SaaSの必要機能や標準機能の一覧について

SaaSに必要な機能は、プラットフォーム基盤、認証・セキュリティ、テナント向けフロント、自社向け管理、外部連携の5つの層に分けて整理できます。運営に欠かせないマルチテナント、継続課金、セキュリティ、解約管理を優先して設計することが大切です。

開発全体の流れは、SaaS開発の完全ガイドをご覧ください。

プラットフォーム基盤機能(マルチテナント・課金)

SaaSのプラットフォーム基盤を、データ分離、サブスクリプション課金、トライアル制御の3層で示した図。
データ分離を土台に、課金と利用制御が重なる構成です。

プラットフォーム基盤機能は、SaaSをビジネスとして成立させるための土台です。一般的なWebアプリが1社や1ユーザー群のための機能を作るのに対し、SaaSは多数の企業に同じシステムを貸し出し、継続課金で売上を立てることが前提になります。

この違いがあるため、SaaS固有の基盤機能が欠かせません。ここを軽視すると、見た目は動いても「事業として回らない」システムになってしまいます。

マルチテナント設計とデータ分離の基盤機能

SaaSの根幹をなすのが、マルチテナント設計です。1つのシステム(アプリケーション)を複数の企業(テナント)で共有しながら、各企業のデータを論理的・物理的に分離して扱う仕組みを指します。テナントごとに別々のシステムを立てず、1つの基盤で多数の企業に提供するからこそ、SaaSは低コストで多くの顧客にサービスを届けられます。

A社のユーザーがログインしてもA社のデータしか見えず、B社のデータには一切アクセスできない。この分離が完璧に機能することが、SaaSの大前提です。特に、データ分離が甘いと、他社のデータが見えてしまう情報漏えい事故に直結します。

だからこそ、テナントを識別するキーの設計、データベースの分離方式(テナントごとに行で分けるか、スキーマで分けるか、データベースごと分けるか)、アクセス制御の徹底は、設計段階で最優先に詰めるべき必須事項です。マルチテナントは、これがなければSaaSとして成り立つ土台そのものです。テナント単位のカスタマイズ(ロゴやドメインの出し分け)も、この基盤に付随する機能です。

サブスクリプション課金とトライアル制御機能

SaaSのもう一つの心臓部が、サブスクリプション課金機能です。月額・年額の継続課金、プラン別の料金体系(ベーシック・スタンダード・エンタープライズ等)、利用人数に応じたシート課金、使った分だけ請求する従量課金など、収益モデルをそのまま機能に落とし込む必要があります。この課金が正確に回らなければ、SaaSは売上を立てられません。

プランのアップグレード・ダウングレード時の日割り計算、年額一括払いと月額払いの切り替え、請求書の自動発行といった処理も、課金機能の重要な構成要素です。また、SaaS固有なのが、トライアルとフリーミアムの制御機能です。14日間の無料トライアル後に自動で有料へ移行させる、無料プランで機能を一部制限する、上限を超えたら有料プランへ誘導する制御は、顧客獲得の生命線です。

こうした課金まわりは地味に見えて開発負荷が重く、決済(課金)機能だけで80〜200万円かかります。会員登録・ログイン機能の30〜80万円と合わせると、基盤機能だけで相応の投資が必要になります。そのため、自社の収益モデルに本当に必要な課金パターンを見極めて仕様化することが、コスト管理の出発点になります。

ポイント

マルチテナントの分離と課金は、事業が成り立つかどうかを左右する基盤です。自社の収益モデルで本当に必要な課金パターンに絞り、最初の設計に入れられるかを判断の目安にします。

認証・セキュリティ機能(SSO・RBAC・監査ログ)

自社テナントのデータを中央に置き、SSO、RBAC、監査ログで保護する関係を示した図。
認証から権限制御、操作記録までが一続きになります。

SaaSは他社の業務データを預かるサービスであるため、認証・セキュリティ機能の充実が、企業に選ばれるかどうかを直接左右します。とくに、法人向け(BtoB)のSaaSでは、導入企業の情報システム部門がセキュリティ要件を厳しくチェックします。

ここの機能が弱いと、機能や価格がどれだけ優れていても「セキュリティ審査を通らない」という理由で導入を見送られます。SaaSの認証・セキュリティは、事業拡大の前提条件と考えておく必要があります。

SSO・SAML/OAuthとロールベースアクセス制御

法人向けSaaSで求められる標準機能が、SSO(シングルサインオン)への対応です。導入企業はすでにMicrosoft EntraやGoogle Workspace、Oktaといった認証基盤を使っており、SAMLやOAuthでSSO連携できることを条件にするケースが増えています。SSOに対応していれば、利用企業の社員は普段のアカウントでそのままログインでき、パスワードの個別管理も不要になります。

