IT運用保守の完全ガイド

IT運用保守とは、稼働後のトラブル対応や日々の監視、性能改善までを含め、障害やセキュリティのリスクに備えながらシステムを安定稼働させ続ける取り組みです。

進め方、会社選定、費用、発注の各テーマは、以下の専門記事で詳しく確認できます。

IT運用保守の全体像

システムの正常稼働を保つ運用と、障害復旧や仕様変更に対応する保守を左右に並べた図。
日々の維持と、変化への対応で役割が分かれます。

IT運用保守は、システムを止めないための運用業務と、直す・変えるための保守業務という、性格の異なる2つの活動から成ります。

運用保守という言葉は、アプリケーション単体にとどまらず、それを支えるサーバー、ネットワーク、クラウド基盤まで含めて捉える点が特徴です。

まず全体像をつかんでおくことが、体制づくりと契約の第一歩です。

運用と保守の違いと業務範囲

運用とは、システムが正常に稼働している状態を維持するための定常業務です。サーバーやネットワークの稼働監視、データのバックアップ、アクセス制御が代表例で、ユーザーからの問い合わせ対応も含まれます。日々繰り返されるこの定常業務は、いわばシステムの健康状態を保つ予防的な活動と言えます。

一方で保守とは、障害が発生した際の原因究明と復旧、あるいは仕様変更に伴うプログラムの改修やアップデートを指します。何かが起きたとき、または変えるべきときに動く対応的な活動です。

運用と保守の境界は、契約の段階で明確にしておく必要があります。境界が曖昧なまま発注すると、後から「それは対象外です」という食い違いが起きやすく、想定外の追加費用にもつながります。

インフラからクラウドまでを含む広義のIT運用保守

IT運用保守が指す範囲は、アプリケーションの保守にとどまりません。サーバーやストレージ、ネットワーク機器といったインフラ層の監視や障害対応、AWSやAzureといったパブリッククラウド環境の管理までが含まれます。オンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド環境を運用する企業が増えたことで、運用保守の守備範囲は一段と広がっています。

ソフトウェアのライフサイクル全体で見ると、システムにかかるコストの40〜80%、平均でおよそ60%が運用保守フェーズで発生すると言われています。さらに、経済産業省の調査でも、従来システムの運用に対する支出と新規構築への支出の割合は、全産業平均でおよそ2対1にのぼります。構築費用だけでなく、稼働後に続くこのコストも見込んで計画を立てると、IT投資全体を効率よく使うことにつながります。

▶ 詳細はこちら:IT運用保守の進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順をご覧ください。

IT運用保守の進め方

内製か外注かの判断からベンダー選定、SLAと監視体制の設計、継続的な改善へ進む流れ図。
最初の体制判断が、その後の設計につながります。

IT運用保守を始める際は、まず自社で内製するか外部に委託するかを判断します。外注する場合は、ベンダーを選定してサービスレベルを設計し、運用開始後も継続的に改善していく流れで進めます。とくに監視体制とSLA(サービスレベル合意)の設計は、IT運用保守の品質を左右する重要な工程です。

内製か外注かの判断と監視体制づくり

運用保守を社内人材で担うか、外部ベンダーに委託するかが、最初の分かれ道です。社内に十分なインフラ知識を持つ人材がいれば内製も選択肢になります。一方で、24時間365日の監視体制や障害時の即応性を求めるなら、専門ベンダーへの委託が現実的です。

多くの企業では、一次対応や監視を外部に任せ、システムの根幹に関わる判断は社内で行うという役割分担を採っています。監視体制を整える際は、何を監視し、どのしきい値で、どう通知するかを定義しておきます。

サーバーのCPU使用率やディスク残量、ネットワークの応答時間などを常時モニタリングし、異常の予兆を早期に捉える仕組みが運用の土台になります。ZabbixやDatadogといった監視ツールの選定も、この段階で検討します。

SLA設計と引き継ぎのポイント

SLAは、提供されるサービスの品質を定量的に取り決める合意です。例えば大阪市の調達ガイドラインでは、サーバ・アプリの稼働率を99.8%以上とし、基準応答時間の達成率は93%(3秒以内)と定めています。重大障害は年2回までとし、障害通知の遵守率は100%(発生後30分以内)、ヘルプデスクの電話応答率は97%以上(平均20秒以内)としています。

