公共システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて

公共システムの保守・運用費用は、年額で初期費用の10〜20%程度が目安です。その幅を決めるのは、開発方式、可用性要件、機器・外部サービスの範囲です。

公共システムは、公益性の高い領域を支えます。公共交通の運行管理やIC乗車券が、その代表例です。上下水道・電気・ガスの検針も、その領域に入ります。料金計算や設備保全も同様です。施設の予約では、図書館・体育館・公民館が対象です。公共工事の入札・管理も含まれます。独立行政法人・公社・第三セクターの業務も対象です。初期費用は分かっても、維持費の膨らみは読み切りにくいものです。

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公共システムの保守・運用費用の全体像と費用構成

保守・運用費用を中央に置き、インフラ利用料など5つの費用項目を周囲に配置した図解。
ソフトウェア以外の費用も同じ範囲で確認できます。

公共システムのランニングコストは、インフラ利用料や保守契約など複数の費用で構成されます。まず費用の内訳を把握することが、検討の出発点になります。

保守・運用費は稼働中、毎年発生し続けるため、ライフサイクル全体では初期費用を上回ることも珍しくありません。そこで予算では、初期構築費と年間の運用保守費を分けて把握し、複数年度の総保有コスト(TCO)で比較します。

保守・運用費用に含まれる主な項目

保守・運用費用を見積もる際は、ソフトウェア以外の費用も含めて確認します。

  • インフラ利用料:クラウドの計算・ストレージ・ネットワーク、またはオンプレミスの機器更新・データセンター費用
  • ソフトウェア保守:バグ修正、セキュリティパッチ、OSやミドルウェア更新、料金改定・制度改正への対応
  • 運用・監視:死活・性能監視、ログ管理、バックアップなどの日常業務
  • ヘルプデスク:職員・住民の問い合わせ対応や操作マニュアルの更新
  • 物理機器・外部サービス:現場機器の保守、月額利用料、決済手数料

たとえば、公共施設予約システムの導入仕様では、スマートロックやキャッシュレス決済の構築費に加えて、運用・保守を含む月額利用料と、決済手段ごとの手数料が定められています。

分野別の費用構造(施設予約・ライフライン・公共交通)

分野ごとに費用構造を比べると、予算のどこに重心があるかが見えてきます。

  • 施設予約・住民向けサービス:月額利用料型が多く、クラウドや機器、決済手数料が中心
  • 上下水道などの基幹系:大量データを扱い、現場メーターやプラントと連携するため、インフラ料・機器保守・専門要員費が大きい
  • 公共交通:運行管理・料金精算システムでは端末保守やダイヤ・運賃改定の改修が続く

住民向けサービスは毎月の利用料で費用が積み上がる一方、インフラ・交通系では、機器保守と専門人材の費用が重くなります。

ポイント

複数社の見積もりを比べるときは、ソフトウェア保守だけでなく、インフラ利用料や物理機器・外部サービスの費用まで同じ範囲で揃えると、金額の差がどこから来るのかを読み取れます。

24時間365日運用・BCP・災害対策がコストに与える影響

民間システムと比べて費用を押し上げる最大の要因は、「止まってはいけない」という高可用性要件です。24時間365日の監視体制や冗長化基盤、BCP対策は、いずれも継続的な費用を伴います。

高可用性を支える監視・運用体制の費用

たとえば、要件に「計画された保守停止時間を除き24時間365日利用可能」「障害発生時は1営業日以内の復旧を目標」と定めると、夜間・休日を含む運用体制が必要になります。

  • 監視センター(NOC):システムの稼働状況を常時監視
  • セキュリティ監視(SOC):サイバー攻撃を検知して対応
  • オンコール要員:障害発生時に即応する人員の人件費

自組織で内製すると専門人材の確保・育成費がかかるため、監視・運用をベンダーの保守契約に含めて委託する公共システムも多くあります。

費用は、24時間有人で監視するか、夜間の自動監視とオンコールで対応するかによって変わります。さらに、障害時の復旧目標(SLA)も影響するため、発注側は調達時に可用性と予算のバランスを設計します。

