IT人材不足の企業がもっともつまずきやすいのが、外部に開発を頼みたいのに「何をどう頼めばいいのか分からない」という入り口の壁です。社内にエンジニアがいないため、業務の課題を技術的な要件に翻訳できず、ベンダーに丸投げした結果、できあがったものが想定と違う。この悲劇の多くは、要件定義やRFP(提案依頼書)の段階を軽視したことに端を発します。経済産業省の推計で2030年に最大約79万人が不足するとされるなか(出典:経済産業省)、人材がいない企業ほど、この上流工程を外部の力を借りてでも丁寧に進める必要があります。
本記事は、IT人材が社内にいない非IT企業の担当者でも、業務課題をRFP・要件定義書に落とし込めるよう、具体的なフレームと手順を解説します。RFPに盛り込むべき項目、ベンダーを見極める目利きの基準、そして生成AIを要件整理の壁打ち相手として使う方法まで、実務に直結する形で掘り下げます。この上流をしっかり固めることが、外部活用を成功させ、人材不足のなかでもデジタル化を前に進める最大の鍵になります。なお、IT人材不足対策の全体像をまだ把握していない方は、まずIT人材不足開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。
業務課題を要件に翻訳する非IT人材のフレーム

IT人材がいない企業が要件定義に向き合うとき、最初の心理的な壁は「自分には技術が分からない」という思い込みです。しかし、要件定義の本質は技術仕様を書くことではなく、業務の困りごとと、こうありたいという姿を明確にすることにあります。技術への翻訳は外部の専門家が担えます。発注側がやるべきは、業務を最もよく知る立場として、課題を正確に言語化することです。
現状と理想を書き出すAsIs・ToBeのフレーム
非IT人材でも使えるもっとも基本的なフレームが、現状(AsIs)と理想(ToBe)を書き出す方法です。まず、いまの業務がどう回っているかを、誰が、いつ、何を使って、どんな手順でやっているかという具体性で書き出します。次に、その業務でどこに時間がかかり、どこでミスが起き、何に困っているかを洗い出します。最後に、これがどうなれば理想か、というToBeの姿を描きます。この三つを書き出すだけで、外部パートナーに伝えるべき要件の骨格ができます。
大切なのは、ここで解決策(どんなシステムを作るか)を急いで決めないことです。「在庫管理システムが欲しい」と手段から入ると、本当に解くべき課題を見失います。「在庫の食い違いで月に何度も発注ミスが起きている」という課題から書き出せば、外部の専門家がそれに最適な手段を提案できます。手段ではなく課題を言語化する。この順序が、人材不足の企業が要件定義で外さない第一歩です。各打ち手がどんな役割を果たすかを把握しておくと要件整理が進めやすくなるので、関連記事の『IT人材不足の必要機能や標準機能の一覧について』もあわせてご覧ください。
要件を必須・優先・将来で分類する考え方
業務課題を洗い出すと、やりたいことが次々に出てきます。しかし、すべてを一度に実現しようとすると、費用も期間も膨らみ、人材不足の企業には手に負えなくなります。そこで有効なのが、要件を「必須」「優先」「将来」の三段階に分類することです。必須はそれがないと業務が回らないもの、優先はあると効果が大きいもの、将来は今回は見送るが次フェーズで検討するもの、と仕分けます。
この分類があると、限られた予算のなかで何を優先するかの判断ができ、ベンダーとの会話も明確になります。すべてを必須にすると見積もりが膨らみ、何を削れるか分からなくなりますが、優先度がついていれば「予算内に収めるために、この優先要件は次フェーズに回す」といった調整が可能です。人材不足の企業は、最初から完璧を目指すのではなく、必須要件で小さく始め、効果を見ながら優先・将来の要件を段階的に加えていくのが堅実です。要件の優先順位づけは、限られたリソースを最大限に活かす知恵だと言えます。
RFPに必ず盛り込むべき項目と書き方

