公共システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

公共システムは、公共交通機関の運行管理やIC乗車券、上下水道・電気・ガスといったライフラインの検針・料金計算・設備保全、図書館や体育館・公民館などの公共施設予約、公共工事の入札・管理、独立行政法人・公社・第三セクターの業務など、公益性の高い領域を幅広く支えています。これらのシステムは「作って終わり」ではなく、稼働してから何年、時には十数年にわたって使われ続けるため、初期の開発費用以上に、保守・運用に要するランニングコストの見積もりが重要になります。とりわけ公共システムは、住民・利用者が日常的に使うサービスであることや、止まると社会生活に影響が出るインフラであることから、24時間365日の監視体制や災害対策、頻繁な料金改定・制度改正への対応など、民間システムにはない継続的なコスト要因を抱えています。「初期費用は把握できても、その後の維持費がどこまで膨らむのか読めない」という悩みを持つ担当者は少なくありません。

本記事では、公共インフラ・公共サービスを支えるシステムの保守・運用費用・ランニングコストに焦点を当て、費用の構成要素、24時間365日運用やBCP・災害対策がコストに与える影響、初期開発費に対する保守費の割合と開発方式による違い、制御系・現地機器の維持管理と公営企業会計の視点、そして運用コストを平準化・最適化する方法までを、公共分野の具体的な事例とともに体系的に解説します。公共施設や交通・ライフラインのシステムを所管する自治体・事業者の担当者はもちろん、公共分野へシステムを提供するベンダー担当者にとっても、ライフサイクル全体でのコストを見通し、予算計画を立てるための判断軸が身に付く内容です。

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公共システムの保守・運用費用の全体像と費用構成

公共システムの保守・運用費用の全体像と費用構成

公共システムのランニングコストを検討するには、まず費用がどのような要素で構成されているかを把握することが出発点になります。保守・運用費用は単一の項目ではなく、インフラ利用料、ソフトウェアの保守契約、システム監視、ヘルプデスク、そして公共システムに特有の物理機器の保守など、複数の費用が積み重なったものです。これらは初期開発費とは別に、稼働している限り毎年発生し続けるため、システムのライフサイクル全体で見ると初期費用を上回ることも珍しくありません。予算計画を立てる際は、初期構築費と年間の運用保守費を分けて把握し、複数年度にわたる総保有コスト(TCO)で比較検討する視点が欠かせません。

保守・運用費用に含まれる主な項目

公共システムの保守・運用費用に含まれる主な項目は、大きく次のように分類できます。第一にインフラ利用料で、クラウド上で稼働させる場合の計算・ストレージ・ネットワークの利用料や、オンプレミスの場合の機器更新・データセンター費用がこれにあたります。第二にソフトウェア保守で、バグ修正、セキュリティパッチの適用、OSやミドルウェアのバージョンアップ対応、料金改定・制度改正に伴う改修などが含まれます。第三に運用・監視で、システムの死活監視、性能監視、ログ管理、バックアップ運用などの日常業務です。第四にヘルプデスク・利用者対応で、職員や住民からの問い合わせ対応、操作マニュアルの更新などが該当します。そして公共システムに特徴的なのが、第五の物理機器の保守です。実際にスマートロックとキャッシュレス決済を連動させる公共施設予約システムの導入仕様では、初期の構築費用のほかに、運用・保守費用を含む月額利用料と、決済手段ごとに発生する決済手数料が費用構造として定義されており、ソフトウェアだけでなく現場機器や外部サービスの利用料まで含めて費用を捉える必要があることが分かります。

分野別に異なる費用構造(施設予約・ライフライン・公共交通)

