ITシステムの障害復旧を検討するとき、多くの情報システム担当者がまず知りたいのは「同じように基幹システムや業務システムを止められない企業が、実際にどうやって復旧体制を整え、どれだけダウンタイムを短くし、どのくらいの機会損失を防いだのか」という具体的な事例ではないでしょうか。障害復旧は、平常時には費用対効果が見えにくく、いざ大規模障害が起きてから「復旧に時間がかかりすぎた」「誰に何を報告すればいいのか分からなかった」と後悔する領域です。だからこそ、自社に近い業態・規模の導入事例・成功事例こそが、復旧体制への投資判断の精度を高めてくれます。
本記事は、ITシステム障害復旧の導入事例・開発事例・活用事例・成功事例を、発注企業(情シス)の視点から掘り下げる「事例特化」の解説です。夜間障害の火消し体制を立て直した事例、ひとり情シスが監視と一次対応を外部委託して復旧時間を短縮した事例、過剰なSLA(サービスレベル合意)を適正化しながら復旧力を維持した事例、クラウド基盤障害でユーザー側が手出しできず立ち往生した事例とその自衛策まで、一次データとあわせて具体的に解説します。なお、ITシステム障害復旧の全体像をまだ把握していない方は、まずITシステム障害復旧の完全ガイドから読むことをおすすめします。
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夜間障害の火消し体制を立て直した復旧事例

障害復旧の事例でもっとも切実なのが、夜間や休日に起きた障害をどう収束させるかという「火消し体制」の問題です。平日の日中であれば社内の担当者がそろっているため何とか対応できても、深夜にサーバーが落ちれば、誰が気づき、誰が判断し、誰が手を動かすのかが定まっていない企業は少なくありません。ここでは、属人化した夜間対応を仕組みに置き換え、復旧時間を大幅に短縮した事例を見ていきます。
属人化した深夜対応をMTTR短縮につなげた事例
ある中堅企業では、夜間にバッチ処理が異常終了するたびに、特定のベテラン担当者の携帯電話に連絡が入り、その人が自宅からVPNで接続して手作業で復旧する、という運用が常態化していました。この体制では、担当者が電話に出られない、体調を崩している、退職するといった事態が起きると、復旧そのものが止まります。実際、検知から復旧までの平均時間(MTTR)は数時間単位に膨らみ、翌朝の業務開始に間に合わないこともありました。
この企業が取り組んだのは、夜間障害の一次対応を外部の運用監視サービスに委託し、復旧手順を文書化(ランブック化)することでした。誰が対応しても同じ手順で初動が取れるようにし、自動復旧が可能なものはスクリプト化しました。結果として、検知から一次対応開始までの時間が大幅に縮まり、ベテラン担当者への深夜呼び出しは重大障害時に限定されました。一次データでは、24時間の緊急障害対応を外部委託した場合の費用は月額10万〜20万円が目安とされますが、夜間のMTTR短縮と担当者の疲弊解消を考えれば、十分に投資対効果が見込めた事例です。
エスカレーション経路を整備し報告遅延をなくした事例
夜間障害の立て直しでもう一つ重要だったのが、エスカレーション経路の整備です。復旧作業そのものが進んでいても、「経営層や業務部門への状況報告が遅れる」ことで、社内の混乱が拡大するケースがあります。この企業では、障害のレベルを軽微・中・重大の三段階に分け、それぞれで「誰が・何分以内に・誰に報告するか」を明文化しました。重大障害であれば、一次対応と並行して情シス責任者から経営層へ第一報を入れる、という流れを固定したのです。
一次データでも、官公庁の保守仕様では「1時間以内に障害の内容と予想作業時間を報告する」といった初報応答の時間要件が定められている例があります。事例企業もこれに倣い、復旧の見込みが立たない段階でも「いつまでに次の報告をするか」だけは必ず伝えるルールにしました。これにより、業務部門が「いつ復旧するのか分からない」という不安に陥る時間が減り、障害そのものより報告の不在が信頼を損なう、という事態を防げました。復旧体制は技術だけでなく、報告とエスカレーションの設計まで含めて初めて機能することを示す事例です。
ひとり情シスが復旧を外部委託で支えた事例

