IT運用保守のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

フルスクラッチ開発とは、既製のパッケージ製品やテンプレートを使わず、要件定義から設計・実装までをゼロから作り上げる開発手法です。

方式の違い、費用、向き不向き、進め方を押さえれば、自社に合う開発方針を選ぶ材料がそろいます。各テーマの詳しい内容は、関連記事でも確認できます。

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IT運用保守におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発の定義

フルスクラッチ開発は、既製のパッケージ製品やテンプレートを使わず、システムをゼロから作り上げる開発手法です。作る範囲は、要件定義から設計・実装まで全体に及びます。

オーダーメイド開発も、ほぼ同じ意味で使われる言葉です。どちらも、自社の業務フローや運用ルールに合わせたシステムを構築できる点が特徴です。

IT運用保守では、運用を支える仕組みがこの方式の対象になります。たとえば、監視ダッシュボードや障害対応の管理システム、社内向けの運用ポータルがあります。独自の自動化基盤も含まれます。

運用保守を外部に委託する場合は、既製の保守メニューを使うか、自社専用の体制を組んでもらうかを選ぶことになります。

フルスクラッチ/オーダーメイドのメリット・デメリット

最大の利点は、既製パッケージに収まらない独自業務や特殊な運用ルールを、そのままシステム化できる自由度です。さらに、自社のノウハウをシステムに反映すれば、他社との差別化や競争力強化にもつなげられます。

  • 利用料への依存を抑えられる:外部SaaSのユーザー数に応じた従量課金やライセンス料が発生しません。
  • 将来の拡張に対応しやすい:機能追加や、基幹システム・IoT機器との複雑なデータ連携にも柔軟に応じられます。
  • 初期投資と期間が大きい:数百万〜数千万円以上の費用と、半年から数年単位の開発期間が必要です。
  • 稼働後も専門知識が必要:バグ修正、OS・セキュリティ更新、機能改善は、自社または開発ベンダーが担います。
  • 要件の曖昧さがリスクになる:曖昧な要件は仕様変更(スコープクリープ)を頻発させ、予算超過や納期遅延につながりやすい点が、オーダーメイド特有の難しさです。

10年以上の長期利用を前提にすると、費用対効果が高くなるケースも多くあります。

運用保守の文脈でフルスクラッチが検討される場面

運用保守で開発方式を見直すのは、大きく2つの場面です。

  • 対象システムを刷新する:パッケージが業務に合わない場合や、肥大化したスクラッチの保守負担が重い場合が該当します。
  • 運用を支えるツールを選ぶ:監視基盤、障害管理システム、社内ポータルを、既製SaaSにするか自社専用に開発するかの選択です。

刷新では、パッケージ製品からフルスクラッチへ移すケースと、その逆に移すケースの両方があります。

どちらの場面でも、導入費だけでなく、長期的な保守・運用負担を含めたトータルコストで比べる必要があります。

ポイント

運用を支える仕組みを自社専用にするかは、既製の保守メニューで運用が回るかを基準に考えます。独自の運用ルールが強い場合ほど、自社専用の体制を検討する理由になります。

パッケージ製品・SaaS導入との違い

パッケージ・SaaSとフルスクラッチで、業務とシステムのどちらを合わせるかを左右に示した図。
選択の分かれ目は、業務を変えるかシステムを作り込むかです。

方式の根本的な違いは、システムに業務を合わせるか、業務にシステムを合わせるかです。この違いは、導入スピードやコスト、カスタマイズ性に影響します。

導入スピードと初期コストの差

導入時期と初期費用は、完成済みの機能を使うか、要件に合わせて一から作るかによって変わります。

  • パッケージ・SaaS:数週間〜数ヶ月で稼働でき、初期費用を抑えやすい方式です。
  • フルスクラッチ:要件定義から設計・実装・テストまでを順に進めるため、稼働まで数ヶ月から年単位かかります。
  • 段階的な導入:まずSaaSで最低限の仕組みを整え、必要な独自機能を後から開発する方法もあります。

たとえば、SaaSの初期費用は20万〜60万円程度で済むケースもあります。さらに、監視ツールや障害管理ツールも、SaaS型であれば契約後すぐに使い始められるのが一般的です。

「今すぐ運用の可視化を始めたい」といった緊急のニーズには、フルスクラッチは不向きです。

業務フローの変更とカスタマイズの限界

SaaSやパッケージでは、自社の業務を標準機能に合わせるFit to Standardが必要になる場合があります。そのため、パッケージ・SaaSを選ぶ際は、この影響を必ず確認しておく必要があります。

