ITシステム監視対応のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

ITシステム監視対応を社内で作るとき、フルスクラッチ・オーダーメイド開発が合うかどうかは、SaaSの標準機能で足りるか、社内要件にどれだけ独自性があるかで決まります。運用に携わる人員も踏まえ、既存SaaSの活用から一部だけのフルスクラッチまでの範囲で、方式を選ぶことになります。

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SaaS活用とフルスクラッチ構築の違い

既存SaaSを使ったアラート通知、当番への連絡、応答後の引き継ぎとGUI設定を示す図解。
通知から引き継ぎまでを一続きの体制として捉えられます。

一次対応・当番体制の構築には、既存の監視SaaSやパッケージを使う方法と、フルスクラッチで作る方法があります。両者は仕組みだけでなく、導入速度、カスタマイズ性、費用の構造、適した企業規模も異なります。そのため、まず各特徴を理解しておくことが、方式を判断する出発点になります。

既存SaaS・パッケージ活用の仕組み

PagerDutyなどのオンコール管理SaaSや、Datadog、Site24x7などの監視SaaSの標準機能で、当番体制を組めます。

  • アラート通知:検知した異常を、オーケストレーションエンジンへ渡します。
  • 当番への連絡:設定したシフトに沿い、電話、SMS、Slackで担当者へ知らせます。
  • 応答後の引き継ぎ:一定時間応答がなければ、次の当番へエスカレーションする仕組みです。

サーバーを構築する必要はありません。GUIでシフトやエスカレーションのルールを直感的に設定できるため、体制を迅速に立ち上げられます。

フルスクラッチ・オーダーメイド構築の仕組み

独自開発では、要件に合わせて機能や連携方法を決めます。あわせて、導入時の負担も確認しておく必要があります。

  • 開発手段:OSS(オープンソースソフトウェア)のZabbixなどと、APIを使います。
  • 独自機能:自社専用のアラート振り分け、当番への電話発信、チケット起票をゼロから作ります。
  • 実装方法:業務要件を定めたうえで、プログラムや連携スクリプトに、検知から対応までのロジックを組み込みます。
  • 社内システムとの統合:複雑な業務ロジックを反映し、社内データベースやBacklogなどと完全に統合したワークフローを組めます。
  • 導入負担:ゼロから設計・実装するため、既存SaaSより導入期間と費用が大きくなります。

ポイント

SaaSの標準機能で足りるか、社内の業務に独自性があるかが判断の目安になります。立ち上げの速さを優先するならSaaS、業務との統合を優先するならフルスクラッチが候補です。

フルスクラッチ構築のメリット・デメリット

一次対応や当番体制をフルスクラッチで作るなら、利点と課題の両方を理解したうえで、その投資が自社に必要かを見極める必要があります。

メリット:究極のカスタマイズ性

最大の利点は、社内データベースやチケット管理ツールと一体で動かし、複雑な業務ロジックに沿った流れを組める点です。

  • 複雑な組織への対応:部門別の承認階層や業界特有の規制など、既製SaaSで表現しきれない要件にも対応できます。
  • システム横断の連携:顧客管理や在庫管理とつなぎ、障害の影響範囲を自動で判定できます。

デメリット:開発コストと継続的なメンテナンス負担

開発時の人材や費用に加えて、稼働後の維持負担も確認しておく必要があります。

  • 必要な人材:Linux、ネットワーク、プログラミングに詳しい高度なチームが欠かせず、立ち上げ期間も長くなります。
  • 初期負担:初期費用は数百万〜数千万円規模、または自社エンジニアの人件費が見込まれます。
  • OSS利用時の費用:ライセンスは無料(0円)でも、人手にかかるコストは高くなります。
  • 継続保守:OS更新やAPI仕様変更への追従、バグ修正を続ける必要があり、保守費用も自社で負担することになります。
  • 属人化のリスク:担当者の退職や異動で内部構造がブラックボックス化する点も、考慮しておく必要があります。

ポイント

柔軟さの価値が、人材・費用・保守の負担に見合うかどうかで判断します。見合わない場合は、まず既存SaaSで足りない機能を確かめるとよいでしょう。

ハイブリッド連携の実例

運用現場では、SaaSかフルスクラッチかのどちらかに決めず、SaaSの利便性と内製システムの柔軟性を組み合わせる「ハイブリッド連携」を選ぶこともできます。

cloudpackのAMS(自動対応システム)連携事例

公開された事例では、PagerDutyと自社開発システムの連携について、次のように紹介されています。

  • 連携基盤:PagerDutyを基盤に、自社開発のAMSをWebhookとAPIで連携します。
  • 自動処理:PagerDutyにアラートが起票されると、AMSがそれを受け取り、事前に定義したシナリオを自動で実行します。
  • 役割分担:共通のインシデント管理はSaaSに任せ、独自の定型対応だけをフルスクラッチで作る形です。