RFP(提案依頼書)とは、発注側が「こういう課題を解決したいので、提案してください」とベンダーに渡す文書です。RFPがあると、複数のベンダーを同じ前提で比較でき、各社の提案力や相性を見極められます。逆にRFPなしで口頭だけで頼むと、各社がばらばらの前提で見積もりを出し、比較も交渉もできません。人材不足の企業こそ、このRFPで土俵を整えることが、外部活用を成功させる要になります。
背景・目的から評価基準までの必須項目
RFPに最低限盛り込むべき項目は、おおむね決まっています。
1. 背景・目的:なぜこのプロジェクトを行うのか、事業上の狙い
2. 現状の課題:いま何に困っているか(AsIsと困りごと)
3. 実現したいこと:どうなりたいか(ToBeと必須・優先・将来の要件)
4. 予算・納期:おおよその予算感と希望スケジュール
5. 体制・役割分担:発注側と受注側で誰が何を担うか
6. 評価基準:どんな観点で提案を評価し、何を重視するか
これらを埋めれば、専門知識がなくても、ベンダーが提案に必要な情報がそろいます。
とくに見落とされがちなのが、予算感を明示することです。「いくらかかるか分からないので空欄」にすると、ベンダーは見当違いの規模で提案してしまいます。正確な金額でなくても、「この範囲で実現したい」という予算のレンジを示すだけで、提案の精度は大きく上がります。また評価基準を明記すると、ベンダーは何を訴求すればよいかが分かり、提案の質が高まります。RFPは完璧な技術文書である必要はなく、業務の言葉で課題と狙いを伝える文書で十分だ、と理解しておくことが大切です。
見落としやすい非機能要件の書き方
RFPで初心者がもっとも見落とすのが、非機能要件です。これは「どんな機能を作るか」ではなく、「どれくらいの速さで動くか」「同時に何人が使うか」「障害時にどこまで止まってよいか」「セキュリティはどの水準か」といった、品質や性能に関わる要件です。機能要件ばかりに気を取られて非機能要件を書き忘れると、リリース後に「遅くて使えない」「アクセスが集中すると落ちる」といった問題が噴出します。
非機能要件は専門的に見えますが、非IT人材でも業務の言葉で書けます。「繁忙期には同時に50人が使う」「夜間にシステムが止まると翌日の業務に支障が出る」「顧客の個人情報を扱うので情報漏えいは絶対に避けたい」といった、業務上の制約や前提を書けば、外部の専門家がそれを技術的な非機能要件に翻訳してくれます。ここでも発注側がやるべきは技術の翻訳ではなく、業務の実態を正確に伝えることです。非機能要件を業務の言葉で伝えておけば、後の大きなトラブルを未然に防げます。
ベンダーを見極める目利きの基準

RFPに対して複数のベンダーから提案が返ってきたら、次は目利きの番です。社内にIT人材がいないと、技術的な巧拙を評価するのは難しく感じますが、見るべきポイントは技術の細部ではなく、提案の姿勢と相性です。人材不足の企業にとって、つくって終わりではなく自走を支援してくれるパートナーを選べるかが、その後を大きく左右します。
課題を理解しているかで提案を評価する基準
良いベンダーの提案は、RFPに書いた課題を正しく理解し、それに対する解決策を自分の言葉で語っています。逆に注意すべきは、課題の理解に踏み込まず、自社の製品や技術の説明に終始する提案です。こちらの業務をろくに聞かずに「うちのパッケージで解決できます」と言ってくるベンダーは、要件のミスマッチを起こしやすく、人材不足の企業には不向きです。提案書を読むときは、技術用語の多さではなく、自社の困りごとをどれだけ自分ごととして捉えているかを見てください。
もう一つの目利きの基準が、ヒアリングの質です。良いベンダーは、提案前の打ち合わせで業務を深く掘り下げる質問をしてきます。「その作業は何のためにやっているのか」「例外的なケースはどう処理しているのか」といった質問をするベンダーは、現場の実態を理解しようとしている証拠です。質問が浅く、すぐに見積もりを出してくるベンダーは、後で「聞いていなかった」という手戻りを生みがちです。ヒアリングの深さは、そのベンダーが要件定義をどれだけ重視しているかの表れだと言えます。
ナレッジ移管と伴走の姿勢を確認する基準
人材不足の企業にとって決定的に重要なのが、ベンダーがナレッジ移管と導入後の伴走にどう向き合うかです。開発をブラックボックス化し、運用も改修もすべて自社に発注させ続けようとするベンダーもいます。一方で、ドキュメントを整え、運用の勘所を引き継ぎ、自社が自走できるよう支援してくれるベンダーもいます。社内にIT人材がいない企業ほど、後者を選ばないと、外部への依存が際限なく深まってしまいます。
この姿勢は、提案の段階で「導入後の運用や保守はどう支援してくれるのか」「ドキュメントや引き継ぎはどこまで含まれるか」と具体的に質問すれば見えてきます。曖昧にしか答えないベンダーは要注意です。riplaはフルスクラッチ受託と国内伴走の立場から、業務課題のヒアリングから要件への翻訳、そして導入後のナレッジ移管までを発注側と二人三脚で進めることを重視しています。目利きの本質は、技術力の評価以上に、「自社に何を残してくれるか」を見極めることにあります。
生成AIを要件整理の壁打ちに使う方法