保守・運用費用の構造は、対象システムの分野によって重心が異なります。公共施設予約や住民向けサービス系のシステムは、比較的コンパクトなため月額利用料型で提供されることが多く、費用の中心はクラウド利用料と機器・決済サービスの手数料になります。一方、上下水道の料金・検針システムや設備保全システムのようなライフライン基幹系は、扱うデータ量が大きく、現場のメーターやプラント設備との連携があるため、インフラ利用料に加えて機器保守と専門的な運用要員の人件費が費用の大きな割合を占めます。公共交通の運行管理・料金精算システムでは、券売機・改札機などの端末保守と、ダイヤ・運賃改定のたびに発生する改修が継続的なコスト要因となります。このように、同じ「公共システムの運用保守費」といっても、住民向けサービス系はサブスクリプション的な性格が強く、インフラ・交通系は機器保守と専門人材のコストが重くなる、という違いを踏まえて予算を見積もることが重要です。

24時間365日運用・BCP・災害対策がコストに与える影響

24時間365日運用・BCP・災害対策がコストに与える影響

公共システムのランニングコストを民間システムより押し上げる最大の要因が、「止まってはいけない」という高可用性の要件です。24時間365日の稼働を担保するための監視体制、冗長化された基盤、そして災害に備えたBCP対策は、いずれも継続的な費用を伴います。ここでは、可用性を支える体制と災害対策がコストにどう跳ね返るかを見ていきます。

高可用性を支える監視・運用体制の費用

「計画された保守停止時間を除き24時間365日利用できること」「障害発生時は1営業日以内での復旧を目標とすること」といった要件を満たすには、平日の日中だけでなく夜間・休日も含めて常時システムを見守る運用体制が必要になります。具体的には、システムの稼働状況を常時監視する運用監視センター(NOC)や、サイバー攻撃を検知・対応するセキュリティ監視(SOC)の費用、障害発生時に即応するオンコール要員の人件費などが継続的に発生します。これらは自組織で内製すると専門人材の確保・育成コストがかかるため、多くの公共システムでは監視・運用をベンダーの保守契約に含めて委託します。監視の範囲(24時間有人監視か、夜間は自動監視+オンコールか)や、障害時の復旧目標(SLA)の水準によって費用は大きく変わるため、求める可用性の水準と支払える費用のバランスを、調達時点で明確に設計しておくことが重要です。過剰な可用性要件は運用費を不必要に膨張させるため、業務停止が本当に許されないシステムと、多少の停止を許容できるシステムを切り分けて要件を設定する姿勢が、コスト最適化の第一歩となります。

冗長化・BCP・災害対策によるインフラ費用の増大

公共システムは災害時にこそ機能を維持しなければならないため、システムを二重化する冗長構成や、遠隔地にバックアップを持つ災害対策(DR)が求められます。これらはサービスレベルを高める一方で、インフラ費用を確実に押し上げます。自治体の基幹システムをクラウドへ移行した事例の分析では、オンプレミス時代と比べてセキュリティレベルの高度化や大規模災害対策の実現などサービスレベルが向上したことが、クラウド利用料を純増させる要因として指摘されています。実際、中核市59市を対象とした調査では、クラウド移行に伴い運用経費が移行前の平均3億3,800万円から移行後は6億8,400万円へと、平均で約2.3倍、最大では約5.7倍にまで膨張したという結果が報告されています。可用性や災害対策のレベルを上げれば安全性は高まりますが、その分ランニングコストも増えるという明確なトレードオフがあることを理解し、システムの重要度に見合った水準を選ぶことが求められます。防災・ライフライン系のように災害時の稼働継続が絶対条件となるシステムでは相応の投資が正当化されますが、すべてのシステムに一律で最高水準の対策を適用すると、限られた公費を圧迫することになります。

初期開発費に対する保守費の割合と開発方式による違い

初期開発費に対する保守費の割合と開発方式による違い

ランニングコストを見積もる際によく使われるのが、初期開発費に対する年間保守費の割合という考え方です。この割合は開発方式によって異なり、また公共システム特有の改修需要によって上振れする傾向があります。ここでは方式別の目安と、継続的に発生する改修コストの正体を整理します。

