ITシステム障害復旧の開発期間・スケジュール・納期について

ITシステム障害復旧とは、サーバーダウンやデータ破損、ランサムウェア被害といった障害が発生した際に、あらかじめ定めた目標時間内・目標時点までシステムを回復させるための一連の仕組みと体制を指します。同じ「障害復旧」という言葉でも、本記事が扱うのは発生後のインシデント対応そのものではなく、その対応を可能にする「備え」の部分、すなわちバックアップ設計・DR(ディザスタリカバリ)環境の構築・RTO(目標復旧時間)とRPO(目標復旧時点)の設定・BCP(事業継続計画)との連動という、平時から仕込んでおくべき仕組みづくりです。監視ツールでアラートを検知する体制(保守監視)とは異なり、DR・バックアップ体制は「実際に止まったときに、どこまでの速さでどの時点まで戻せるか」を設計する、より根の深いプロジェクトになります。

DR・バックアップ体制の構築を検討し始めた企業からよく聞かれるのが、「導入にはどれくらいの期間がかかるのか」「RTO・RPOを厳しく設定すると納期はどれだけ延びるのか」「クラウド型のDRサービスと自社構築ではスケジュール感がどう違うのか」という疑問です。とくにBCP(事業継続計画)の一環として経営層から期限を切られているケースでは、現実的なスケジュール感を持たずに着手すると、途中でRTO・RPOの合意形成に想定以上の時間を取られ、計画が破綻しかねません。本記事では、DR・バックアップ体制構築プロジェクトの開発期間・スケジュール・納期に焦点を当て、規模別の期間目安、工程別の期間配分、DR方式(コールド・ウォーム・ホットスタンバイ)によるスケジュールの違い、納期を短縮する具体的な方法、そして納期遅延の典型要因と対策までを体系的に解説します。

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DR・バックアップ体制構築の開発期間の全体像

DR・バックアップ体制構築の開発期間の全体像

DR・バックアップ体制の構築にかかる期間は、目標とするRTO・RPOの厳しさと、選択するDR方式によって大きく変動しますが、標準的なプロジェクトの流れを把握しておくことが計画の出発点になります。一般的なDR・バックアップ体制構築は、現状分析・要件定義フェーズ、設計・構築フェーズ、テスト・本稼働・訓練フェーズという3つの大きな工程に分解できます。このうち、目標RPOを満たすデータレプリケーション方式の決定やDR環境のネットワーク設計・構築を行う設計・構築フェーズは約1〜2ヶ月、本番環境を擬似的にダウンさせてDR環境へのフェイルオーバーと元環境へのフェイルバックをテストし、目標RTO内に収まるかを確認して本稼働させるテスト・本稼働・訓練フェーズも約1〜2ヶ月を要するのが標準的な目安です。これに先立つ現状分析・要件定義フェーズは、BIA(ビジネスインパクト分析)に基づきRTO・RPO要件を定義し、DRサイト(遠隔地オンプレミスかクラウドか)を選定する工程であり、企業のBCP方針の成熟度によって期間が変動しやすい部分です。3フェーズを合算すると、標準的な規模のシステムで最短でも3ヶ月程度、要件定義に時間を要する場合や対象システムが複数にまたがる場合は半年前後を見込んでおくのが現実的です。

DR方式・対象システム規模別の期間目安

DR・バックアップ体制の構築期間は、対象システムの規模だけでなく、どのDR方式(コールドスタンバイ・ウォームスタンバイ・ホットスタンバイ)を選ぶかによっても変わります。バックアップデータのみを遠隔地やクラウドに保管し、災害時にサーバーの調達から始めるコールドスタンバイ方式は、構築する要素が比較的シンプルなため、設計・構築フェーズを含めても短期間での立ち上げが可能です。一方、最小スペックの待機サーバーを用意して定期的にデータを同期しておくウォームスタンバイや、本番環境と同一構成を遠隔地で常時稼働させリアルタイムでデータ同期を行うホットスタンバイは、ネットワーク設計や同期方式の検証に要する期間が長くなる傾向があります。とくにホットスタンバイのように秒単位・分単位のRTOを狙う構成では、フェイルオーバーの自動化やデータ整合性の検証に相応の作業ボリュームが発生するため、標準的な3〜6ヶ月というレンジの中でも上振れしやすい点を見込んでおく必要があります。対象システムが1つの基幹システムのみか、複数の関連システムを含むかによっても、要件定義・テストにかかる工数は大きく変わります。