IT人材がいない企業にとって心強い味方になるのが、生成AIです。要件整理の壁打ち相手として使えば、専門知識の不足を補い、要件の抜け漏れを減らせます。専門家がそばにいなくても、生成AIに問いかけながら考えを整理することで、RFPや要件定義書の質を一段高められます。ここでは、その具体的な使い方を見ていきます。
論点の洗い出しと抜け漏れチェックに使う方法
生成AIの壁打ちでまず効果的なのが、論点の洗い出しです。たとえば「在庫管理の業務をデジタル化したいが、要件定義で考えるべき論点を整理してほしい」と問いかければ、検討すべき観点が一覧で返ってきます。自分では思いつかなかった「在庫の単位はどう扱うか」「複数拠点の在庫をどう統合するか」といった論点に気づけます。これにより、要件の抜け漏れを大きく減らせます。
さらに、書きかけのRFPや要件のメモを生成AIに読ませ、「この内容で抜けている観点や、ベンダーが疑問に思いそうな点を指摘してほしい」と依頼すると、第三者の視点でチェックしてくれます。非機能要件の漏れや、予算と要件のバランスの矛盾など、専門家なら気づく点を補えます。生成AIを「自分の考えを壁打ちし、抜け漏れを潰す相手」として使うことで、人材不足の企業でも要件定義の精度を専門家に近づけられます。各打ち手の役割を整理した関連記事の機能編とあわせて使うと、論点の洗い出しがさらに具体的になります。
生成AIに頼り切らないための注意点
生成AIは強力な壁打ち相手ですが、頼り切るのは危険です。生成AIは自社の業務の細かな事情や、社内の人間関係、過去の経緯までは知りません。AIが出した一般論を、そのまま自社の要件として鵜呑みにすると、現場の実態とずれたものになります。AIの提案はあくまで「論点を広げ、抜け漏れを気づかせる」ためのものであり、最終的に何を要件とするかは、業務を知る人間が判断する必要があります。
もう一つ注意すべきは、情報の取り扱いです。要件整理の過程で、社外秘の業務情報や顧客情報を安易に生成AIに入力すると、情報漏えいのリスクがあります。利用するサービスのデータの取り扱いを確認し、機密情報は入力しないか、安全性が担保された環境で使うことが前提です。生成AIは、論点整理という上流の思考を助ける道具として使い、最終判断と機密管理は人が握る。この線引きを守れば、人材不足の企業にとって生成AIは要件定義の頼もしい補助輪になります。情報の取り扱いを誤った際のリスクは、関連記事の失敗・リスク編もあわせてご覧ください。
まとめ

IT人材がいない企業の要件定義・RFPを振り返ると、成功の鍵は「技術仕様を自分で書こうとせず、業務課題とToBeの姿を言語化し、それをRFPという土俵にまとめて複数ベンダーを同じ前提で比較する」ことに集約されます。要件は必須・優先・将来で分類して小さく始め、非機能要件も業務の言葉で伝える。ベンダーは技術の細部より課題理解とナレッジ移管の姿勢で選び、生成AIは論点整理の壁打ちに使う。この一連の流れを踏めば、専門知識がなくても外部活用を成功に導けます。
要件定義で大切なのは、「分からないから丸投げする」のではなく、「分からない部分は外部と協働しながら、業務課題の言語化と最終判断だけは自社で握る」という姿勢です。2030年に最大約79万人が不足するなか(出典:経済産業省)、人材がいない企業ほど、この上流工程を丁寧に進めることが、デジタル化の成否を分けます。riplaはフルスクラッチ受託と国内伴走を組み合わせ、業務課題のヒアリングから要件への翻訳までを二人三脚で支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
