ITシステム障害対応のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

障害対応システムは、既製SaaSの拡張性をまず確かめ、足りない機能だけを補い、代替手段がない場合にフルスクラッチを選ぶ順で検討するのが基本です。自社専用のシステムだけで選ぶと、保守や仕様変更への対応の負担が想定以上に膨らみ、SaaSより割高になる場合があります。

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フルスクラッチ開発とSaaSツール利用の比較

フルスクラッチと既製SaaSでは、コスト・期間・自由度のバランスが異なります。それぞれの利点と欠点を比べて理解しておくと、後悔の少ない選択につながります。

フルスクラッチ(オーダーメイド)開発のメリット・デメリット

フルスクラッチであれば、独自業務や古いオンプレミス環境など、レガシーシステムの仕様に100%合ったシステムを構築できます。特に、官公庁や防衛関連など、機密情報を社外クラウドに一切出せない厳格な要件では、ほぼ唯一の現実的な選択肢になる場合があります。

フルスクラッチを検討する際は、個別要件への適合と、開発から保守まで自社が担う負担を並べて見比べます。

  • 個別要件への適合:独自業務やレガシー環境に合わせて作れます。
  • 初期開発の負担:数百万〜数千万円規模の費用と、数ヶ月〜数年単位の期間がかかります。
  • 継続的な保守:運用、機能追加、連携先の仕様変更への改修を自社で担います。

Slackや監視ツールなど周辺ツールが変わった場合も、改修で対応する必要があります。なかでも、保守の負担が積み重なって放置すると技術的負債になりやすい点が、最大のリスクです。

既製SaaSツール利用のメリット・デメリット

PagerDutyなどの既製SaaSは、サブスクリプション契約ですぐに使い始められます。また、ZabbixやDatadogなどの監視ツール、SlackやTeamsなどのチャットツールとの連携が標準で用意され、自動化も実装しやすくなります。

導入の速さや標準連携と並んで確認したいのが、業務プロセスの調整が必要かどうかです。

  • 導入の速さと初期費用:契約後すぐ利用でき、初期コストを抑えられます。
  • 標準連携:監視・チャットツールとの連携を利用できます。
  • 業務プロセス:既製品の仕様に合わせ、一部を標準化する場合があります。

多くのSaaSはAPIやWebhookで拡張できます。そのため、標準機能で足りない部分をカスタマイズや連携開発で補えば、フルスクラッチより費用を抑えて独自要件に近づけられます。

まず拡張性で要件をどこまで満たせるかを確かめることが、コストとスピードの両面で合理的な出発点です。

ポイント

フルスクラッチとSaaSは、費用・期間・自由度の釣り合いが異なります。自社専用だけで選ぶ前に、保守の負担まで含めて比べておくと判断を誤りにくくなります。

フルスクラッチが向いている企業

規制・セキュリティ制約や複雑なエスカレーションルールなど、フルスクラッチが候補となる企業の条件を示す図。
該当条件を確認し、SaaSの拡張で補える範囲も見極めます。

フルスクラッチは相応のコストと期間がかかるため、すべての企業に最適とは限りません。次の条件に当てはまる場合に選択肢となります。

規制・セキュリティ制約でSaaS利用が難しい企業

法的・セキュリティ上の制約により、クラウド型SaaSを一切使えない企業では、既製SaaSが選択肢から除外されます。具体的には、官公庁、防衛関連、金融機関の一部システムなどで、障害情報や連絡先を含む運用データを社外クラウドに置けない場合が該当します。

規制への対応は、構築方法と導入計画を次の観点で整理して進めます。

  • オンプレミス:環境内で完結する独自のインシデント管理システムを構築します。
  • オープンソース:公開されたソフトウェアを自社のセキュリティポリシーに合わせ、大幅にカスタマイズします。
  • 導入期間:SaaSほどの速さは期待できず、要件定義からセキュリティ要件を精緻に組み込む時間が必要です。
  • 業界固有の要件:監査対応やログの長期保存は、標準機能で対応できない場合があります。
  • 初期の要件整理:監査・セキュリティ部門と必須要件を洗い出し、手戻りを防ぎます。

独自の複雑なエスカレーションルールを持つ企業

事業構造や組織体制に由来する複雑なルールがあり、SaaSの標準設定で表現しきれない企業も候補になります。たとえば、複数事業部やグループ会社、海外拠点をまたぎ、障害の種別や影響範囲ごとに経路が分岐する場合があります。

複雑なルールを理由に開発を決める前に、拡張で補える範囲と運用後の負担を見極める必要があります。

  • SaaSの拡張性:APIやWebhookでどこまで柔軟にカスタマイズできるか十分に検証します。
  • 不足する機能:標準機能で表せない部分だけを開発で補います。
  • ルール変更後の負担:自社で改修を担えるか慎重に見極めます。

複雑さだけを理由に開発を選ぶと、後から改修の負担を背負いかねません。そのため、代替手段を先に検証しておくことが大切です。

ポイント

規制やセキュリティでSaaSを使えない場合や、複雑なエスカレーションを標準設定で表せない場合に候補になります。費用と期間が大きいため、条件に当てはまるかを先に見極めます。