開発方式別の年間保守費割合の目安

年間保守費の一般的な割合は、システムの提供形態によって次のように整理できます。パッケージをベースにオンプレミスで構築した場合は、年額で初期費用のおおむね10〜15%が保守費の目安です。フルスクラッチ(オーダーメイド)で独自に開発した場合は、作り込みが多いぶん保守の手間も増えるため、年額で初期費用の10〜20%程度と幅が広がります。一方、SaaS(クラウドサービス)型を利用する場合は、初期費用が抑えられる(もしくは無料になる)代わりに、保守費やアップデート費がすべて含まれた月額数万円から数十万円のサブスクリプション費用が継続的に発生します。たとえば初期開発費が5,000万円のフルスクラッチシステムであれば、年間保守費は500万円から1,000万円程度を見込む計算になり、10年間使えば保守費だけで初期費用に匹敵する規模になります。この割合はあくまで一般的な目安であり、可用性要件の高さや連携する外部システムの多さによって上下しますが、予算計画の出発点として押さえておくと、ライフサイクル全体のコスト感を掴みやすくなります。

料金改定・制度変更による継続的な改修コスト

公共システムのランニングコストで見落とされがちなのが、料金改定・制度変更に伴う継続的な改修費です。上下水道やガスの料金体系の見直し、公共交通の運賃改定、各種公共サービスの制度変更などは定期的に発生し、そのたびにシステムの改修が必要になります。とりわけ独自に作り込んだシステムでは、国の法改正や標準仕様の変更があるたびに改修という形で追加の保守開発コストが発生するリスクがあります。こうした改修は当初の保守契約の範囲を超えることが多く、想定外の追加費用として予算を圧迫しがちです。対策としては、契約時に「軽微な制度変更対応は保守費に含める」「大規模な改修は別途見積もり」といった線引きを明確にしておくこと、そして料金体系や制度に依存する部分をパラメータとして外出しし、プログラムの改修ではなく設定変更で対応できる設計にしておくことが有効です。改修が発生しやすい領域をあらかじめ見極め、その部分の変更容易性を高めておくことが、長期的なランニングコストの抑制につながります。

制御系・現地機器の維持管理と公営企業会計の視点

制御系・現地機器の維持管理と公営企業会計の視点

公共システムのランニングコストを考えるうえで、ソフトウェアだけでなく現場の物理機器の維持管理費と、費用をどう会計処理するかという視点も欠かせません。とりわけライフライン事業では地方公営企業会計という独自の枠組みが関わってきます。

メーター・スマートロック・端末など物理機器の保守費

公共システムでは、ソフトウェアに紐づく物理機器が現場に多数設置されるケースが多く、その保守費が継続的なコストとして無視できません。上下水道のメーターやプラント設備、公共交通の券売機・改札機、公共施設のスマートロックや電子錠、キオスク端末などがその例です。これらの機器は屋外や不特定多数が触れる環境に置かれることが多いため、故障率が高く、定期的な点検・交換が必要になります。スマートロックを導入するある公共施設予約システムでは、機器本体に防雨・日除け対策を施したうえで安定稼働を検討することが仕様で求められており、こうした環境対策も維持管理の対象になります。機器が多数・広範囲に分散していると、故障時に現地へ出向く保守要員の稼働や交通費もかさみます。物理機器を伴う公共システムでは、ソフトウェアの保守費とは別に、機器の点検・交換・現地対応にかかる費用を予算に明示的に計上し、機器の耐用年数を踏まえた更新計画をあらかじめ立てておくことが、突発的な予算超過を避けるうえで重要です。

地方公営企業会計における維持管理費の考え方

上下水道やガス、公共交通などの事業は、地方公営企業法に基づく公営企業会計で運営されることが多く、システムの維持管理費もこの枠組みのなかで扱われます。公営企業会計は、税収を財源とする一般会計とは異なり、料金収入で経費を賄う独立採算を基本とするため、システムの運用保守費は最終的に利用者が支払う料金に反映される性格を持ちます。この点は、費用対効果の説明責任がより強く求められることを意味します。また、システムを資産として計上して減価償却する初期構築費と、その期の費用として処理する運用保守費とでは会計上の扱いが異なるため、どこまでを資産化し、どこからを費用とするかによって単年度の収支への影響が変わります。SaaSのようにサブスクリプションで利用する形態は、資産を持たず費用として平準化できる一方、長期的には累計費用が大きくなる可能性があります。公営企業として公共システムを導入・運用する場合は、単なる金額の多寡だけでなく、料金への転嫁や会計上の処理まで含めて、経営の視点でコストを検討することが求められます。

