として、年間で初期費用の10%から20%程度(月額換算で初期費用の5%から15%程度)をあらかじめ確保しておくのが現実的です。スポットで発生する追加開発の費用例としては、予測モデルなどを新たに組み込む場合に100万円から200万円、既存機能の改修に50万円から100万円、外部システムとの連携追加に80万円から150万円程度が、都度発生することがあります。さらに、需要予測などのAIを組み込んでいる場合は、時間の経過とともに精度が低下するのを防ぐため、データサイエンティストによるモデルの再学習・チューニングが必要となり、月額10万円から30万円程度が発生します。これらは基幹系の障害対応中心の保守にはない、情報系ならではの継続的なコストです。

情報共有系システム(グループウェア)のランニングコスト

情報共有系システム(グループウェア)のランニングコスト

情報系システムのもう一つの柱である情報共有系(グループウェア・社内ポータル・メール・スケジューラー・ワークフローなどの情報系ネットワーク)は、データ活用系とはランニングコストの構造が異なります。提供形態がクラウド型のSaaSか、自社で運用するオンプレミス型かによって、費用の内訳が大きく変わる点が特徴です。

SaaS型グループウェアの月額・ユーザー課金とストレージ費用

クラウド型SaaSのグループウェアは、1ユーザーあたりの月額課金が基本で、その中央値は月額600円程度です。料金帯は機能の充実度によって主に三つに分かれます。スケジュール管理などに機能を絞った低価格帯は1円から500円程度で、月額固定のID無制限プランを提供するサービスもあります。メール、カレンダー、ワークフローなどの基本機能を網羅した中価格帯は501円から1,000円程度で、サイボウズOfficeやdesknet’s NEOが各600円、Google Workspaceが800円、Microsoft 365が899円といった水準が該当します。この月額600円をベースに中長期のランニングコストを試算すると、30名で3年間約64万円、100名で約216万円、500名規模になると約1,080万円に達します。これに加えて、長期運用でデータ容量が逼迫した場合のストレージ増設費用として、10GBあたり月額1,000円程度の追加オプション費が発生するのが一般的です。ユーザー課金型である点はBIツールと共通しており、利用者数の増加が費用に直結することを念頭に置いておく必要があります。

オンプレミス/自社運用の保守費用と隠れた人件費

一方、グループウェアをオンプレミス型のパッケージで導入する場合や、OSS・フルスクラッチで自社運用する場合は、コスト構造がまったく異なります。オンプレミス型のパッケージでは、導入時に数十万円から数百万円のライセンス費用(例として100ユーザーで50万円程度)がかかり、さらに次年度以降は購入費用の約20%に相当する年間サポート保守費用がランニングコストとして発生します。加えて、OSSやフルスクラッチで自社運用する場合には、サーバー構築、バックアップ、セキュリティ対策などをすべて自社で行う必要があり、それを担う専任エンジニアの人件費が発生します。この人件費こそが、見積書には現れにくい最大の隠れコストです。クラウド型SaaSであれば、サーバーの構築やメンテナンス、バージョンアップやセキュリティアップデートはすべてベンダー側が行い、その費用は基本の月額料金に含まれるため、専任エンジニアの人件費はかかりません。導入形態を選ぶ際は、目に見えるライセンス費だけでなく、自社が抱えることになる運用の手間と人件費まで含めて総額で比較することが、正しい判断につながります。なお、社内定着のためにベンダーへ初期設定・構築支援を依頼すると一括で1万円から5万円程度、社員向けの研修を依頼すると1回2時間あたり5万円から6万円程度の費用がかかる場合があります。

規模別に見る年間ランニングコストのモデルケース

規模別に見る年間ランニングコストのモデルケース

ここまで見てきた費用項目を組み合わせると、情報系システムの年間ランニングコストがどの程度になるのか、規模別のイメージがつかめます。あくまで一つのモデルケースですが、予算計画の出発点として参考にしてください。

小規模なデータ活用システムの年間コストモデル

単一のデータソースを連携し、営業部門など特定の業務に絞ってダッシュボードを運用する小規模なケースを考えてみます。初期開発費を200万円程度としたとき、稼働後の年間ランニングコストは、BIツールのライセンス(数名分で月額数万円程度)、クラウド基盤の従量課金(月額数万円程度)、データ品質管理(月額5万円程度)を合計しても、月額十数万円、年間で150万円から250万円程度に収まることが多くなります。これはおおむね初期費用と同程度から1.2倍程度の水準で、TCOにおける運用比率の高さを実感できる数字です。小規模であっても「作った後に毎年これだけかかる」という前提を持っておくことで、単年度の初期投資だけを見て意思決定してしまう失敗を避けられます。まずはこの規模で立ち上げ、効果を確認しながら段階的に広げていくのが、コスト面でも堅実な進め方です。