期間を左右する3つの要因

同じ規模のDR・バックアップ体制構築であっても、実際にかかる期間には差が生まれます。第一の要因は、BIA(ビジネスインパクト分析)とRTO・RPO要件定義の合意形成にかかる時間です。「どの業務が止まると、どれだけの損失が出るか」を部門横断で洗い出し、業務の重要度に応じたRTO・RPOの目標値を経営層・事業部門と合意するプロセスは、関係者が多いほど時間を要します。ここが曖昧なまま設計フェーズに進んでしまうと、後工程での手戻りが発生し、結果的に全体のスケジュールを圧迫します。第二の要因は、DRサイトとして遠隔地オンプレミスを選ぶかクラウドを選ぶかという選定です。クラウド型DRサービスはテンプレートを活用できる分、構築期間を短縮しやすい一方、遠隔地に自前でデータセンターを確保するオンプレミス型は、契約や物理的な設備準備に時間がかかります。第三の要因は、既存システムのドキュメント整備状況です。バックアップ対象のデータ構造やシステム間の依存関係が文書化されていない場合、現状分析フェーズでの調査に想定以上の時間がかかり、後続フェーズ全体が後ろ倒しになりやすくなります。

工程別スケジュールと期間配分

工程別スケジュールと期間配分

DR・バックアップ体制の構築は、現状分析・要件定義、設計・構築(約1〜2ヶ月)、テスト・本稼働・訓練(約1〜2ヶ月)という3ステップで進めるのが標準的な流れです。各ステップで何を確定させる必要があるのかを理解しておくことが、スケジュール遅延を防ぐうえで重要になります。

現状分析・BIA・RTO/RPO要件定義フェーズ

最初のステップは、対象システムと業務プロセスの現状を棚卸しし、BIA(ビジネスインパクト分析)を通じて「この業務が何時間止まるとどれだけの損失が出るか」を可視化することです。このBIAの結果をもとに、システムごとにRTO(目標復旧時間)とRPO(目標復旧時点)の目標値を設定し、あわせてDRサイトを遠隔地オンプレミスにするかクラウドにするかを選定します。基幹システムや決済系のように停止が直接損失につながる領域はRTO・RPOを短く設定し、社内ツールのように影響の小さい領域は目標を緩めてコストを抑える、というメリハリをこの段階でつけておくことが重要です。このフェーズにかける期間はソースや案件によって幅がありますが、部門横断での合意形成が必要になる性質上、要件定義書としてまとめるまでには相応の期間を見込んでおく必要があります。RTO・RPOの数値目標があいまいなまま次工程に進んでしまうと、設計フェーズでの手戻りにつながるため、このフェーズでの合意形成を丁寧に行うことが、結果的に全体の納期短縮につながります。

設計・構築フェーズ(約1〜2ヶ月)

RTO・RPOとDRサイトの方針が固まったら、設計・構築フェーズに移ります。この段階では、目標RPOを満たすためのデータレプリケーション方式(同期か非同期か)を決定し、バックアップツールを導入したうえで、クラウドDR環境(AWS Elastic Disaster Recoveryなど)であればネットワーク設計と構築を進めます。オンプレミスの遠隔地DRサイトを選択した場合は、これに加えて物理的な設備手配やネットワーク回線の敷設が必要になり、期間が延びる要因になります。このフェーズの標準的な期間は約1〜2ヶ月とされており、データレプリケーションの方式決定とツール導入、ネットワーク構築が主な作業内容です。同期レプリケーションのようにデータ損失をほぼゼロに近づける方式は、非同期方式に比べて回線帯域や遅延の検証に時間を要するため、目標RPOの厳しさが直接この工程の所要期間に跳ね返ってくる点を理解しておく必要があります。

テスト・本稼働・訓練フェーズ(約1〜2ヶ月)

設計・構築が完了したら、実際に本番環境を擬似的にダウンさせ、DR環境へのフェイルオーバーと、復旧後に元の環境へ戻すフェイルバックのテストを実施します。ここで目標としたRTO内にフェイルオーバーが収まるかどうかを実測で確認し、収まらない場合は構成の見直しや自動化スクリプトのチューニングを行います。このテスト・本稼働・訓練フェーズの標準的な期間も約1〜2ヶ月であり、単発のテストで終わらせるのではなく、複数回のフェイルオーバー訓練を通じて手順を安定させることが望まれます。訓練を経て本稼働に移行した後も、DR・バックアップ体制は「構築して終わり」ではなく、定期的な訓練によって実効性を維持し続けるものだという理解が重要です。このフェーズを十分に確保せずに本稼働へ進んでしまうと、実際の災害発生時に手順の不備が露呈するリスクが高まります。

