ITシステムの障害対応をどう構えるかを決めるとき、多くの情報システム担当者が迷うのは「自社の社員でやるべきか、外部に委託すべきか」「月額固定で頼むか、使った分だけ払うか」「努力目標のSLAで十分か、保証型まで求めるか」といった、いくつもの二者択一です。それぞれにメリットとデメリットがあり、正解は企業の規模や事業の性質によって変わります。判断軸を持たないまま選ぶと、過剰投資にも、いざというときの守りの薄さにもつながります。
本記事は、ITシステム障害対応の構え方をめぐる主要な選択について、メリット・デメリットと判断基準を整理する「比較・判断特化」の内容です。内製と外部委託(MSP/SOC)、月額固定型と従量課金型、努力目標型SLAと保証型SLA、OSS監視とSaaS監視という四つの分かれ道について、費用相場やSLA実値の一次データを交えて、どんな企業にどちらが向くかを具体的に解説します。障害対応・監視の全体像をまだ把握していない方は、まずITシステム障害対応の完全ガイドから読むことをおすすめします。
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・ITシステム障害対応の完全ガイド
内製と外部委託のメリット・デメリット

もっとも根本的な分かれ道が、障害対応・監視を自社の社員でやる内製か、MSP(マネージドサービスプロバイダー)やSOCに任せる外部委託かです。両者は一長一短で、企業の規模やシステムの重要度によって最適解が変わります。それぞれの利点と弱点を、特に24時間365日の体制づくりという観点から見ていきます。
内製のメリットと24時間体制の人件費という壁
内製のメリットは、自社システムへの理解が深く、業務文脈を踏まえた柔軟な対応ができる点です。社員なら障害の優先順位を事業観点で判断でき、ノウハウも社内に蓄積されます。一方で最大のデメリットは、24時間365日の体制を組もうとすると人件費が一気に膨らむことです。監視オペレーターの人月単価は60万〜80万円が一般的で、夜勤を含むシフトを回すには複数名が必要になり、年間で数千万円規模の固定費になります。
もう一つの内製のデメリットが、属人化のリスクです。少人数で回していると、対応ノウハウが特定の社員に偏り、その人が休んだり退職したりすると体制が崩れます。手順書の整備や育成に投資できる体力があれば内製の良さが活きますが、ひとり情シスのような体制では現実的に難しいのが実情です。内製は「自社システムへの深い理解」という強みと引き換えに、「24時間体制の人件費」と「属人化」という二つの重い負担を抱える選択だと理解しておく必要があります。
外部委託のメリットとROIの計算の仕方
外部委託のメリットは、24時間体制を固定費の重さなしに手に入れられる点です。MSPやSOCに委託すれば、夜間緊急対応で月10万〜20万円、営業時間内対応で月3万〜8万円といった費用で、専門チームの常時監視が得られます。SOCの例ではCEC SOCが月30万〜(1,000台規模)、SHIFTのSOC運用支援が月9万〜(シルバー)といった料金体系があり、自社で同等の体制を内製する数千万円と比べれば大幅に安く済みます。担当者の体調や退職に左右されない安定性も魅力です。
外部委託の判断は、ROIを具体的に計算すると見えてきます。内製した場合の人件費(夜勤要員を含む年間数千万円)と、委託した場合の年間費用(月20万円なら年240万円)を比較し、さらに委託によって防げるダウンタイム損失を加味します。総務省の調査が示す1回1,200万円の機会損失を一度でも防げれば、委託費用は容易に回収できます。一方、委託のデメリットは、自社システムへの理解が委託先頼みになり、ノウハウが社内に残りにくい点です。重要なのは、丸投げではなく、自社が判断すべき部分は残しつつ、定型的な監視や夜間対応を委託する役割分担を設計することです。
現実的には、内製か委託かの二択ではなく、両者を組み合わせるハイブリッドが最適になることが多いものです。日中の業務に密着した一次判断は自社の社員が担い、夜間・休日の監視と一次対応は外部に預ける、という分担であれば、内製の「理解の深さ」と委託の「24時間カバー」を両取りできます。どこを自社で握り、どこを外に出すかは、システムの重要度や社内人材のスキルによって変わります。内製と委託は対立するものではなく、自社の状況に合わせて配分を決めるグラデーションだと捉えると、判断がしやすくなります。
月額固定型と従量課金型の判断基準

