公共システム開発のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

公共分野のPoCは、検証する問いを絞って小さく実証し、KPIで成果を測ってから本格運用へつなぐと、社会実装につながります。

公益性の高い分野では、公共交通のMaaS、自動運転、上下水道が対象になります。そのほか、検針や施設の予約、住民向けの案内・申請も、対象の範囲に入ります。

  • 電気・ガスのスマートメーター、IoT検針
  • 図書館・体育館の予約
  • 住民向けの案内・申請

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公共分野におけるPoC・プロトタイプ・モックアップの位置づけと種類

PoC、プロトタイプ、モックアップを、それぞれの検証対象とともに並べた図解。
確かめたい対象に応じて、3つの手法を選び分けられます。

PoC・プロトタイプ・モックアップは、いずれも本格開発の前に使いますが、目的と作り込みの度合いが異なります。PoC(概念実証)は、技術やアイデアが成立するかを検証し、技術的な実現可能性や業務での効果を確かめます。

プロトタイプは動く試作品で、操作感や連携を確認します。一方、モックアップは画面や操作の流れを再現し、実装前に利用者の反応と使い勝手を評価します。

公共分野でスモールスタート・実証が重視される理由

公共分野では失敗が許されにくく、公費の損失や住民サービスの混乱を避ける必要があります。そのため、小さく検証してから広げる進め方が重視されます。

  • 公費と現場への影響:大規模な構築で期待した効果が出ないと、莫大な税金を無駄にし、窓口や現場も混乱します。
  • 住民の使いやすさ:多様なITリテラシーの住民に試してもらい、机上では見えない課題を探り出します。
  • 設備・制度との整合:新技術が既存の環境で成立するかの確認。
  • 説明責任:効果とリスクを確かめ、導入判断の根拠をつくること。

公共システムは税金や公共料金で整備され、多数の住民が使います。実証で効果とリスクを見極め、確実に価値を生むものだけを導入すれば、公費を有効に使えます。さらに、実証は費用を抑えることにもつながり、住民への説明責任の根拠にもなります。

PoC・プロトタイプ・モックアップの種類

実証は、確かめたい対象に応じて、技術、利用者体験、業務プロセスに分けて設計します。

  • 技術検証PoC:スマートメーターやIoTセンサー、MaaS、自動運転、生成AIが公共分野で機能するかを試す。
  • UI/UXプロトタイプ:公共施設の予約画面や案内チャットボットを、試作品で評価します。
  • 業務プロセス検証:導入後の業務変化や職員の負担軽減の確認。

技術検証では、データ連携が想定どおり動くか、屋外で安定して稼働するかなどを確かめます。一方、多様な住民が直感的に使えるかは、公開後の利用率を左右します。

利用者向けの検証は特に欠かせません。各手法は、小さな検証を段階的に組み合わせて確度を高めるものです。

技術とUI/UXを並行して進める場合もあります。いずれの場合も、問いに応じて手法を選ぶことが実証設計の基本です。

ポイント

実証で何を確かめたいかが決まったら、技術・利用者の操作・業務の流れのどれを試すかで手法を選びます。作り込みの度合いは、その問いに必要な範囲にとどめます。

公共分野のPoC・実証の進め方と期間・費用の目安

PoCは本格開発より短期間、限られた予算で実施できます。また、自治体とスタートアップの官民共創や、補助金を活用するアクセラレーション型の実証も広がっています。

官民共創・アクセラレーション型の実証の進め方

進め方の一つは、地域課題を公募し、自治体とスタートアップや民間企業が協働する方法です。実証の企画では、期間や費用の目安も踏まえて、取り組み方を決めます。

  • 課題の公募:自治体が地域や市民の課題を募ります。
  • 協働する企業の選定:公募課題に応じた企業の採択。
  • 実証と成果報告:検証後の成果報告と、社会実装の検討。
  • 補助・伴走支援:補助金や支援を使い、実証から実装まで伴走する。

ある市は、毎年、数課題の市民課題を募り、企業との協働実証から成果報告のピッチまでを4ヶ月で完了しています。テーマを絞れば、数ヶ月単位で回すこともできます。

ある県の事業は、課題提示型で企業を採択し、最大300万円規模の補助金を提供して社会実装まで伴走します。

共創プログラムなら、自治体は予算の負担を抑えながら外部技術を取り込めますし、企業は実証の場を得られます。既存制度の活用は、期間と費用の効率化にも役立ちます。

小規模検証の費用感とスコープの絞り込み

PoC費用は規模で大きく変わりますが、公共分野でも小さな予算から始める選択肢が増えています。検証する問いを絞り、回答に必要な最小限の範囲で設計することが重要です。