運用コストを平準化・最適化する方法

公共システムの運用コストを平準化・最適化する方法

膨張しがちな公共システムの運用コストを抑え、年度ごとの負担を平準化するために、いくつかの実践的な手法があります。ここではクラウドコストの最適化と、複数団体での共同化という二つのアプローチを紹介します。

長期継続契約・FinOpsによるクラウドコスト最適化

クラウド上で稼働する公共システムでは、利用実態に合わせてコストを継続的に見直すFinOpsの実践が有効です。主要なクラウドサービスには、一定期間の利用を確約することで料金が下がる長期継続割引や大口割引の仕組みがありますが、これらを活用せずに移行してしまい、コストが高止まりしている事例も報告されています。ある自治体の移行事例では、大口割引や長期継続割引が未適用のまま移行金額が見積もられ、費用が本来より高くなっていたことが指摘されています。対策としては、稼働が安定して利用量の見通しが立った段階で長期契約による割引を適用すること、使われていないリソースを定期的に棚卸しして削減すること、負荷に応じて自動的に増減するオートスケーリングを適切に設定することなどが挙げられます。クラウドは「導入して終わり」ではなく、運用しながらコストを継続的に最適化していく対象であり、料金体系を理解した担当者が定期的にコストをレビューする体制を持つことが、ランニングコストの抑制に直結します。

共同利用・共同調達によるスケールメリットとロックイン回避

もう一つの有力な手法が、複数の自治体・事業者でシステムを共同利用・共同調達することです。単独ではIT人材や予算が不足しがちな中小規模の団体でも、複数団体が単一の仕様書に基づいて単一の事業者からシステムを共同調達することで、スケールメリットによる導入・運用費用の削減が期待できます。都道府県が主導する自治体クラウドの取り組みでは、システムの共同化を進めることで費用の低廉化を図っており、こうした共同調達は運用保守費の平準化にも寄与します。ただし共同利用を進める際は、特定のベンダーしか保守できなくなるベンダーロックインを避ける工夫が欠かせません。契約終了時に蓄積データを標準的な形式で無償引き継ぎできるよう仕様で担保しておくこと、特定企業独自の規格ではなくオープンな標準やAPIを採用しておくことが、将来のベンダー交代やシステム更改の際のコストを抑えます。共同化とロックイン回避を両立させることで、長期にわたって適正なコストで公共システムを維持できるようになります。

まとめ

公共システムの保守・運用費用・ランニングコストのまとめ

本記事では、公共インフラ・公共サービスを支えるシステムの保守・運用費用・ランニングコストについて、費用の構成要素から、24時間365日運用やBCP・災害対策がコストに与える影響、初期開発費に対する保守費の割合と方式別の違い、制御系・現地機器の維持管理と公営企業会計の視点、そして運用コストを平準化・最適化する方法までを解説しました。公共システムのランニングコストは、パッケージなら年間で初期費用の10〜15%、フルスクラッチなら10〜20%が保守費の一つの目安ですが、24時間365日の可用性要件や災害対策はこれを大きく押し上げ、クラウド移行で運用経費が2倍以上に膨らんだ事例もあります。重要なのは、初期費用だけでなくライフサイクル全体の総保有コストで捉えること、求める可用性の水準とコストのトレードオフを意識して過剰な要件を避けること、そしてFinOpsや共同調達といった手法でコストを継続的に最適化していくことです。物理機器の保守や料金改定に伴う改修といった公共システム特有のコスト要因も見落とさず、長期的な予算計画に織り込んでおきましょう。公共システムの導入・更改を検討されている方は、初期費用と運用保守費の両面から総合的に比較できるよう、複数の開発パートナーに相談することをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。