過剰な要件は運用費を不必要に膨らませます。そこで、停止が許されないシステムと多少の停止を許容できるシステムを分けて考えることが、費用を抑える第一歩になります。

冗長化・BCP・災害対策によるインフラ費用の増大

発注側は、災害対策の水準を決める際に、システムの重要度と継続費用を照らし合わせます。

  • 冗長化・災害対策:災害時の機能維持に二重化や遠隔地バックアップ(DR)が必要で、インフラ費用の増加要因
  • 対策水準:可用性や災害対策を高めた場合の安全性の向上と、それに伴うランニングコストの増加
  • システムの重要度:防災・ライフライン系には継続稼働への投資が必要ですが、一律の最高水準は公費を圧迫します。

自治体基幹システムのクラウド移行事例では、セキュリティ高度化や大規模災害対策の実現が、クラウド利用料を純増させる要因として指摘されています。

中核市59市の調査では、運用経費の平均が移行前の3億3,800万円から移行後の6億8,400万円へ増えました。倍率で見ると、平均で約2.3倍、最大で約5.7倍に膨らんだという結果です。

ポイント

業務ごとに停止の許容度と復旧目標を決めておくと、監視体制や災害対策の水準を分けて考えられます。一律に最高水準を求めると、運用費が必要以上に膨らむおそれがあります。

初期開発費に対する保守費の割合と開発方式による違い

年間保守費の割合は開発方式によって異なり、公共システム特有の改修需要で上振れすることもあります。そこで、方式ごとの目安と、改修費を膨らませる要因を分けて確認します。

開発方式別の年間保守費割合の目安

方式ごとに保守費を比べると、初期費用との関係や毎月の支払い方が異なります。

  • パッケージ・オンプレミス:年額で初期費用のおおむね10〜15%
  • フルスクラッチ:年額で初期費用の10〜20%程度
  • SaaS:初期費用を抑えられ、または無料になる一方、保守・更新込みの月額数万円から数十万円が継続

フルスクラッチは作り込みが多いほど、保守の手間も増えます。

初期開発費が5,000万円のフルスクラッチなら、年間保守費は500万〜1,000万円程度になります。同じ前提で10年間使うと、保守費だけで初期費用に匹敵します。

これらは一般的な目安で、可用性要件の高さや外部システムとの連携数によって上下します。そのため、ライフサイクル全体の予算を考える際の出発点として使うのが適切です。

料金改定・制度変更による継続的な改修コスト

上下水道・ガス料金や公共交通の運賃、公共サービスの制度変更は定期的に発生します。そのたびに、システムの改修が必要になります。

独自開発のシステムでは、国の法改正や標準仕様の変更が改修費につながるおそれがあります。さらに、その改修は当初の保守契約の範囲を超えて、追加費用になることも多くあります。

  • 契約範囲を明確にする:軽微な制度変更は保守費に含め、大規模改修は別途見積もりとする
  • 変更しやすい設計にする:料金や制度に依存する値をパラメータとして外出しします。

設定変更で対応できれば、プログラムの改修を避けられます。そのため、変更の多い領域を後から変えやすくしておくことが、長期の費用抑制につながります。

ポイント

予算の初期案では、フルスクラッチなら年額で初期費用の10〜20%程度を保守費として見込みます。可用性要件や外部連携が重い案件では、その上振れも見込んでおく必要があります。

制御系・現地機器の維持管理と公営企業会計の視点

現地機器の保守対象を、上下水道のメーターやプラント設備、券売機や改札機、スマートロックなどに分けた3つのパネル図。
機器の設置分野ごとに点検や交換を見積もれます。

公共システムの費用は、現場の物理機器の維持管理や会計処理も含めて考える必要があります。とくにライフライン事業では、地方公営企業会計が関わります。

メーター・スマートロック・端末など物理機器の保守費

公共システムでは、現場に多数設置された物理機器の保守費も継続して発生します。そのため、発注側はソフトウェア費とは分けて見積もります。

  • ライフライン:上下水道のメーターやプラント設備
  • 公共交通:券売機や改札機
  • 公共施設:スマートロック、電子錠、キオスク端末

機器は屋外や不特定多数が触れる場所に置かれることが多いため、故障率が高く、点検・交換が必要になります。さらに、公共施設予約システムの仕様では、スマートロック本体に防雨・日除け対策を施すなど、安定稼働を検討するよう求められています。