  • 画面の操作性を試す:画面を優先し、裏側のデータ連携は簡易にとどめます。
  • センサーの安定性を試す:画面は最小限にとどめ、技術検証に集中する。

外部のデジタル化支援サービスには、数十万円規模から試せる小規模検証があります。補助金を使う本格的な実証でも、数百万円規模で実施できます。

PoCで本番並みの機能を作り込むと、期間と費用が膨らみます。そこで、何を確かめ、何を対象外にするかを明確にすることが、費用対効果を高めます。

ポイント

PoCの期間と費用は、確かめる問いの範囲で変わります。予算を抑えて小さく始めるか、補助金を使う本格的な実証にするかは、問いの広さを基準に決めるとよいでしょう。

技術検証PoCと住民向けプロトタイプの実際

公共分野の実証では、技術面とUI/UX面の両方を検証することが重要です。事例から、実施方法を確認します。

スマートメーター・IoT・MaaS等のデータ連携検証

公共インフラでは、複数のシステムやセンサー間のデータ連携が想定どおり機能するかを確かめます。実証の範囲は限定し、成果を見ながら段階的に広げます。

  • 都市データの連携:MaaS、自動運転、IoTセンサーをAPIでつなぎます。
  • 地域サービスの試行:医療・行政アクセスを支えるサービスを、小さく試す。
  • 現場環境での確認:屋外での安定性や通信の信頼性の確認。

ある市は、部局や企業に分断された交通・環境データを、国際標準に準拠した基盤に集約しました。さらに、自動運転とラストワンマイルの実証を複数回行い、新規サービスの実装期間を半減させました。

山間地域のある市は、モバイル診療車、移動投票所、無人航空機による物流を試しました。市民と早期に検証し、費用を抑えて実用化しました。これらの事例に共通するのは、大規模基盤を先に完成させず、連携や新技術の有効性を確かめてから段階的に広げている点です。

屋外の安定性や通信の信頼性は、センサーを設置してみないと分かりません。そのため、現場での実証が特に有効です。

住民・利用者向けサービスのUI/UXプロトタイプ

住民が直接使う画面やサービスでは、試作品を利用者に触ってもらい、操作の流れを改善します。

  • 生成AIチャットボット:市民が誤回答を報告できる仕組みを設けます。
  • 公共施設予約:職員の動作確認期間と利用者別の操作マニュアルの用意。

ある市は、24時間対応の生成AIチャットボットを公開実験しました。この実験では、市民が誤回答を報告でき、その報告を学習データに使います。利用者と改善を重ねることで、信頼の低下を抑えながら、課題を早く見つけられます。

ある自治体は、施設予約、キャッシュレス決済、スマートロックを連動させています。そのうえで、住民と職員向けに詳細版と簡易版のマニュアルを用意する要件を設けました。

多様な利用者に実際に触れてもらい、操作を磨いておくと、公開後の問い合わせが減り、定着にもつながります。UI/UXの検証には、本格開発の前に十分な時間をかけます。

ポイント

技術面と利用者向けの検証を並べるとき、公開後の利用率に直結する部分を優先して見極めると、実証の順番を決めやすくなります。

「PoC疲れ」を防ぎ本格導入・社会実装につなげるポイント

成功の定義、初期ユースケース、定着フェーズを順につなぎ、PoC後の改善までを示す図解。
実証前に決めた基準が、稼働後の改善へつながります。

技術的には成功しても、本格運用や他部署への展開に至らず、実証を繰り返してしまう組織があります。

成果につなげるには、最初から本格導入を見据えて設計することが欠かせません。

KPI・評価指標の設計と横展開の型づくり

PoC疲れを防ぐには、実証の前に評価指標(KPI)を設計し、成果を客観的に測れる状態にしておきます。

  • 測れる目標:「窓口の待ち時間を30%短縮する」などを掲げます。
  • 再現する手順:成果を実現する方法のマニュアル化。
  • 成功の定義:実証の前に、測定できる基準を決めておく。