こうした指標は、自社のシステム特性に合わせて設定します。そのうえで、未達のときの改善勧告やペナルティのルールまで決めておくと、合意が実効性を持ちます。

ベンダーを切り替える場合は、引き継ぎの設計が成否を分けます。新担当者がおよそ1.0人月、現行担当者が週2日程度サポートに入る体制を組むと、スムーズな移行が期待できます。さらに、属人化したノウハウをドキュメント化しながら引き継ぐことで、後のブラックボックス化を防げます。

ポイント

内製か外注かは、社内に十分なインフラ知識を持つ人材がいるか、24時間365日の監視を求めるかで決めます。外注するなら、SLAの指標と未達時のルールを先に決めておくと迷いにくくなります。

IT運用保守を依頼する開発会社の選び方

IT運用保守の委託先は、技術力、対応体制、コストのバランスで評価します。インフラからアプリケーションまで幅広く対応できるか、障害時に迅速に動ける体制があるかを見極めると、長期的な安定稼働につながります。

実績と技術力の確認ポイント

まず確認すべきは、自社と同規模・同業種のシステムを運用保守した実績です。加えて、インフラ運用の経験、クラウド環境の管理への対応、特定の業界特有の要件への理解を評価材料にします。技術領域が偏ったベンダーだと、インフラ障害とアプリ障害の切り分けで連携が滞ることもあります。

ベンダー選定では、評価表を使った定量的な比較が有効です。価格の配点を20点以下に抑えると、安さだけで品質の低いベンダーを選んでしまうリスクを減らせます。点数付けは「○5点・△2点・×0点」と差を開かせる方式にすると、評価のブレを抑えられます。

対応体制とサポート品質の評価

障害は、営業時間内に起きるとは限りません。そのため、サポート体制は障害の時間帯と連絡の流れに分けて確認します。

  • 夜間・休日の対応:夜間や休日にも対応できる体制があるか
  • 一次対応の窓口:一次対応の窓口がどこにあるか
  • エスカレーション:エスカレーションのフローが明確か

SLAで取り決めた応答時間や復旧時間を実際に守れるだけの人員と仕組みがあるかが、サポート品質の実質を左右します。定例の報告体制も評価の対象になります。月次で稼働状況や対応履歴を報告し、改善提案まで行うベンダーは、作業の代行にとどまらずパートナーとして機能します。

報告書やログを通じて運用の透明性が保たれているかどうかは、長期契約の安心感につながります。具体的な会社比較は、専門記事で6社を取り上げています。

▶ 詳細はこちら:IT運用保守でおすすめの開発会社/ベンダー6選と選び方をご覧ください。

ポイント

開発会社は、同規模・同業種の運用保守実績と技術の幅、夜間や休日を含む対応体制で比べます。価格の配点を20点以下に抑えた評価表を使うと、安さだけで選ぶ失敗を減らせます。

IT運用保守の費用相場

年間保守費の目安、生涯コストに占める運用保守の割合、調査・分析の作業時間割合を数値付きで並べた図。
数値ごとに対象となる費用や作業の範囲が異なります。

IT運用保守の費用は、システムの規模や複雑さ、求める品質によって大きく変わります。一般的には、開発費用の一定割合を年間の保守費として支払うケースが多くあります。監視範囲や対応時間帯、SLAの水準によって金額は積み上がっていくため、費用の妥当性を見極める視点が欠かせません。

規模別の費用目安と内訳

運用保守費用は、年間でシステム開発費の5〜15%程度を目安とするケースが一般的です。小規模なWebシステムであれば月額数万円から、基幹システムやインフラを含む大規模な運用では月額数十万円から数百万円に及ぶこともあります。前述のとおり、ソフトウェアの生涯コストの平均60%が運用保守に費やされることを踏まえると、保守費用は決して付随的な経費ではありません。

費用の内訳は、監視、障害対応、定期メンテナンスなどのほか、改修対応や報告業務に分かれます。なかでも保守作業で最も時間を要するのは「調査・分析」で、全作業時間のおよそ30%を占めるとされます。この見えにくい工数が費用に反映されるため、作業の内容が明細として開示されているかを確認することが大切です。