委託すると決めた後に迷うのが、契約形態を月額固定型にするか、実働・従量課金型にするかです。これは障害の発生頻度や予算の組み方によって最適解が変わります。待機費の有無という観点が、判断の中心になります。
月額固定型は安心料、待機費は本当に無駄か
月額固定型のメリットは、予算が立てやすく、障害が多発した月でも費用が変わらない安心感です。デメリットとしてよく挙げられるのが、障害がゼロの月でも一定の待機費を払う点です。「何も起きていないのに毎月払うのは無駄では」という本音を持つ担当者は少なくありません。しかし、待機費は「いつでも即応できる体制を確保しておくための保険料」であり、障害が起きてから探し始めるのでは間に合わないことを考えれば、必ずしも無駄ではありません。
この待機費への納得感を高める一つの考え方が、余剰工数を有効活用する発想です。障害がない月の余った工数を、監視のしきい値見直しや手順書の改善、小さな機能改修などに振り替えられる契約であれば、待機費は「保険」と「改善投資」の二役を果たします。月額固定型を選ぶなら、こうした余剰工数の使い道まで委託先とすり合わせておくと、固定費が前向きな投資に変わります。安定したシステムで障害頻度が読みにくい場合は、月額固定型の安心感が活きる場面が多いと言えます。
従量課金型が向く企業と向かない企業
従量課金型(実働課金型)のメリットは、障害がなければ費用が抑えられ、使った分だけ払える点です。スポット対応であれば1件3万〜10万円といった料金で、障害が起きたときだけ依頼できます。稼働量に波があり、障害頻度が低い中小企業にとっては、待機費を払わずに済む従量課金型が合理的なことがあります。普段は自社で軽い監視をしつつ、手に負えない障害だけスポットで専門家に頼む、という使い方です。
一方で、従量課金型のデメリットは、障害が頻発すると月額固定型より高くつくこと、そして緊急時に必ず即応してもらえる保証がない点です。スポット契約では、依頼してから対応者が確保されるまでに時間がかかることもあり、復旧の速さが事業に直結するシステムには不向きです。判断基準としては、「障害頻度が低く、多少の復旧遅れを許容できる」なら従量課金型、「障害時の即応が事業継続に不可欠」なら月額固定型が向きます。自社のシステムの重要度と障害の起きやすさを天秤にかけて選ぶのが定石です。
もう一つの判断材料が、自社の過去の障害実績です。直近1〜2年で障害が何件発生し、それぞれの対応にどれだけ工数がかかったかを集計すれば、月額固定型と従量課金型のどちらが安く済むかを試算できます。年間の障害対応工数を従量課金の単価で掛けた金額が、月額固定の年額を下回るなら従量課金型が、上回るなら月額固定型が経済的です。感覚で「うちは障害が少ないから従量で」と決めるのではなく、実績データに基づいて損益分岐点を出すことが、後悔しない契約形態選びにつながります。
努力目標型SLAと保証型SLAの選び方

SLAには、「目標として掲げるが未達でもペナルティはない」努力目標型と、「未達時にサービスクレジット等の補償が伴う」保証型があります。どちらを選ぶかで費用も安心感も変わります。事業影響度に応じた選び分けが判断の鍵です。
稼働率99.9%と99.99%、どちらを選ぶか
稼働率の水準選びは、費用とのトレードオフです。99.9%なら年間8.76時間・月43.8分の停止が許容されますが、99.99%にすると年52.6分・月4.38分まで縮みます。この差を実現するには冗長構成や監視を一段強化する必要があり、運用コストは段階的に跳ね上がります。判断基準は単純で、「数分の停止も許されないシステムか、半日止まっても致命的でないシステムか」です。すべてに99.99%を求めるのは過剰投資の典型です。
多くの企業で起きがちなのが、「念のため」高い稼働率を全システムに設定してしまう過剰SLAです。これを適正化するには、システムごとに停止時の事業影響を評価し、本当に高可用性が必要なものだけに99.99%を割り当てる仕分けが有効です。情シスがビジネス部門を説得してSLAを適正な水準に下げられれば、その分の保守費を削減できます。稼働率の選択は、技術判断であると同時に、事業影響度に基づく経営判断でもあるのです。
ビジネス部門への説得には、許容停止時間の具体的な数字を見せるのが効果的です。99.9%なら月43.8分、99.99%なら月4.38分という差を示し、「この10倍の可用性に、これだけの追加費用を払う価値があるか」を一緒に検討します。多くの場合、業務システムであれば99.9%でも十分という結論になり、過剰だった分の保守費を別の投資に回せます。SLAの判断は情シス単独で抱え込まず、事業部門と数字を共有して合意形成することが、納得感のある最適化につながります。
保証型SLAのコストと費用対効果
保証型SLAのメリットは、未達時にサービスクレジット(料金の一部返金)などの補償があるため、委託先に実効性のあるプレッシャーがかかり、品質が担保されやすい点です。デメリットは、その保証を提供するために委託先がリスクを織り込むぶん、費用が努力目標型より高くなることです。判断基準は、停止1回あたりの損失額です。総務省の調査では金融・医療・EC系で5分以上の停止1回あたり平均1,200万円の機会損失とされており、これほどの損失が出るシステムなら、保証型の追加費用は十分に見合います。
ただし注意したいのは、サービスクレジットは実損を全額カバーするものではない点です。多くの契約では返金は支払った料金の範囲内にとどまり、間接損害は免責されるのが一般的です。つまり保証型SLAは「損失の補填」ではなく「品質を守らせる仕組み」と捉えるべきです。判断としては、復旧の速さそのものが事業を左右する基幹システムには保証型を、止まっても損失が限定的な社内システムには努力目標型を、と使い分けるのが現実的です。SLAの型は、補償の有無ではなく、品質をどこまで強制したいかで選ぶのが本質です。
保証型SLAを契約する際は、その達成状況がきちんと計測・報告される仕組みがあるかも確認しましょう。保証を掲げていても、稼働率や復旧時間の実績が可視化されなければ、未達かどうかすら判断できません。月次レポートでSLAの達成率が報告される契約であれば、保証は実効性を持ちます。保証型の価値は、補償金額そのものよりも、達成状況が見える化され、委託先に品質を維持する継続的なプレッシャーがかかる点にあると理解しておくとよいでしょう。
OSS監視とSaaS監視の判断基準