機器が広範囲に分散すると、現地対応の要員稼働や交通費もかさみます。そこで、点検・交換・現地対応の費用を予算に計上し、耐用年数に沿った更新計画を立てておくと、突発的な超過を避けやすくなります。

地方公営企業会計における維持管理費の考え方

地方公営企業会計では、事業の収入と費用の扱いを踏まえて、維持管理費を検討します。

  • 対象事業:上下水道、ガス、公共交通などは地方公営企業法に基づく同会計で運営されることが多い
  • 料金収入:税収を財源とする一般会計と異なり独立採算が基本のため、保守費は利用者料金に反映され、費用対効果の説明責任も重くなります。
  • 会計処理:初期構築費は資産計上・減価償却し、運用保守費は当期費用として扱います。資産化の範囲によって、単年度の収支も変わります。
  • SaaS:資産を持たないため費用を平準化できる一方、長期では累計費用が大きくなる可能性があります。
  • 判断の視点:金額だけでなく、資産化の範囲や料金転嫁も含めた経営の視点

ポイント

物理機器の保守費は、設置数と現地対応の回数を先に把握して、ソフトウェア費とは分けて見積もります。そのうえで、維持管理費を料金と資産化の観点から判断します。

運用コストを平準化・最適化する方法

運用コストの見直し方法として、長期継続割引、未使用資源、自動伸縮、共同調達を並べたチェックリスト図。
利用状況の見直しと複数団体での調達を並行して検討できます。

運用コストを抑えて年度ごとの負担を平準化する方法には、クラウド費用の最適化と、複数団体での共同化があります。

長期継続契約・FinOpsによるクラウドコスト最適化

公共システムをクラウドで稼働させる場合は、利用実態に合わせて費用を継続的に見直すFinOpsが有効です。一方で、長期継続割引や大口割引を使わないまま、費用が高止まりする事例も報告されています。

たとえば、ある自治体の移行事例では、移行額の見積もりに割引が反映されず、本来より高い費用になっていたと指摘されています。

  • 長期契約を適用:利用量が安定し、見通しが立った段階で割引を活用
  • 未使用資源を削減:リソースを定期的に一覧にして、使われていないものを洗い出す
  • 自動伸縮を設定:負荷の増減に応じて資源量を自動で調整する仕組み

クラウドは導入後も最適化が必要で、料金体系を理解した担当者が費用を定期的にレビューする体制を置くことで、ランニングコストを抑えやすくなります。

共同利用・共同調達によるスケールメリットとロックイン回避

複数の自治体・事業者による共同利用・共同調達は、費用削減や平準化につながる有力な方法です。あわせて、将来の交代にも備えておきます。

  • 共同調達:複数団体が単一の仕様書と単一の事業者で調達することで、費用削減や平準化が見込めます。
  • データ引き継ぎ:契約終了時に蓄積データを標準形式で無償移行できる仕様条件
  • 標準・APIの採用:特定ベンダーしか保守できない状態を避け、交代・更改費を抑えた適正なコストでの長期維持

IT人材や予算が不足しがちな中小規模の団体でも、複数の団体で共同調達できます。また、都道府県主導の自治体クラウドでも、共同化による費用低廉化が図られています。

ポイント

利用量が安定して見通しが立った段階で、長期契約の割引を使うかどうかを検討します。それまでは、使っていない資源を定期的に洗い出すことが先決です。

まとめ

保守費の目安は、パッケージ・オンプレミスで年額が初期費用のおおむね10〜15%、フルスクラッチで10〜20%程度です。そこに、可用性や災害対策、機器保守、制度改修の要件が加わると、費用はさらに膨らみます。

比較では、初期費用だけでなく、複数年度の総保有コスト(TCO)で見ていきます。可用性と費用の釣り合いを取りながら、FinOpsや共同調達で運用費を見直し、機器保守や改修費も長期予算に織り込んでおきます。

導入・更改の検討では、初期費用と運用保守費の両面から比べられるよう、複数の開発パートナーに相談することをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。