費用を左右する主な要因と妥当性の見極め

費用を左右する要因には、システムの規模、担当者の習熟度、求めるSLAの水準などがあります。なかでもドキュメントの整備状況は影響が大きく、乏しく属人化が進んだシステムほど、調査に時間がかかり費用が膨らみます。逆に、整理されたシステムであれば効率的な運用が可能になります。

提示された保守費用が適正かを判断するには、相見積もりに加えて、作業報告書やサーバーログから実際の稼働時間を割り出す監査的なアプローチが有効です。契約上の工数と実稼働が大きく乖離していないかを確認することで、過剰な費用を見抜けます。費用の詳しい内訳と相場は、専門記事で解説しています。

▶ 詳細はこちら:IT運用保守の見積相場や費用/コスト/値段についてをご覧ください。

ポイント

費用は、年間の保守費が開発費の5〜15%程度に収まるかと、作業の明細が開示されているかで見ます。契約工数と実稼働の乖離を確かめると、過剰な費用を見抜けます。

IT運用保守の発注・外注方法

IT運用保守を外部に委託する際は、要件の整理から契約形態の選択まで、段階を追って進めます。なかでも契約形態と契約書の記載内容は、後のトラブルを左右する重要な論点です。発注の前に、どのようなドキュメントを準備し、どの契約形態を選ぶかを確認しておきましょう。

発注前に準備すべきドキュメント

発注をスムーズに進めるには、対象システムの構成情報と現状の運用状況を整理しておく必要があります。システム構成図やネットワークの一覧、運用手順書、過去の障害履歴などをまとめておくと、ベンダーが正確な見積もりを出しやすくなります。逆に、情報が不十分だと、見積もりに余裕を持たせるためコストが高くなりがちです。

ベンダー選定では、RFI(情報提供依頼)で各社の基本情報を集め、RFP(提案依頼書)で具体的な提案を求め、評価表で比較するという流れが基本です。この一連のプロセスには全体で4〜6ヶ月かかるため、契約満了の6ヶ月前には動き出すことが望まれます。

なお、既存ベンダーをあえてRFPに参加させると、競争原理が働き、契約条件の見直しによって既存ベンダーが継続するケースが30〜40%の確率で発生するとも言われています。

契約形態の種類と注意点

運用保守の契約は、大きく準委任契約と請負契約に分かれ、約束する中身が異なります。

  • 準委任契約:監視や問い合わせ対応のように継続的なサービス提供を約束するもので、成果物の完成責任は負いません
  • 請負契約:機能改修のように明確な成果物の完成を約束する形態です

日常的な運用は準委任、個別の改修は請負と、業務の性質に応じて使い分けるのが一般的です。契約書には、保守対象範囲と免責事項を含め、費用と支払い方式、契約解除条件などを明記することが欠かせません。

たとえばハードウェア保守でHDDを交換する場合、故障部品の所有権は保守会社に帰属するのが一般的で、機密データの確実な破棄を求めるなら、別契約が必要になることがあります。また、保守契約を準委任契約とすると、第7号文書扱いとなり、収入印紙が不要になるケースが多い点も実務上のメリットです。こうした細部の取り決めが、後のトラブルを防ぎます。

▶ 詳細はこちら:IT運用保守の発注/外注/依頼/委託方法についてをご覧ください。

ポイント

発注前に構成図や運用手順書をそろえ、準委任と請負を業務の性質で使い分けると、見積もりとトラブルの両方に備えられます。選定には4〜6ヶ月かかるため、契約満了の6ヶ月前には動き出しましょう。

クラウド・AIOps時代のIT運用保守の要点

IT運用保守は、クラウドの普及とAI技術の進展によって大きく姿を変えつつあります。従来のオンプレミス前提の運用とは異なる責任分界の考え方と、運用を効率化する新しい手法を理解しておくことが、これからの安定運用に欠かせません。

クラウドの責任共有モデルと責任分界

AWSやAzureといったパブリッククラウドを利用する場合、クラウド事業者が責任を負う領域と、利用者が責任を負う領域が分かれています。これを責任共有モデルと呼びます。物理的なインフラはクラウド事業者が守る一方で、OSの設定やアプリケーション、データの管理は利用者側の責任です。