中小企業に多いのが、情報システム部門が実質一人、いわゆる「ひとり情シス」という体制です。この状況では、その一人が休んだり退職したりした瞬間に、障害復旧の知見が会社から消えてしまいます。ここでは、ひとり情シスが監視と障害復旧を外部に委託し、自社は重要な意思決定に集中できる体制へ移行した事例を取り上げます。
監視と一次復旧の委託で属人化リスクを解消した事例
この企業のひとり情シス担当者は、日中は社内の問い合わせ対応に追われ、夜間や休日もシステムの異常がないか気が休まらない状態が続いていました。障害が起きれば原因調査から復旧まですべて自分一人で抱え、その手順は本人の頭の中にしかありませんでした。これは復旧スピードの問題であると同時に、事業継続の観点で大きなリスクでもあります。
解決策として採用したのが、24時間365日の死活監視とリソース監視、そして一次復旧対応を運用監視サービスへ委託する形です。一次データでは、運用・監視サービスの相場は月額5万〜20万円、サービス会社の例としてサーバー監視5,000円/台・障害対応10,000円/台・フルマネージド20,000円/台といった料金体系が示されています。事例企業は、まず重要度の高いサーバーだけを対象に部分委託でスモールスタートし、効果を見ながら範囲を広げました。これにより、ひとり情シスは障害の一次切り分けから解放され、復旧手順も委託先と共有することで属人化が解消されました。
復旧手順書を委託先と共有し再現性を高めた事例
外部委託を成功させた決め手は、「丸投げ」にしなかった点です。委託先に任せきりにするのではなく、自社システムの構成図、過去の障害履歴、復旧手順書(ランブック)を整備し、委託先と共有しました。これにより、どの担当者が対応しても同じ品質で初動が取れる再現性が確保されました。委託先が一次対応で復旧できる範囲と、自社のひとり情シスにエスカレーションする範囲の線引きも、事前に明確にしておきました。
この線引きこそが、外部委託の費用と復旧品質のバランスを決めます。基本料金に含まれる対応範囲を曖昧にしたまま契約すると、いざ障害が起きたときに「それは追加費用の作業です」と言われ、復旧が止まる事態にもなりかねません。事例企業は、契約時に「どこまでが一次対応の範囲で、どこからがスポット対応(1件3万〜10万円が目安)になるか」を文書で確認していました。ひとり情シスが外部委託で復旧を支えるには、手順の共有と範囲の明文化が両輪である、と教えてくれる事例です。
過剰SLAを適正化し復旧コストを削減した事例

障害復旧の事例では「とにかく早く・確実に復旧する体制を厚くする」方向だけでなく、「過剰になっていた復旧目標を適正化してコストを下げる」という逆方向の成功もあります。すべてのシステムに最高水準の復旧時間を求める必要はなく、事業への影響度に応じてメリハリをつけることで、無駄な待機費を削減できます。ここでは、SLAの適正化でコストを削減した事例を見ていきます。
稼働率99.99%を見直して待機費を削減した事例
ある企業では、社内向けの情報系システムにまで稼働率99.99%という高水準の復旧目標を設定し、相応の保守費用を払い続けていました。しかし一次データを見ると、稼働率99.9%は月あたり許容ダウンタイム43.8分であるのに対し、99.99%は月4.38分と桁違いに短く、「9」が一つ増えるごとに運用コストが段階的に跳ね上がります。社内向けで多少の停止が許容できるシステムにまで99.99%を求めるのは、明らかに過剰でした。
この企業は、システムを事業影響度でランク分けし、売上やコンプライアンスに直結する基幹系は高い復旧目標を維持しつつ、停止しても代替手段で業務が回る社内システムは復旧目標を緩和しました。結果として、過剰だった待機費・監視費を削減し、その分を本当に止められない基幹系の復旧体制強化へ振り向けられました。復旧力を一律に高めるのではなく、影響度に応じて配分し直す、という発想の転換が成果につながった事例です。
削減分を基幹系の復旧投資へ振り替えた事例
SLA適正化の事例で見落としてはいけないのが、社内の調整プロセスです。復旧目標を下げるという話は、業務部門からすれば「うちのシステムは軽視されるのか」と受け取られかねません。事例企業では、情シスが各システムの事業影響度を「停止1時間あたりいくらの機会損失が出るか」という金額ベースで可視化し、業務部門と合意形成を図りました。総務省の2025年版資料では、金融・医療・EC系で5分以上の停止1回あたり平均1,200万円の機会損失という統計もあり、こうした数値は影響度の議論を客観化するのに役立ちます。
影響度を金額で示したことで、業務部門も「この社内システムは止まっても直接の損失は小さい」と納得し、復旧目標の緩和に合意できました。そして削減できた費用は、止まれば本当に1,200万円規模の損失が出る基幹系の冗長化やバックアップ復旧体制へ振り替えられました。障害復旧の投資は、闇雲に厚くするのではなく、影響度に応じて最適配分することで全体の事業継続性を高められる、という好例です。コストを「守りの一律支出」から「攻めのメリハリ投資」へ変えた点が、この事例の本質だと言えます。
充填型保守で待機費を改善開発に転換した事例
SLA適正化と並行して、この企業がもう一つ取り組んだのが、保守費の「投資化」です。障害が起きない月の待機費は、経営層から見れば「何もしていないのにお金を払っている」ように映り、毎年の予算交渉で削減圧力にさらされていました。情シスとしては、いざというときの備えを残したい一方で、平常月の費用の説明に苦慮していたのです。この板挟みが、障害復旧の予算を毎年不安定にしていました。
そこで採用したのが、障害対応の余剰工数を新機能開発や改善作業へ振り替える充填型保守の契約モデルです。障害がない月は、確保した工数を使ってシステムの改善や小さな機能追加を進めることで、待機費が「使われない保険料」ではなく「システムを育てる投資」に変わりました。これにより、経営層への説明も「障害に備えつつ、平常月もシステムを進化させている」という前向きなものになりました。riplaはフルスクラッチ受託と国内運用保守の立場から、この余剰工数を改善開発へ充てる伴走型を重視しており、障害復旧を単なるコストで終わらせない契約設計が、長期的な費用対効果を高める鍵だと考えています。
クラウド基盤障害に自衛策で備えた復旧事例