  • 運用手順の変更:独自手順を変えることで、現場の反発や教育コストが生じかねません。
  • 現場対応への影響:障害対応フローやエスカレーションルールを標準機能に無理に合わせると、対応が遅れることも考えられます。
  • 追加開発の複雑化:自社要件をアドオン(追加開発)で足すと、システムが複雑になり、四半期ごとの更新に対応できないリスクが残ります。
  • 保守負担の増加:バージョンアップ時にカスタマイズ部分との整合性を確かめる必要があり、導入時より費用がかさみがちです。

ポイント

パッケージやSaaSとの比較は、業務を標準機能に合わせられるかどうかと、導入までの期間や初期費用が許容できるかで考えます。業務の独自性が高いほど、フルスクラッチの検討余地が広がります。

開発期間・費用感の目安

小規模・中規模・大規模の3パネルに、本文の開発費用と期間の目安を並べた図。
規模が大きくなるほど、予算とスケジュールの幅も広がります。

フルスクラッチ開発費用の約8割は、エンジニアの人月単価と作業工数で決まります。

費用の見通しを立てるには、規模別の費用相場と開発期間、リリース後の保守費用の考え方を押さえることが役立ちます。

システム規模別の費用相場と開発期間

システムの規模によって費用相場と開発期間は大きく異なります。そのため、下の目安と照らし合わせて、企画段階の予算を考えることが大切です。

  • 小規模:簡易な業務管理、顧客管理、予約システムなど。費用は300万〜1,000万円、期間は1〜6ヶ月程度。
  • 中規模:会員管理、大規模EC、複雑な業務・生産管理システムなど。費用は1,000万〜5,000万円、期間は5〜12ヶ月程度。
  • 大規模:企業の基幹システム、大規模SaaS、AI活用システムなど。費用は5,000万円〜1億円以上、期間は12ヶ月〜2年以上。

人月単価の目安は、職種やスキルによって幅があります。2026年時点では、プロジェクトマネージャーが90万〜150万円です。

システムエンジニア(設計)は65万〜110万円、プログラマーは50万〜90万円程度です。

運用保守ツールの規模感も、対象範囲や連携するシステム数によって変わります。

企画段階で規模を見極めることが、予算計画の第一歩になります。

リリース後の保守・運用費用の見込み方

フルスクラッチで開発したシステムは、リリース後も保守・運用費用がかかり続けます。そのため、開発費と合わせて比べる必要があります。

  • 年間費用の目安:開発費用の15〜25%を、保守・運用費として見込みます。
  • 費用の計算例:開発費2,000万円の場合、年間300万〜500万円程度です。
  • 保守の対象:バグ修正、セキュリティパッチ、OS・ミドルウェア更新への追従のほか、軽微な機能改善も含まれます。
  • 契約の違い:パッケージ・SaaSは月額ライセンスにサポートが含まれることが多い一方、スクラッチは自社または開発ベンダーとの別契約が必要です。
  • 総額で比較する:初期費用の安さだけでパッケージ・SaaSを、自由度だけでスクラッチを選ぶと、数年後に想定外の負担が生じる場合があります。

TCO(総所有コスト)は、開発費用と保守費用の合計です。そのため、保守費用を含めて長期的に試算することが欠かせません。

ポイント

費用は開発費だけで判断せず、リリース後の保守費用を足したTCOで比べます。規模別の相場は目安として、企画段階の予算を組む材料にします。

フルスクラッチ開発が向いているケース・向いていないケース

フルスクラッチは、向き不向きがはっきりした方式です。力を発揮する場合と避けたほうがよい場合を、独自性や体制、予算に照らして判断しましょう。

フルスクラッチが向いているケース

独自業務が競争力の源泉になっていて、既製品では対応できない業務ノウハウをシステム化したい場合に適しています。

  • 独自業務を反映する:製造業の独自生産工程や、物流業の特殊な配送ルートなど。
  • 大規模連携・高負荷に対応する:基幹システム(ERP等)とのリアルタイム連携や、アクセス集中に耐えるECサイトなど。
  • セキュリティ・法規制要件が厳しい:医療・金融機関などで、個人情報保護、アクセス制御、監査ログの保持が求められる場合があります。