DR方式によるスケジュールの違い

DR方式によるスケジュールの違い

DR体制の中核を担う方式は、コールドスタンバイ、ウォームスタンバイ、ホットスタンバイの3つに大別され、どの方式を選ぶかによってスケジュール感は大きく異なります。目標とするRTOの水準がそのまま構築期間の長さに直結するため、納期に直結する重要な意思決定になります。

コールドスタンバイ・クラウド型DRサービスの場合

バックアップデータのみを遠隔地やクラウドに保管し、災害発生時にサーバーの調達から始めるコールドスタンバイは、RTOを数日程度で許容できる業務向けの方式です。AWS Elastic Disaster RecoveryやAzure Site Recoveryのようなクラウド型DRサービスを活用すれば、平時はクラウド上の安価なストレージ領域にデータを同期しておくだけでよく、サーバーの物理調達やデータセンター契約が不要なため、設計・構築フェーズを標準的な1〜2ヶ月のレンジの中でも短めに収めやすい構成です。このため、初めてDR体制を構築する企業や、まずは主要システムだけを対象にスモールスタートしたい企業にとって、クラウド型DRサービスを使ったコールドスタンバイは、納期を優先したいプロジェクトとの相性が良い選択肢といえます。

ホットスタンバイ・オンプレミス自社構築の場合

一方、本番環境と同一構成を遠隔地で常時稼働させ、リアルタイムでデータ同期を行うホットスタンバイは、RTOを数秒〜数分という極めて短い水準で狙う方式であり、構築にかかる期間もそれだけ長くなります。とくに自社で遠隔地のデータセンターを借り、本番同等のハードウェアを自前で構築するオンプレミス型のDRサイトを選ぶ場合、物理的な設備調達や回線敷設に加えて、リアルタイムのデータミラーリングを実現するためのネットワーク検証にも相応の時間がかかります。フルスクラッチで独自の監視基盤や自動フェイルオーバーの仕組みまで作り込む場合は、要件定義や技術検証を含めてさらに長い期間を見込む必要があり、この点は本テーマの「フルスクラッチ・オーダーメイド開発」編で詳しく解説しています。納期を優先するのであればクラウド型DRサービス、時間をかけてでも自社の要件に完全にフィットしたDR基盤を持ちたいのであればオンプレミス自社構築、という判断軸で検討するのが現実的です。

納期を短縮する具体的な方法

納期を短縮する具体的な方法

DR・バックアップ体制の立ち上げ期間は、いくつかの実践的な工夫によって短縮できます。ここでは、復旧力(RTO・RPOの達成度)を犠牲にせずに導入期間を圧縮するための代表的な手法を紹介します。

Tier別の段階的導入(スモールスタート)

第一の手法は、全システムを対象に一斉にDRを導入するのではなく、BCPの観点で「Tier1(最重要:止まると事業が停止する)」に指定した基幹システムから優先的にDRを導入し、次年度以降にTier2、Tier3と段階的に対象を広げていくアプローチです。全システムを一度に対象にしようとすると、BIAやRTO・RPOの合意形成に膨大な時間がかかり、導入期間が間延びする原因になります。まずは事業継続への影響が最も大きいシステムに絞って要件定義・設計・テストを完了させ、稼働実績を積みながら対象範囲を広げていくことで、初期の立ち上げ期間を短縮しつつ、早期に復旧力を確保できます。段階的な拡大は、一度に大規模な範囲を対象にするよりもプロジェクトの複雑さを抑えられるという副次的なメリットもあります。

クラウド型DRサービスとテンプレートの活用

第二の手法は、AWS Elastic Disaster RecoveryやAzure Site Recoveryといったクラウド型DRサービスが提供する初期設定テンプレートを積極的に活用することです。レプリケーション設定やネットワーク構成のテンプレートを使えば、ゼロから設計するよりも大幅に短い期間で設計・構築フェーズを完了できます。第三の手法は、要件が固まっていないBIA・RTO/RPO要件定義の工程には準委任契約、仕様が確定した後の設計・構築工程には請負契約というように、工程の性質に応じて契約形態を使い分けることです。これにより、要件変更による手戻りのリスクを抑えながら、計画的にスケジュールを進めることができます。あわせて、2〜4週間程度の小規模なPoC(詳細は本テーマの「PoC・プロトタイプ・モックアップ開発」編を参照)を設計フェーズの前段に組み込み、レプリケーションの実現可能性を先に検証しておくことも、後工程での手戻りを防ぎ結果的に納期短縮につながる有効な手法です。