近年の障害復旧事例で増えているのが、クラウド基盤そのものの障害に巻き込まれるケースです。国内エンタープライズ・システム市場のクラウド比率は2022年で約5割(IDC Japan)に達し、多くの企業がクラウド上でシステムを動かしています。便利な一方で、基盤側の障害はユーザーが手を出せず、復旧を待つしかないという「監視のブラックボックス化」が新たな課題になっています。
マルチリージョン化で基盤障害からの復旧を実現した事例
あるEC事業者は、過去にクラウドの特定リージョンで大規模障害が発生した際、自社サービスが数時間にわたり停止し、復旧をクラウド事業者に委ねるしかありませんでした。サービスクレジット(利用料の一部返金)は受けられたものの、それは停止中の売上機会損失をまったく補うものではありませんでした。この経験から、同社は「基盤障害でも自社で復旧を主導できる」アーキテクチャへの見直しを決断しました。
具体的には、重要なシステムを複数のリージョンに分散配置(マルチリージョン化)し、片方のリージョンが障害でダウンしても、もう片方へ切り替えてサービスを継続できる構成に変えました。これにより、基盤障害そのものは防げなくても、その影響からの復旧を自社の判断で行えるようになりました。EC系の5分以上の停止が1回あたり平均1,200万円の損失につながる統計を踏まえれば、冗長構成にかかる追加コストは、十分に回収可能な保険だったと言えます。
BCPと連動した初動で混乱を防いだ事例
この事業者がもう一つ整えたのが、事業継続計画(BCP)と連動した障害時の初動です。クラウド基盤障害のように自社で復旧を急げない状況では、「いつまでに復旧しなければビジネスにどんな影響が出るか」を事前に定義し、復旧の見込みが立たない場合の代替運用へ切り替える判断基準を決めておくことが重要になります。事例企業は、一定時間以上の停止が続く場合は手動受注へ切り替える、顧客に告知ページを出すといった代替手順をBCPに組み込みました。
この準備があったことで、次にクラウド基盤の障害に直面した際も、現場はパニックにならず、復旧を待つ間も代替運用で最低限のビジネスを回せました。ベンダーやクラウド事業者に復旧を丸投げするのではなく、発注者(情シス)側が初動とBCP連動を主導したことが、損失を最小化した決め手です。クラウド時代の障害復旧は、技術的な冗長化と、止まったときの事業判断の両方を備えてこそ機能する、と示してくれる事例だと言えます。
まとめ

ITシステム障害復旧の事例を振り返ると、成功の共通項は「復旧を属人化させず、影響度に応じてメリハリをつけ、発注者側が初動とエスカレーションを主導する」という点に集約されます。夜間障害の火消し体制は外部委託とランブック化でMTTRを短縮でき、ひとり情シスは監視と一次復旧の部分委託で属人化リスクを解消でき、過剰なSLAは事業影響度の金額化で適正化して削減分を基幹系へ振り向けられます。さらにクラウド時代には、マルチリージョン化とBCP連動の初動で、基盤障害からの復旧を自社で主導する備えが欠かせません。
事例を読むときに大切なのは、「どれだけ復旧体制にお金をかけたか」ではなく、「止まったときに事業をどう守れる設計になっているか」という視点です。総務省の統計が示す停止1回あたり1,200万円という損失規模を自社に当てはめ、まずは止められないシステムの復旧手順の文書化と一次対応の体制づくりから着手してください。riplaはフルスクラッチ受託と国内運用保守を組み合わせ、作った後も伴走しながら、障害復旧を「コスト」ではなく「事業継続の投資」として設計する支援を一貫して行っています。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
