ITシステムログ監視のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

ログ監視基盤は、人材・規模・要件・納期の条件から方式を選びます。OSS構築には、自由度と引き換えに、保守の責任を自社で負うという面があります。全体像は、ITシステムログ監視の完全ガイドもあわせてご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・ITシステムログ監視の完全ガイド

SaaS型ツールとOSS自社構築の2つの選択肢

ログ監視の方式は、DatadogやSplunkを契約して使うSaaS型と、OSS自社構築の2つに大きく分けられます。OSSには、Elastic Stack、Zabbix、Prometheus + Grafanaなどがあります。

  • SaaS型:サーバーを構築せず、GUIやテンプレートを使って短期間で稼働できます。
  • OSS自社構築:ライセンスは無料(0円)で、インフラに合わせた柔軟な設計が可能です。

適した方式は、技術力や予算、要件の特殊性によって変わります。

ポイント

SaaS型かOSS自社構築かは、技術力、予算、要件の特殊性で決めます。OSS自社構築は、運用を自社で担える体制があるときに選びやすい方式です。

OSS自社構築のメリット

OSS自社構築を中心に、ライセンス費用の削減や環境への適合などの利点を放射状に示した図。
自由度と費用面の利点が、連携や自動化にも広がります。

OSSでログ監視基盤を構築する利点は、長期的なライセンス費用を抑えられることと、高い自由度を得られることです。

長期的なライセンス費用の削減

Zabbix、Nagios、Prometheus、Elastic Stackなどは、ライセンス費用が無料(0円)です。一方で、DatadogなどのSaaSは、ホスト数やログ取り込み量に応じて課金されます。

  • ホスト料金:Datadogでは、1ホストあたり月額$18前後とされています。
  • ログ管理料金:1GBあたり月額$0.10などです。

OSSは、ログ量や監視対象が増えても従量課金がないため、削減効果を得やすい方式です。とくに、極めて大規模な環境ではSaaSの課金が膨らみやすく、ライセンス費をゼロに抑える動機になります。

高い自由度と柔軟なカスタマイズ性

OSS自社構築では、自社の環境に合わせた設計や、既存システムとの連携ができます。

  • 環境への適合:自社サーバー上で、特殊なインフラ構成やレガシーシステムに合わせた構成を組めます。
  • 監視環境:PrometheusとGrafanaは「カスタマイズ性最高」と評価されており、自社の要件に沿った構成が可能です。
  • API連携:社内データベースや、Backlogなどのチケット管理ツールとの連携です。
  • 業務の自動化:異常検知後の起票や、特定条件下での自動復旧を組み込めます。

複雑なビジネスロジックに合わせたワークフローを組めるのは、SaaS型では実現しにくい、OSS自社構築の強みです。

OSS自社構築のデメリット

自由度の高いOSS構築には、無視できない負担もあります。そのため、導入前に工数や運用リスク、外部支援の可能性を把握しておく必要があります。

初期導入・構成設計にかかる莫大な工数

OSS自社構築では、要件定義や監視ルールの設計、ログ収集エージェントの設定に加えて、パース処理の実装やテンプレートの作成まで必要になり、多くの時間と人手がかかります。

  • SaaS型:構築作業は、ボタン操作で30分程度で終わることもあります。
  • OSS:設定ファイルや監視項目、アラート通知を手作業で整える必要があります。

たとえば、エンジニアの経験談では、サーバー50台程度の小規模な案件でも、構築に約1週間かかったとされています。ログ監視では、複数システムのログ形式をそろえる処理も欠かせません。さらに、独自の異常検知ロジックまで開発する場合は、単純な死活監視より工数がかかります。

運用フェーズでの「見えない人的コスト」と属人化

運用では、ネットワークやOSの知識に加えて、設定ファイルの編集や正規表現といった専門知識が必要になります。インフラ未経験者が中心のチームでは、設定を変えるたびに専門家へのエスカレーションが生じます。

その結果、特定の人に頼る属人化が進み、人的な運用コストが跳ね上がるおそれがあります。また、GUIの操作に慣れるまで、学習の時間やコストがかかることも指摘されています。

  • 更新対応:OSのアップデートへの継続的な対応
  • 連携保守:連携先APIの仕様変更への追従
  • 自社コード:不具合を修正しながらの保守

そのため、構築が終わった後も、こうした継続的な保守コストを自社で負担しなければなりません。

大規模システム対応時の初期費用の高騰

導入前に、ライセンス以外の初期費用と外部支援の必要性を見積もっておく必要があります。

  • 外部支援:大規模・高可用性の構築では自社だけで対応できず、SIerなどの支援が必要になる場合があります。
  • 導入総額:支援を依頼すると、数十万円〜100万円以上になるケースがあります。
  • 費用の見方:ライセンスが無料でも、構築費を含めると安いとは限りません。
  • 独自開発:異常検知アルゴリズムをゼロから作る場合は、精度検証や調整の工数が加わり、初期投資がさらに増える可能性があります。

ポイント

OSS自社構築では、導入時の工数と、導入後の保守や人的コストを合わせて見積もることが欠かせません。ライセンスが無料でも、構築費や外部支援を含めると、総額が安いとは限りません。

大規模統合ログ分析の実例(SIEM活用)

SIEMによるログ統合分析を、400種類以上のログ、数百万行の原因分析、MTTRの最大70%削減の3パネルで示した図。
ログの統合分析から原因の絞り込み、修復時間の短縮へつながります。

ゼロから作るフルスクラッチ以外にも、SIEM(Security Information and Event Management)製品を基盤にする方法があります。独自の分析や自動化を加える「準オーダーメイド」も、大規模なログ統合で実践されています。既存のパッケージでは難しい高度な統合例として、次のような事例があります。