全社データ基盤・グループウェア併用時のコストモデル

複数部門が横断的に利用する全社データ基盤に、予測分析やグループウェアを併用する規模になると、コストの構造は一段複雑になります。初期開発費が1,500万円規模の全社データ基盤であれば、改修・追加要件の予算枠だけで年間150万円から300万円(初期費の10%から20%)、これにBIツールのライセンスが全社展開で膨らんで月額数十万円、クラウド基盤の従量課金が月額20万円から30万円、予測モデルのチューニングが月額10万円から30万円、さらにデータエンジニアやアナリストといった運用人件費が加わります。加えてグループウェアを500名規模で併用すれば、前述の通り3年で約1,080万円のライセンス費が別途発生します。こうした複合的なコストを合算すると、大規模な情報系システムの年間ランニングコストは、データ活用系だけでも数百万円から一千万円超に達することも珍しくありません。だからこそ、規模が大きくなるほど、次章で述べるライセンス設計や内製化によるコスト最適化の重要性が増していきます。

情報系システムの保守運用費用を最適化する実務ポイント

情報系システムの保守運用費用を最適化する実務ポイント

情報系システムのランニングコストは、放置すれば膨張しやすい一方、勘所を押さえれば無駄を抑えながら効果を最大化できます。ここでは、費用の膨張を防ぐための具体的な実務ポイントを二つの観点から整理します。

ライセンス膨張とクラウド従量課金の膨張を防ぐ

情報系システムのランニングコストが読みにくいのは、ユーザー課金と従量課金という「使えば使うほど増える」料金体系に起因します。この膨張を防ぐには、まず利用者の権限とアカウントを定期的に棚卸しし、閲覧するだけのユーザーには安価な閲覧専用ライセンスを割り当てるなど、役割に応じたライセンス設計を行うことが有効です。BIツールでは、全員に高機能なライセンスを付与するのではなく、実際にレポートを作成する少数のユーザーと、結果を閲覧するだけの多数のユーザーを区別することで、費用を大きく抑えられます。クラウド基盤の従量課金については、重い抽出処理や非効率なクエリがないかを定期的に点検し、不要になった古いデータを適切に整理・退避することで、無駄なコストを削減できます。全社展開でユーザー数が数十人から数百人規模になり、SaaSのライセンス費が月額数十万円以上に膨らむようであれば、後述するフルスクラッチや自社アプリ化によってユーザー課金を回避する選択肢も検討に値します。いずれにせよ、コストを「見える化」し、定期的に点検する運用習慣を持つことが、膨張を防ぐ最も確実な方法です。

内製運用体制と定着支援・教育のコストの考え方

情報系システムの保守運用費用で見落とされがちなのが、システムを維持し現場に定着させるための「人や組織のコスト」です。データ活用系のシステムを安定して回すには、業務部門と開発の橋渡しをするプロジェクトマネージャー、データの抽出・加工基盤を維持するデータエンジニア、KPI設計を担うアナリストといった運用担当者が必要になります。これらを外部にすべて委託すると継続的な委託費がかさむため、中長期的には一部を内製化し、社内に運用ノウハウを蓄積していく方が、コストとスピードの両面で有利になるケースが多くあります。あわせて重要なのが、現場のユーザーにデータを活用してもらうための教育・定着コストです。せっかく高機能なダッシュボードを構築しても、現場が使いこなせなければ投資は回収できません。マニュアルの整備や研修費用、新しい業務プロセスに慣れるまでの一時的な生産性低下も、TCOの一部として見込んでおく必要があります。目安として、システム開発費用の10%から15%を定着支援やリテラシー研修に確保しておくことが推奨されます。ツールへの支出だけでなく、それを使いこなす人への投資まで含めて予算を設計することが、情報系システムの保守運用を成果に結びつける鍵になります。

まとめ

情報系システム開発の保守・運用費用・ランニングコストのまとめ

情報系システムの保守運用費用は、基幹系システムの「安定稼働・障害対応・法改正対応」という守りの保守とは対照的に、KPIの追加やダッシュボード改善を続ける「攻めの保守」であり、保守費をゼロにすることは現実的ではありません。TCOは初期開発が約20%、運用が約80%という構造で、データ活用系ではBIツールのユーザー課金(月額数万〜数十万円以上)、クラウド基盤の従量課金(月額数万〜30万円程度)、データ品質管理(月額5万〜15万円)、改修枠(年間で初期費の10〜20%)、予測モデルのチューニング(月額10万〜30万円)が発生します。情報共有系のグループウェアは1ユーザー月額600円前後が中央値で、オンプレは購入費の約20%の年間保守費と自社運用の人件費がかかります。ユーザー課金と従量課金の膨張を防ぎ、内製運用体制と現場定着への投資(開発費の10〜15%)まで含めて中長期の予算を設計することが、情報系システム投資を成果に結びつける鍵です。本記事が、情報系システムの現実的なコスト計画の一助となれば幸いです。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。