納期遅延の典型要因と対策

納期遅延の典型要因と対策

どれだけ綿密に計画しても、DR・バックアップ体制の立ち上げには遅延リスクがつきまといます。重要なのは、この領域で特に発生しやすい遅延の典型要因を事前に把握し、対策を契約や進捗管理の仕組みに組み込んでおくことです。

BIA・RTO/RPO合意形成の遅れ

最も多い遅延要因は、BIA(ビジネスインパクト分析)とRTO・RPOの目標値をめぐる部門間の合意形成が長引くことです。「どのシステムをどこまでの速さで復旧させるべきか」という問いは技術部門だけで決められるものではなく、事業部門・経営層を巻き込んだ調整が必要になります。この調整を軽視して技術部門だけで仮の目標値を設定してしまうと、設計フェーズの終盤やテストフェーズで「実はもっと短いRTOが必要だった」といった要件の後出しが発生し、大きな手戻りにつながります。実際に、ある自治体の調達仕様書では「障害に関する初期報告から原則4時間以内に復旧」という具体的なRTOが明記され、4時間以内が困難な場合は代替機でシステム機能を確保し、復旧に4時間以上要する場合は翌開庁日17時15分までに障害復旧計画を作成・承認を得るという厳格な条件が設定されている例があります。このように、RTOの目標値は抽象論ではなく具体的な数値と対応フローとしてプロジェクトの早い段階で文書化しておくことが、後工程での遅延を防ぐ最大の予防策です。

テスト・訓練フェーズの圧縮リスク

第二の遅延要因は、納期が逼迫した際に真っ先に削られがちな「テスト・本稼働・訓練フェーズ」の圧縮です。本来1〜2ヶ月かけて複数回のフェイルオーバー訓練を行うべきところを、1回のテストだけで本稼働に踏み切ってしまうと、実際の災害発生時に「バックアップはあるが実際に戻せない」「フェイルオーバーの自動化スクリプトが想定外のエラーで止まる」といった致命的な問題が本番で初めて発覚するリスクが高まります。第三の遅延要因は、既存システムのバックアップ対象データやシステム間の依存関係を示すドキュメントが未整備であることです。現状分析フェーズでこれらの調査に想定以上の時間がかかると、後続フェーズすべてが後ろ倒しになります。対策としては、テスト・訓練フェーズを「削減可能な余剰工程」ではなく「復旧力の実効性を担保する必須工程」として契約段階から明確に位置づけておくこと、そして現状分析フェーズに十分な工数を確保し、口頭での引き継ぎに頼らず対象データとシステム構成を文書として残しておくことが基本になります。

まとめ

ITシステム障害復旧の開発期間まとめ

本記事では、ITシステム障害復旧(DR・バックアップ体制構築)プロジェクトの開発期間・スケジュール・納期について、規模・方式別の期間目安、工程別の期間配分、DR方式によるスケジュールの違い、納期短縮の手法、そして遅延要因と対策までを体系的に解説しました。標準的なプロジェクトは、現状分析・BIA・RTO/RPO要件定義、設計・構築(約1〜2ヶ月)、テスト・本稼働・訓練(約1〜2ヶ月)という3フェーズで進み、合算すると最短でも3ヶ月程度、要件が複雑な場合は半年前後を見込む必要があります。クラウド型DRサービスを使ったコールドスタンバイは短期間での立ち上げが可能な一方、ホットスタンバイやオンプレミス自社構築はリードタイムが長くなる点も踏まえて方式を選ぶことが重要です。納期を短縮するには、Tier別の段階的導入、クラウド型DRサービスのテンプレート活用、契約形態の使い分けが有効であり、BIA・RTO/RPOの合意形成の遅れやテスト・訓練フェーズの圧縮といった典型的な遅延要因への対策を契約段階から組み込んでおくことが、実効性のあるDR体制を無理のないスケジュールで立ち上げる近道になります。具体的なスケジュールの相談は、複数の開発会社・DRサービス会社に現状のシステム構成と求めるRTO・RPO水準を提示して見積もりを取ることから始めることをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。