この事例はアイレット株式会社(cloudpack)が公開したものです。AMSはAdvanced Monitoring Systemの略称です。

自動処理には、情報の取得、一時復旧、Backlogへの起票、電話音声によるエスカレーションが含まれます。

自動処理率80%以上という効果と示唆

この事例では、自動処理後の人員配置と独自開発の範囲が、運用上の判断材料になります。

  • 自動処理率:同社によれば、この連携で発生アラートの80%以上を、システムだけで処理できました。
  • 人員の注力先:一次運用チームは、未解決の残り20%や高度な運用改善に集中できるといいます。
  • 独自開発の範囲:自社に本当に独自性が必要な部分だけに絞ります。共通基盤まで作ると、費用が際限なく膨らみます。
  • SaaSとの役割分担:SaaSで対応できる範囲と対応できない範囲を分け、独自開発を最小限にすれば費用を抑えられます。

対応時間が短くなったのは、定型作業を自動化した結果です。

ポイント

共通する部分はSaaSに任せ、独自の定型対応だけを作るかどうかを、事例の範囲と照らして考えます。自社で作る範囲をどこまで絞れるかが、費用を左右します。

フルスクラッチが向いているケース・向いていないケース

フルスクラッチ導入を検討するときの企業規模、情シス人員、必要な独自性、トライアルで不足する機能の確認項目。
人員や独自性を並べると、トライアル後の検討につなげやすくなります。

適した方式は、企業規模、エンジニアの人員、必要な独自性によって変わります。それぞれの条件を照らし合わせて判断することになります。

既存SaaS活用が向いているケース

情シス人員が限られる中堅・中小企業には、監視SaaSやパッケージが適しています。初期投資と構築の手間を抑えながら、ミスのない体制を早く作れる点が利点です。

費用は、レスポンダー数やホスト数に応じた月額サブスクリプションの変動費になります。更新やインフラの維持はSaaSベンダーが担うため、情シスは監視と運用に集中できます。

承認フローが標準的で、既製品のテンプレートで運用できるなら、フルスクラッチの費用やリスクを負う必要はありません。

フルスクラッチが向いているケース

独自開発を検討する理由は、企業の技術力や環境の規模によって変わります。

  • 技術力の高い大企業:クラウドアーキテクトなどの人材を多く抱え、大量のアラートを独自に自動化して効率化を図りたい企業に適します。
  • 超大規模環境:SaaSのライセンス費用が膨らみやすく、その費用をできるだけ抑えたい場合も候補になります。
  • ハイブリッド構成:AMS事例のように共通基盤をSaaSで使い、独自ロジックだけをフルスクラッチで作れば、費用と独自性の両方を得られます。
  • 段階的な確認:SaaSのトライアルで要件に合う範囲を確かめ、不足する機能だけを補う方法が勧められます。

ポイント

情シス人員、エンジニアの有無、必要な独自性を並べて、SaaSとフルスクラッチのどちらに寄るかを見ます。迷うときは、トライアルで不足する機能がどれだけあるかを基準にします。

段階的な移行ロードマップの考え方

SaaSの運用開始からデータ蓄積、自動化箇所の特定、必要部分の開発へ進む4段階の図解。
運用データを見てから開発範囲を絞る順序が分かります。

一度に方式を決めず、段階的な移行の道筋を描いておくと、投資リスクを抑えながら自社に合う体制へ近づけます。

社内エンジニアリソース・スキルの棚卸し

構築の前に、API連携、スクリプト開発、監視基盤の保守を担える専門人材が社内にどれだけいるかを確認しておきます。OS更新やAPI変更に対応する継続保守も前提になるため、担当が1〜2名に偏っていると、離職や異動で体制が立ち行かなくなる恐れがあります。

人材が十分にいない場合は、無理に独自開発を進めず、SaaSを使いながら、必要な機能だけを外部パートナーに委託して段階的に作る方法もあります。

SaaS導入からハイブリッド連携への段階的な発展

最初から完璧な独自システムを目指す必要はありません。まずは監視・オンコールSaaSで基本体制を作り、運用しながら、繰り返し発生していてまだ自動化できていない対応を探します。

運用データがたまると、同じ復旧手順を繰り返すアラートや、手作業でのチケット起票など、投資効果の高い対象が見えてきます。

対象に絞ってフルスクラッチで開発し、APIやWebhookでSaaSと連携すれば、開発投資を最小限に抑えながら独自性を加えられます。

  1. SaaSを導入して運用を始める
  2. 運用データを蓄積する
  3. 自動化する箇所を特定する
  4. 必要な部分だけを開発する

この順に進めれば、費用と柔軟性のバランスを保ちながら、体制を育てていけます。

ポイント

一度に方式を決めず、SaaSで運用を始めてから、データを見て自動化すべき対応が分かった時点で独自開発を足すかを判断します。社内の人材が足りなければ、外部パートナーへの委託も含めて検討します。

まとめ

監視対応の独自開発を、SaaSとの違い、利点と課題、連携事例、向いているケース、段階的な移行の順に見てきました。

監視SaaSやオンコール管理SaaSは、初期投資を抑えて短期間で体制を作れます。一方、独自の承認フローには対応しきれない場合があります。

フルスクラッチは柔軟ですが、初期費用は数百万〜数千万円規模になり、保守の負担も続きます。このため、社内の人材を棚卸しする前に着手すべきではありません。

アイレット株式会社(cloudpack)の公開事例では、SaaS基盤と自動対応システムをAPIで連携し、発生アラートの80%以上を自動処理したとされています。独自開発の範囲を絞る際の参考になります。

まずはSaaSのトライアルで要件を満たす範囲を確かめ、不足する部分を見極めます。そのうえで複数の開発会社に相談し、方式を検討します。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。