この境界を理解していないと、障害時に「どちらの責任か」で押し付け合いが起きかねません。そのため、利用者側の責任領域を、社内の情報システム部門が担うのか、保守ベンダーに委託するのかを事前に明確にしておくことが大切です。

誰が、何に、どこまで責任を持つのかを整理するには、RACIチャートのように役割分担を一覧にする手法が役立ちます。表で責任の境目をあらかじめ示しておくと、障害対応時の混乱を防げます。

AIOpsとDevOps/NoOpsという潮流

AIOpsは、AIを運用業務に活用して、アラートの切り分けや障害予測を自動化する取り組みです。導入のコツは、いきなりワークフロー全体を刷新せず、アラートの一次切り分けといった小さな業務からスモールスタートすることにあります。

誤検知のリスクや学習データの整備といった課題があるため、現場が混乱しない範囲で段階的に広げるのが鉄則です。古いシステムの仕様を知る担当者がいない場合には、AIに既存コードを解析させてブラックボックス化を解消する活用法も注目されています。

開発と運用を一体化するDevOpsや、クラウドのマネージドサービスを活用して運用を極力減らすNoOpsといった概念も広がっています。さらに、EOL(End of Life)やEOS(End of Support)を見据え、リプレイス時のデータ移行から保守契約の安全な終了まで、ライフサイクル全体で計画することが求められます。

IT運用保守で失敗しないためのポイント

IT運用保守でつまずく原因の多くは、属人化と契約の曖昧さにあります。逆に言えば、この2つに先回りして対策しておけば、多くのトラブルは未然に防げます。失敗のパターンを知り、対策を講じておきましょう。

属人化・ブラックボックス化への対策

運用保守が特定の担当者に依存していると、その人が退職した途端にシステムの維持が立ち行かなくなる危険があります。ドキュメントが整備されていない状態でキーマンが突然抜けた場合は、サーバーログや既存コードを手がかりにシステムの構造を解読していく緊急対応が必要になります。

こうした事態を避けるには、平時から運用手順書や構成情報を継続的に更新し、知識を組織に残す仕組みが欠かせません。近年は、レガシーシステムに対してAIにコードを解析させ、ブラックボックス化を解消する手法も現実的になっています。仕様が失われたシステムを抱える場合は、こうした技術の活用も視野に入れると、属人化リスクを下げられます。

セキュリティと契約条項のチェック

運用保守はシステムの内部に深く関わるため、セキュリティ事故が起きたときの責任の所在を、契約で明確にしておく必要があります。免責事項がベンダーに有利になりすぎていないか、障害時の違約金や賠償の範囲が適切かを、契約締結前に必ず確認しましょう。とくに「対象外」「追加費用」の定義が曖昧だと、いざというときに想定外の請求や対応拒否につながります。

SLAにペナルティ条項を盛り込む際は、目標未達時のペナルティとインセンティブ報酬を組み合わせると、ベンダーの品質維持への動機づけになります。厳しい条件を一方的に押し付けるより、双方が納得できる水準で合意するほうが、長く良好な関係を保つ秘訣です。

ポイント

属人化は、手順書や構成情報を継続的に更新して防ぎます。契約は、「対象外」「追加費用」の定義と免責事項を契約前に確かめておくと、想定外の請求を避けやすくなります。

まとめ

IT運用保守は、システムを止めない運用と、直す・変える保守という2つの活動を軸に、インフラからクラウドまでを安定稼働させ続ける継続的な取り組みです。ソフトウェアの生涯コストの平均60%を占めるこの領域を疎かにすると、せっかく構築したシステムも十分な価値を発揮できません。

運用と保守の違いを理解し、SLAと契約を適切に設計することが、安定運用の基盤となります。さらに、進め方から発注方法まで、いずれのテーマでも、属人化を防ぎ、責任分界を明確にし、費用の妥当性を見極める視点が共通して重要です。

クラウドの責任共有モデルやAIOpsといった現代的なテーマも踏まえながら、自社に最適な体制を築いてください。本文中で紹介した専門記事では、各テーマを深く解説しています。あわせてご活用いただくことで、IT運用保守の全体像をより実践的に理解できます。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。