担当者の異動や他部署の事情により、横展開の成功率は半数程度にとどまる傾向があります。そこで、1件の手続き処理を数分から20秒にするなど、目標の数値を示します。

数値の成果と再現手順があると、導入予算の獲得や他部署への説得を助けます。成功事例を再現できれば、横展開も進みます。

「便利になった」という主観の評価に頼ると、投資対効果を説明しにくく、実証が単発で終わりかねません。

稼働後3ヶ月の初期ユースケース提示と定着フェーズ

実証から本格運用に移った後も、サービスを定着させる工夫が必要です。利用者が価値を実感する機会と、改善の期間を設けます。

  • 初期ユースケース:稼働後3ヶ月以内に、具体的な使い道を示します。
  • 定着フェーズ:導入後3〜6ヶ月間、利用状況を見て改善します。
  • 継続支援:実証で得た知見を、運用改善へ引き継ぐ。

データ連携基盤は、各部署がデータを入れる利点を感じられず、使われない場合があります。そこで、「災害情報の共有」など実務上の価値が明確な用途を早期に示します。

納品時に支援を終えると、利用率が下がりがちです。そのため、月次で利用ログを分析し、現場の声を聞きながら、使われない機能の削減やUI改善を小刻みに続けます。実証と運用を分けず、定着まで伴走して改善する姿勢が、費用に見合う効果を引き出します。

ポイント

実証を本格導入へつなげられるかは、実証の前に数値で測れる目標を決めているかで判断できます。目標が曖昧なままでは、実証を繰り返すだけで終わりかねません。

PoC実施時のリスクと合意形成の進め方

PoCの範囲肥大化を防ぐため、問い、対象、追加要望の3点を確認する図解。
要望を問いへの必要性に照らすと、検証範囲を保ちやすくなります。

PoCを成功させるには、リスクを事前に想定し、公共分野特有の合意形成に備えることが大切です。範囲や関係者、制度面も整理しておきます。

スコープの肥大化・目的の曖昧化への対策

PoCで起こりやすいのは、検証範囲の肥大化と目的の曖昧化です。その結果、期間や費用が増え、得た結果も判断しにくくなります。

  • 問いを限定:実証で答える問いを絞ること。
  • 対象を線引き:それ以外の要望は、本格開発に回します。
  • 追加要望を判断:問いへの回答に必要かどうかで、取捨選択する。

関係者が増えると、機能や部署の要望が集まり、実証が本番システム並みに膨らむことがあります。そこで、開始時に範囲を関係者と共有し、合意しておきます。

PoCは、完成品を作る場ではなく、意思決定の材料を集める場です。この認識を関係者全員で共有し、範囲の肥大化を防ぎます。

マルチベンダー・関係者調整と制度面の壁

技術連携では事業者どうしの責任を整理し、オンライン化では条例などの制度面も確かめます。

  • 責任分界:ベンダー間と部署間で、定期的に会議を開きます。
  • 条例改正:手続きごとの改正負荷を踏まえた進め方を検討する。

設備、クラウド、ネットワークを複数社で連携すると、障害時の責任分担が複雑になります。そのため、実証の段階で、どこまでを誰が受け持つかを明確にしておきます。

ある市は、手続きごとに条例を改める事務負荷を避けるため、包括的な「デジタル手続条例」を制定しました。その結果、個別改正の手間が実質的になくなり、オンライン化も進めました。

公共分野では、技術だけでなく制度の壁と関係者の合意形成も、実証の設計に含めます。関係者との合意形成の力が、実証の成否を左右します。

ポイント

PoCの範囲が広がりそうなときは、要望ごとに問いへの回答に必要かを確かめます。制度や責任の分かれ目は、実証の開始前に関係者と合意しておくと、途中で止まりにくくなります。

まとめ

公共分野の実証は、検証する問いを絞って小さく始め、効果を測ってから本格導入へ進めます。官民共創や補助金を活用すれば、数ヶ月・数百万円規模で実施できる場合があります。

ここまで、PoC等の種類と進め方を見てきました。ほかに扱ったのは、次の内容です。

  • 期間・費用
  • IoT・MaaS・生成AIの技術検証
  • 住民向けのUI/UX
  • 社会実装策や実施リスク

目的を明確にし、測定できるKPIを最初に設計したうえで、導入後は定着まで伴走します。また、スコープを絞り、マルチベンダーの関係者調整や制度面の壁も設計に含めます。

限られた公費を有効に使い、住民サービスの改善を目指します。公共分野で新しいデジタルサービスを検討する際は、小規模な実証から着手し、開発パートナーと成果につながる設計を進めます。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。