総合商社の例では、老朽化した基幹システムを約2年かけて刷新し、経営情報の迅速な把握と業務効率の大幅な改善を実現しました。

パッケージの標準機能で要件を満たせない場合には、作り込みが必要になることがあります。独自性が高く、高負荷や厳格な要件があるシステムでは、標準的な保守メニューで対応しきれず、専門的な保守体制が求められる傾向です。

フルスクラッチが向いていないケース

標準的な業務が中心の場合は、パッケージやSaaSを先に検討できます。

  • 既製品で代替できる:会計や人事給与など共通性の高い業務は、パッケージやSaaSの費用対効果が高くなります。
  • 課題が曖昧である:「今のSaaSが不便」「便利にしたい」だけでは、機能が肥大化して失敗する確率が高まります。
  • 予算や人材が限られる:社内PMなど、投資や開発後の運用・保守を担う人材がいない場合は、慎重な検討が必要です。
  • 保守の属人化が懸念される:専門人材が不足すると、担当者の異動や退職のあとに保守できなくなるリスクがあります。

ガートナーの2024年調査では、基幹系システム(ERP)の刷新プロジェクトの70%以上が失敗しているというデータがあります。

予算や人材が限られる中小企業は、最小限の機能から始められるローコード開発やSaaSを優先する方法があります。MVP(Minimum Viable Product)は、必要最小限の機能を指す言葉で、小さく始める選択肢の一つです。

ポイント

向き不向きは、独自業務が競争力の源泉か、既製品で代替できない業務かで判断します。課題がはっきりしないまま進めるのは、避けたいところです。

フルスクラッチ開発を成功させる進め方のポイント

要件定義における業務フロー、保守体制、関係者の認識という3つの確認項目を示すチェックリスト。
作る範囲と運用する人を先にそろえると、手戻りを減らせます。

適した方式を選んでも、進め方を誤ると、プロジェクトの炎上や基幹系刷新の失敗につながりかねません。

成功のためには、要件定義と発注方法の2つを押さえる必要があります。

要件定義を疎かにしないためのポイント

要件が曖昧なまま着手すると、フルスクラッチ開発で最も多い失敗原因になります。そのため、「何を作るか」だけでなく、「何を作らないか」も明確にしておく必要があります。

  • 業務フローを洗い出す:機能の優先順位を決め、初期リリースと後続フェーズに分けます。
  • 保守体制を想定する:開発の段階で、誰がどのように保守や改修を担うかを決めておきます。
  • 関係者の認識を合わせる:要件定義書と技術選定ドキュメントを丁寧に作り、発注者と開発ベンダーで共有することで、手戻りを防げます。

要望が開発の途中で積み重なると、スコープクリープ(開発範囲の際限ない拡大)を招き、予算超過や納期遅延につながります。

事前に保守体制を考えておけば、「作った人しか触れない」というリリース後の属人化リスクを減らせます。

段階的な発注・MVPからのスタートという選択肢

全機能を一度に作る代わりに、必要最小限の機能から段階的に発注する方法があります。

  • コア機能を先に構築する:実運用のフィードバックをシステムに反映しながら、機能を広げていきます。
  • 契約形態を使い分ける:要件が固まった部分は、完成まで約束する請負契約とし、変更が想定される部分やリリース後の継続改善は準委任契約で進めます。

段階的に開発すれば、大規模な初期投資を抑えながら、本当に必要な機能を見極められます。

運用保守ツールは、使ってみて初めて必要な機能が見えることもあります。そのため、段階的に育てる方針は、無駄のない投資につながりやすいといえます。

発注方法を決める際は、一括発注だけでなく段階的な進め方も選択肢に入れておくとよいでしょう。

ポイント

進め方では、要件定義で作らない範囲まで決められるかが鍵になります。決めきれない部分は、段階的な発注で切り分けて始める方法もあります。

まとめ

フルスクラッチは独自業務を反映でき、長期利用では費用対効果が高くなるケースもあります。一方で、初期投資は数百万〜数千万円以上、開発期間は半年から数年単位で、年間保守費用は開発費の15〜25%が目安です。

これに対して、パッケージやSaaSは早く導入でき初期費用を抑えられますが、自社業務を標準機能に合わせる必要があり、カスタマイズには限界があります。

独自業務、大規模連携・高負荷処理、厳格なセキュリティ要件がある場合は、フルスクラッチが選択肢になります。標準業務が中心の場合や、予算・人材が限られる場合は、パッケージ・SaaSやMVPからの開始を優先できます。

方式に迷う場合は、自社業務の独自性とTCO(総所有コスト)を整理したうえで、複数の開発会社に相談するとよいでしょう。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。