障害復旧をフルスクラッチで作るかどうかは、機密性要件とRTO、自社の技術力を見極めて判断します。既製の基盤に自動化を段階導入すると、迅速な復旧につながります。構築パターン、メリットと負担、TCO比較、向いている企業、検討手順の順に見ていきます。
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DR・バックアップにおける「フルスクラッチ」の位置づけ

ITシステム障害復旧とは、サーバーダウンやデータ破損、ランサムウェア被害から、目標時間・時点までにシステムを回復する仕組みと体制です。多くの企業は、AWS Elastic Disaster RecoveryやAzure Site Recoveryなどを使います。
また、クラウド型DR(ディザスタリカバリ)サービスにバックアップSaaSを組み合わせる方法もあります。一方で、DR領域のフルスクラッチは、既製サービスを使わず、遠隔地のデータセンターを確保して、復旧の仕組みを自社要件に合わせて構築する手法です。ただし、基盤をすべてゼロから開発する例は実務上まれで、主に次の2つのパターンがあります。
- 遠隔地の自社DRサイト:オンプレミスに独自の復旧基盤を組む方式
- 復旧作業の自動化:バックアップツールと独自スクリプトを組み合わせ、作業の一部を自動で進める
どちらの方式も、機密データの取り扱いや独自業務システムとの連携、極めて短いRTOなど、クラウドサービスの標準機能で対応できない要件を満たすために選ばれます。
遠隔地オンプレミスでの自社独自DR基盤構築
遠隔地オンプレミス型は、自社でデータセンターを借り、本番環境と同等のハードウェアを構築し、保守する従来型の手法です。こうした方式は、クラウドに出せない機密データを扱う場合や、業界規制で遠隔地保管が求められる場合に向いています。
- 初期投資:数千万〜数億円規模になる
- 運用負担:待機用インフラを、平時も保守し続ける
- 自社の責任範囲:機器調達から回線、複製、継続保守まで担う
この方式は、クラウドサービスを使う場合と比べて、担う作業の範囲そのものが異なります。
バックアップ・復旧自動化スクリプトの独自開発
第二のパターンは、バックアップ・監視ツールと独自スクリプトを組み合わせ、復旧作業の一部を自動化する方法です。
- 導入事例:独立行政法人の案件では、5台の専用サーバーを仮想化し、スクリプトでイメージバックアップを自動取得しています。
- 既存環境への追加:既存のシステムに独自のロジックを加える形が多く、全面的な遠隔地オンプレミス構築より着手しやすい
事例のように自動で取得する仕組みがあれば、障害時に手作業でバックアップを探す手間を省け、迅速な復旧につなげられます。
フルスクラッチ(独自構築・内製)のメリット・デメリット
自社独自のDR・バックアップ基盤には、既製サービスでは得にくい利点があり、それに見合う負担も伴います。利点と負担の両面から、自社で無理なく担えるかを考えます。
メリット—セキュリティ統制と独自要件への完全対応
フルスクラッチなら、既製サービスでは満たしにくい統制や復旧要件に合わせられます。
- 既存環境との連携:独自にカスタマイズして、既存システムとつなぎやすい
- セキュリティ統制:機密データの方針や業界規制に合わせ、漏洩リスクを自社で管理できる
- 独自の復旧手順:短いRTOに向け、業務システム、チケット管理、緊急連絡網をAPIで統合できる
運用フローに合わせた手順は、クラウドDRサービスの標準機能では代えにくい強みです。
デメリット—高額な初期投資と継続的な保守負担
フルスクラッチには、設備費、人材確保、継続保守の負担があり、どれも一度きりでは済みません。
- 初期投資:遠隔地データセンター、本番同等の機器、回線整備に数千万〜数億円かかる場合がある
- 専門人材:高度な知識を持つ人材の採用・育成には時間と人的コストがかかる
- 人材の継続確保:複製設計や自動化スクリプト、継続保守を担える人材を、長く抱え続けるのは容易ではない
- 継続保守:基盤更新やセキュリティパッチの適用も自社の責任になり、どちらも見落とせない
- 常時監視:24時間365日必要なら、クラウドやMSPなどへの委託が効果的とされる
クラウド型DRサービスとのTCO比較
フルスクラッチとクラウド型DRサービスを比べるには、初期費用だけでなく、構築・運用の人的コストも含むTCO(総所有コスト)で見る必要があります。
クラウド型DRサービスの特徴とコスト構造
クラウド型DRサービスは、平時は安価なストレージへデータを同期しておき、災害時には仮想サーバーを自動で起動します。
- 運用方式:AWS Elastic Disaster RecoveryやAzure Site Recoveryなどが利用される
- 初期費用:自社でデータセンターやハードウェアを持たず、大幅に抑えられる
- 課金とTCO:平時は保管容量に応じた従量課金で、初期投資はほぼゼロ、月々の費用として扱える
オンプレミス構築には数千万〜数億円規模の初期投資が必要になります。一方で、クラウド型は自社構築に比べて、総コストを抑えやすいのが特徴です。
TCOで比較するという意思決定の視点
フルスクラッチとクラウド型を、初期費用だけでなく人的コストを含むTCOで比べると、後悔しにくい判断につながります。
- 人員が限られる場合:構築・運用に時間を使うより、クラウドで時間と安心を得る方が総コストを抑える傾向がある
- 短いRTOが必要な場合:独自監視や自動復旧が必要となり、初期費用は数百万円〜数千万円との見方がある
この数字は、一般的な開発費用の感覚と、複雑な要件への運用設計を組み合わせた目安で、特定の実測値ではありません。加えて、短いRTOに伴う費用は、保守費用も高くなるとの見方があります。実際の投資判断には、個別要件に基づく見積もりが欠かせません。
フルスクラッチが向いているケース・向いていないケース