監視基盤を整えるときの分かれ道が、OSSのZabbixを自社運用するか、Datadog・New Relic・Mackerelといったクラウド型(SaaS)を従量課金で使うかです。初期費用とランニングコスト、運用工数のバランスで判断が分かれます。
Zabbixの無料という魅力と運用工数のコスト
ZabbixはOSSでライセンスが無料という大きなメリットがあります。ツール費用がかからないため、台数が多い環境ほど従量課金型より安く済む可能性があります。しかしデメリットとして、構築と維持に相応の工数がかかります。サーバーの用意、初期設定、バージョンアップ、障害時の自己解決まで、すべて自社で抱えるため、その人件費を加味すると「無料」とは言い切れません。社内に運用できる技術者がいて、台数が多く長期で使う前提なら、Zabbixのコストメリットが活きます。
判断基準は、自社に監視基盤を運用できる人材がいるかどうかです。技術者がいなければ、無料のはずのZabbixが「誰も保守できない塩漬けシステム」になりかねません。オンプレミス中心で、自社の要件に合わせて細かくカスタマイズしたい場合はZabbixの柔軟性が魅力ですが、その自由度を使いこなす体制が前提になります。OSSは「安い」のではなく「自社で運用する力があれば安くなる」選択肢だと理解しておくことが重要です。
ZabbixのようなOSSを自社運用するなら、構築・維持を担う人件費を正しく見積もりに織り込むことが欠かせません。サーバーの監視設定だけでなく、Zabbix自身の死活も誰かが見る必要があり、運用が回らなければ「監視しているつもりで監視できていない」最悪の状態に陥ります。無料という言葉に引かれて選んだ結果、保守できる人材が不在で形骸化するのは典型的な失敗です。OSS監視は、初期費用ゼロという見かけのコストではなく、運用を継続できる体制まで含めた総コストで判断すべきものだと心得ておきましょう。
SaaS監視の手軽さと従量課金の見極め
Datadog・New Relic・Mackerelといったクラウド型監視のメリットは、構築の手間がほとんどなく、短期間で高度な監視を立ち上げられる点です。豊富な機能やダッシュボードがすぐ使え、バージョンアップやインフラ保守はサービス側が担うため、運用工数を大きく削減できます。中規模ならホスト数やメトリクス量に応じた従量課金で月数万円から数十万円が目安です。社内に専任の運用人材がいない企業や、クラウドネイティブな構成では、SaaS監視の手軽さが大きな武器になります。
注意すべきは、従量課金の単価が監視対象の増加とともに膨らむ点です。ホスト数やメトリクス量が増えるほど月額が上がるため、大規模環境では想定以上のコストになることがあります。判断基準は、監視対象の規模と成長見込みです。小〜中規模で素早く立ち上げたいならSaaS監視、大規模で台数が多く運用体制も整っているならOSSのコストメリットを検討する、という切り分けが現実的です。両者は優劣ではなく、自社の人材・規模・成長段階に応じて選ぶべきものだと言えます。
実際には、最初はSaaS監視で素早く立ち上げ、規模が拡大して費用が膨らんできた段階でOSSへの移行を検討する、という進め方も有効です。立ち上げ初期は運用ノウハウも乏しく、SaaSの手軽さが効きますが、台数が一定を超えると従量課金の累積がOSSの運用工数を上回ることがあります。その損益分岐点を定期的に見直し、成長に合わせて監視基盤を乗り換える柔軟さがあると、コストを最適に保てます。監視ツールの選択は一度決めたら終わりではなく、事業の成長に応じて見直し続けるものだと捉えることが、長期的なコスト最適化の鍵になります。
まとめ

ITシステム障害対応の構え方は、内製か外部委託か、月額固定か従量課金か、努力目標型SLAか保証型か、OSS監視かSaaS監視か、という四つの分かれ道で決まります。内製は理解の深さと引き換えに24時間体制の人件費と属人化を抱え、外部委託は固定費を抑えつつROIで正当化できます。月額固定は安心料、従量課金は障害頻度が低い企業向き、保証型SLAは損失額の大きい基幹系向き、SaaS監視は人材が少ない企業向きと、いずれも事業影響度と自社の体制から逆算して選ぶのが原則です。
大切なのは、どの選択にも唯一の正解はなく、自社の規模・障害頻度・システムの重要度・運用人材の有無という条件で最適解が変わるということです。一次データの費用相場やSLA実値、損失統計を物差しにすれば、感覚ではなく数値で判断できます。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、システムを作った後の障害対応について、内製・委託の最適な役割分担からSLA設計までを伴走して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