SIEM製品を基盤とした大規模ログ相関分析の事例

SIEMを基盤に、多様な製品やシステムのログを相関分析する事例があります。

  • 三菱電機デジタルイノベーション:「Splunk Cloud」を基盤にサービスを提供します。
  • NRIセキュアテクノロジーズ:オンプレミスからクラウドまで、400種類以上の製品・サービスのログをリアルタイムに相関分析し、脅威の早期発見につなげます。

たとえば、同サービスでは、ファイアウォールやルーターのログで異常を検知し、業務システムのログで不正アクセスを検出します。これらは、多様なログソースを横断する統合分析の事例で、単一のツールでは実現しにくいため、SIEMの上に独自のルールやダッシュボードを重ねています。

AIOpsによる根本原因分析の自動化

AIOpsによる根本原因分析(RCA)の自動化は、大規模統合ログ分析基盤の価値を高めます。さらに、担当者が膨大なログを手作業で読む負担も軽減します。

  • 根本原因の特定:数百万行のログをAIが絞り込み、障害の原因を突き止めます。
  • 修復時間の短縮:MTTR(平均修復時間)を最大70%削減できるとされています。

この基盤の構築やカスタマイズには、SIEM運用と機械学習の知見を持つ人材か、それに準ずる体制が必要です。このため、この条件を満たして実践できる企業は限られます。

フルスクラッチ・オーダーメイド開発が向いている企業像

メリットとデメリットを踏まえると、フルスクラッチ開発が向くのは、限られた条件を満たす企業です。

社内に専門知識を持つインフラエンジニアがいる企業

OSS運用を成功させるには、トラブル対応や複雑な設定変更を自力で解決できる専門エンジニアが社内にいることが前提です。

  • ログ処理:パース処理や正規表現を使った設定変更の継続的な実施
  • 検知ロジック:独自の異常検知アルゴリズムの調整

専門知識を持つ体制がなければ、属人化や保守負担の増大により、プロジェクトが行き詰まるおそれがあります。

既存インフラに合わせた特殊要件を持つ企業・大規模環境

標準的なSaaSでは対応できない企業には、オンプレミス型やOSS型の自由度が選択肢になります。特に、特殊要件や大規模環境では、この自由度が方式を選ぶうえでの判断材料になります。

  • 個別要件:既存の社内システムとの深い連携や、独自のコンプライアンス・監査向けのログ処理が必要な場合。
  • 大規模監視:監視対象が超大規模で、SaaSの従量課金が膨らみやすい環境。
  • 運用自動化:ライセンス費用を抑えつつ、自社の手順に合う高度な自動化を組みたい企業。

予算が限られ長期的なライセンス費用を抑えたい企業

OSS構築を選ぶ際は、費用面の利点と、構築に割ける人手や時間を合わせて判断することになります。

  • 小規模・限られた予算:スタートアップや個人開発では、OSSが選択肢になる場合があります。
  • 長期運用:SaaSの従量課金を避けたい企業にとって、OSSは候補になり得ます。
  • 構築リソース:小規模な組織では初期設計でつまずくこともあるため、作業時間を確保できることが条件です。
  • 人材不足:「ひとり情シス」の中堅・中小企業では、本来業務が滞るおそれがあるため、SaaS導入や外部委託が現実的です。

ポイント

フルスクラッチは、社内に専門のインフラエンジニアがいて、特殊要件や大規模環境を抱える企業で検討します。ひとり情シスの中堅・中小企業では、SaaS導入や外部委託が現実的です。

SaaS型かフルスクラッチかを判断する観点

ログ監視方式を選ぶ際の判断軸として、人材、規模、要件、納期を4枚のカードに並べた図。
4つの観点を並べると、自社の条件を照らし合わせやすくなります。

方式を選ぶ際は、自社の条件をいくつかの観点で照らし合わせ、総合的に評価します。

  • 人材:専門人材を確保し、継続的な保守運用ができるか。
  • 規模:ログ量や監視対象が増え、SaaSの従量課金が積み上がるか。
  • 要件:独自業務ロジックや特殊な監査要件との統合が必要か。
  • 納期:短期稼働を優先するか、時間をかけて自社に合わせるか。

専門人材を確保できない場合や、短期間で稼働させたい場合は、SaaS型が有利です。一方で、大規模環境ほどOSSのライセンス削減効果は相対的に大きくなります。

標準的なツールで要件を満たせるなら、SaaS型で十分です。ただし、独自の業務や監査要件があれば、フルスクラッチを検討する価値が高まります。

時間をかけて自社に合う基盤を作れるかも含めて考え、自社に適した方式を選ぶことが、投資を成功させるうえで大切です。

ポイント

専門人材を確保できず短期間で稼働させたい場合はSaaS型、独自の業務や監査要件がある場合はフルスクラッチを検討します。

まとめ

ここまで、方式の比較、OSSの利点と負担、SIEMによる大規模統合分析、向いている企業像、方式選びの観点を見てきました。

OSS自社構築は、自由度が高く長期的なライセンス費用を削減できます。一方で、初期工数や運用保守の負担が伴います。さらに、大規模環境では外部支援の費用がかかり、導入総額が数十万円〜100万円以上になるケースもあります。

三菱電機デジタルイノベーションとNRIセキュアテクノロジーズの事例は、SIEMによる統合設計の価値を示しています。

こうした基盤を実現できるのは、専門人材を確保できる技術力の高い企業です。また、AIOpsにも専門知識を持つ人材や体制が必要になります。

人材や規模、要件、納期を比べて、自社に合う方式を判断することが大切です。

方式を決めたら、複数の開発会社に具体的な要件を示して、比較検討することをお勧めします。

▼全体ガイドの記事
・ITシステムログ監視の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。