フルスクラッチは、どの企業にも当てはまる方法ではありません。自社の要件と人材に照らして、適否を見極めます。
向いているケース
向いているのは、機密データや業界規制への対応が必要で、専門エンジニアを社内に維持できる企業です。
- 技術人材:レプリケーション、ネットワーク、API連携やスクリプトに精通したチームがいる
- 復旧要件:ミッションクリティカルなシステムで極めて短いRTOが必要となり、標準機能では複雑な業務要件を満たせない
- 既存資産:大規模なオンプレミス資産を活用した遠隔地DRが合理的である
さらに、構築後も運用を続けるには、専門エンジニアのチームを内製で維持できるかが判断材料になります。
向いていないケース
人員や復旧目標によっては、開発と保守の負担に見合う利点を得られないことがあります。
- ひとり情シスなど:人材が足りないまま無理にオンプレ構築を進めると本業を妨げるため、クラウド型や外部委託が推奨される
- 標準的な復旧で十分:小規模システムでコールドスタンバイが要件を満たす場合
- 保守人材の確保:専任のインフラ・運用エンジニアを継続して配置できない
停止が許されないDR・バックアップ領域では、引き継ぎの問題が特に深刻になります。そのため、導入前に、何年も保守体制を維持できるかを検討しておく必要があります。
内製化を検討する際の意思決定プロセス

「作るか、作らないか」をすぐに決めず、段階を踏んで検討すると、リスクを抑えられます。実務で有効な進め方を、順に紹介します。
機密性要件・技術力・保有人材の棚卸し
最初に、扱うデータの機密性要件と自社の技術力・人材を一覧にし、客観的に見直します。
- 業界規制や契約でクラウドに出せないのか、慣習的な不安にとどまるのかを見分ける。
- 複製設計、ネットワーク構築、API連携のプログラミングに精通したエンジニアが何名いるかを数える。
- 担当者が内製化に継続して割ける時間と、離脱時に後任を確保できる見込みを洗い出す。
- 停止が許されない領域では、属人化を受け入れられるかを、他の内製開発より厳しく評価する。
- 技術力や人員が足りなければ、内製にこだわらず、クラウド型DRと外部委託へ切り替える。
「まずクラウドDRサービス、徐々に自動化領域を内製化」という段階的ロードマップ
第二のステップでは、全体を一度にフルスクラッチで作らず、段階的なロードマップを描きます。役割分担を明確にしたうえで内製範囲を少しずつ増やす方法は、現実的に進めるうえで手堅い選択です。
- DR基盤は、実績のあるクラウドサービスやバックアップツールに任せる
- 運用しながら、自動化の効果が大きい復旧作業を特定する
- 投資対効果の高い復旧シナリオから自動化スクリプトを導入する
- 既製サービスと自社開発の役割を定め、内製領域を徐々に広げる
この順序で進めれば、大規模な自社開発にいきなり着手するリスクを避けられます。「PoC・プロトタイプ・モックアップ開発」編のスモールスタートと同じ考え方で、内製化を進める際の共通の原則といえます。一度に大きく作らないぶん、途中で方針を見直しやすいという利点もあります。
まとめ
自社構築の位置づけと、フルスクラッチの利点・負担を見てきました。クラウド型DRとのTCO、向き不向き、内製化の判断手順も扱いました。
DR・バックアップのフルスクラッチでは、基盤をすべてゼロから作る例はまれです。主なパターンは、遠隔地の自社DR基盤と、バックアップツールに連携する自動化スクリプトです。
独立行政法人の事例では、既製のバックアップツールと独自スクリプトを組み合わせ、迅速な復旧の体制を作りました。一方で、専門人材の確保と継続保守が課題として残ります。
機密データや高度な要件があり専門人材を維持できる企業には有力ですが、人材不足や標準的な復旧目標の企業には、クラウド型や外部委託が現実的です。
内製化に適するかどうかは、機密性要件と人材を一覧にしたうえで見極めます。そのうえで、既製サービスとの役割を定めて段階的に内製化すると、構築リスクを抑えられます。そこで、複数の開発会社に相談し、DR・バックアップの最適な実現方法を検討することをお勧めします。
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会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