SaaSベース+カスタマイズという中間的アプローチ

SaaSベースの既製機能を土台に、不足部分の開発とAPI連携を重ねる構成図。
開発範囲を不足機能に絞ると、既存資産を活用できます。

大企業やメガベンチャーの多くは、SaaSをベースにAPI連携やカスタマイズを加え、自社の運用に適合させています。

LINE社によるカスタマイズ事例

LINE社の事例は、既製ツールを自社の運用に合わせて作り込み、独自の体制を実現したものです。

  • 導入方法:フルスクラッチにせず、PagerDuty等をそのまま使う形も取りませんでした。
  • 運用への適合:蓄積した運用プロセスや文書化の習慣に合わせ、ツールをカスタマイズしAPI連携しました。
  • 得られた形:インフラエンジニアの作業の流れに沿うよう、ツールの運用を最適化しました。
  • 選択肢:標準機能を基礎に、合わない部分を連携開発やカスタマイズで補う方法があります。

汎用チケット管理ツールのカスタマイズ活用

RedmineやJiraなどの汎用チケット管理ツールを、インシデント管理に転用する方法も採られています。たとえば、Datadogなどの監視システムと連携すれば、アラート時にチケットを自動起票し、自社の対応フローで管理できます。

使い慣れたツールであれば、新しい操作を覚える手間を抑えながら、自社のフローに合わせた設定を加えられます。

  • 習得コスト:使い慣れたツールを使い、新しい操作の学習を抑えます。
  • 柔軟な設定:業務フローに合わせ、カスタムフィールドやワークフローを加えられます。
  • 既存資産の活用:ツールを組み合わせて、独自の体制に近づけます。

既存のチケット管理ツールを使えば、専用システムを新たに開発せずに、業務に沿った運用を組み立てられます。さらに、コストを抑えながら実用性も高められます。

「全部フルスクラッチ」ではなく「不足部分だけ」を作る発想

開発の対象は、既製ツールで対応できる機能と、自社固有の不足機能に分けて考えます。

  • 既製機能の活用:通知・チケット起票・ダッシュボード表示は既製・汎用ツールを使います。
  • 不足部分の開発:独自権限管理、特殊な監査ログ、社内認証連携などを開発し、APIでつなぎます。
  • 対象範囲:部分開発なら範囲を絞れるため、全体開発より費用と期間を大幅に圧縮できます。
  • 要件定義:ゼロから作る機能の切り分けが、成功に向けた最初の関門です。
  • 全体開発の必要性:全体を一から作る印象を持たれがちですが、実務で全体開発が必要になるケースは稀です。

ポイント

大企業やメガベンチャーの多くは、SaaSを土台にAPI連携やカスタマイズを加えています。不足する機能だけを開発すれば、費用と期間を抑えながら自社の運用に合わせられます。

判断軸と進め方

初期費用と期間、稼働までのリスク、継続する保守費、数年単位のTCOを並べた判断軸の図。
導入前後にかかる費用を同じ視野で比べられます。

フルスクラッチ、既製SaaS、SaaSのカスタマイズから選ぶ前に、判断の観点をそろえておくと役立ちます。選択理由を説明できるようにしておけば、手戻りや投資判断の見直しを防げます。

コスト・期間の比較検討

費用と期間だけでなく、稼働までのリスクや保守を含めた総額で選択肢を比べます。

  • 初期費用と期間:フルスクラッチは数百万〜数千万円規模、数ヶ月〜数年単位です。SaaSは初期費用を抑え、短期間で稼働できます。
  • 稼働までのリスク:停止時に使う性質上、稼働が遅れるほど属人的な対応を続ける機会コストが生じます。
  • 比較する費用:開発費・期間に加え、開発中のリスクと継続する保守費をSaaS利用料と比べます。
  • 数年単位のTCO:総保有コストとして、初期費用、月額利用料、保守人件費、将来の機能追加費を含めて試算します。

ライセンス費がゼロでも、開発や保守の人件費を含めると高くつく場合があります。そのため、単年度の見た目の安さだけで判断しないよう注意が必要です。

段階的アプローチ: まずSaaSベース、不足分を自社開発

独自の要件には、拡張性の高いSaaSを基礎に、不足する連携だけを開発する進め方が合っています。コストとスピードの両面で合理的だからです。

  1. APIやWebhookで拡張できるSaaSを基礎にします。
  2. 標準設定で試験導入し、実運用で不足要件を洗い出します。
  3. 標準機能で満たせない連携に限って開発。
  4. 段階的に進めて大規模な初期投資を避け、自社に合った体制を作ります。
  5. 規制・セキュリティ制約や特殊なエスカレーション要件など、代替手段がない場合にフルスクラッチを最終手段として検討します。

ポイント

判断は、初期費用と期間に加え、稼働リスクや総保有コストで比べます。ライセンス費がゼロでも人件費で高くつくことがあり、単年度の安さだけでは決められません。

まとめ

方式の比較、フルスクラッチに向く企業、中間的な開発事例、判断軸を並べると、フルスクラッチは最後に検討する選択肢だとわかります。フルスクラッチは、独自業務やレガシー環境、厳格なセキュリティ要件に適合できます。一方、数百万〜数千万円規模の費用、数ヶ月〜数年単位の期間、継続的な保守負担が伴います。

既製SaaSは、初期費用を抑えて短期間で稼働できる反面、標準ワークフローに業務を合わせる必要が生じる場合があります。

LINE社のAPI連携・カスタマイズやRedmine・Jiraの転用は、多くの企業にとって現実的な中間案です。

システム全体ではなく、不足機能だけを開発する部分フルスクラッチなら、費用と期間を抑えられます。

まず既製ツールの拡張性を確かめ、代替手段がない場合にフルスクラッチを検討します。そのうえで、複数の開発会社やSaaSベンダーに現状の要件を示して相談する方法もあります。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。