これは利便性だけでなく、退職者のアカウントを一括停止できるなど、セキュリティ統制の面でも企業に強く求められます。もう一つの必須機能が、ロールベースアクセス制御(RBAC)です。同じテナント内でも、管理者・一般ユーザー・閲覧専用といった役割ごとに、使える機能や見られるデータを細かく制御する仕組みです。

誰がどの操作をできるかを役割で管理できなければ、企業は安心して全社展開できません。また、管理者がユーザーを招待・削除し、権限を付与・剥奪できるユーザー管理機能も、RBACと一体で提供すべき標準機能になります。さらに、多要素認証(MFA)も、近年は標準として期待される水準に達しています。

監査ログとデータ分離・コンプライアンス機能

監査ログ機能も、法人向けSaaSでは欠かせない標準機能です。誰が・いつ・どのデータにアクセスし・何を変更したかを記録し、後から追跡できる仕組みは、内部統制や情報セキュリティ監査への対応に必要です。なかでも、金融・医療・人事など機微なデータを扱うSaaSでは、監査ログがないと導入審査を通過できません。

操作履歴の記録、ログのエクスポート、一定期間の保管といった機能は、最初の設計に織り込んでおきたい機能です。また、認証・セキュリティ機能は、前述のマルチテナントのデータ分離と一体で設計する必要があります。たとえば、SSOで認証されたユーザーは、RBACで許可された範囲だけを、自社テナントのデータに限ってアクセスでき、その全操作が監査ログに残ります。

この一連の流れが破綻なく動くことが、企業に信頼されるSaaSの条件であり、法人向けSaaSでは事業拡大に必須の機能群です。ただし、どこまでをローンチ時点で備え、どこからを成長後に拡充するかは、ターゲット顧客のセキュリティ要件次第で、要件定義の段階で見極めます。詳しくは『SaaSのRFP/要件定義書/提案依頼書について』もあわせてご覧ください。

ポイント

導入企業のセキュリティ審査を通るかどうかが、認証・アクセス制御・監査ログをどこまで最初から備えるかの目安になります。ローンチ時点の範囲は、ターゲット顧客のセキュリティ要件で決めます。

テナント向けフロント機能(オンボーディング・可視化)

テナント向けフロント機能は、利用企業(テナント)のユーザーが日々使う画面の機能です。基盤と認証が「事業を成立させる土台」だとすれば、フロント機能は「契約してもらい、使い続けてもらう」ための機能にあたります。

SaaSはサブスクリプションであるため、毎月使われ続けて初めて売上が継続します。そのため、フロント機能の質が、解約率(チャーン)を決める最大の要因になります。

オンボーディングと初期設定を支援する機能

SaaSで意外に軽視されがちなのが、オンボーディング機能です。契約直後のユーザーが「何から始めればよいか」で迷うと、そのまま使われずに解約される「立ち上がり時のチャーン」が発生します。これを防ぐのが、初回ログイン時のセットアップガイド、入力すべき項目を順に案内するステップ表示、サンプルデータの自動投入、操作のツアー表示といった機能です。

利用企業が最初の成功体験(プロダクトの価値を実感する瞬間)に最短で到達できるよう導く機能は、SaaSの定着率を大きく押し上げます。また、利用企業の管理者が自社のユーザーを招待し、初期設定を済ませる管理画面も、テナント向けフロントの重要機能です。

SaaSは導入企業が自分たちで設定して使い始める「セルフサーブ」が基本のため、自社で完結できる設定機能が整っているほど、導入のハードルが下がります。オンボーディングは、一見「あれば便利」に見えて、実は契約後の定着を決める準必須機能です。

ダッシュボードと利用状況の可視化機能

テナント向けフロントの中心となるのが、ダッシュボードです。利用企業がログインして最初に見る画面で、自社の重要な数値や状況をひと目で分かるように可視化します。SaaSの価値は「使うことで何かが改善する」点にあるため、その改善や成果をダッシュボードで見せられるかどうかが、継続利用の動機を左右します。

グラフやサマリー数値で「使い続けるメリット」を実感させる機能は、解約防止にも大きく効きます。また、利用企業の管理者向けに「自社が今どれだけ使っているか」を見せる利用状況の可視化機能も有効です。アクティブユーザー数、利用しているシート数、契約プランに対する使用量などを表示すれば、管理者はプランの最適化や社内展開の判断ができます。

チャットやリアルタイムの通知といった機能を加える場合、リアルタイムチャット機能は150〜400万円規模の開発負荷になります。フロント機能は華やかで目を引きますが、優先順位を付けないと費用が膨らみます。そのため、「契約後の定着に直結する機能」から実装するのが賢明です。

ポイント

契約直後に迷わせない導線と、利用状況が一目で分かる画面が、契約後の定着を左右します。チャットなど負荷の大きい機能は、定着に直結するものから順に実装するのが目安です。

自社向け管理機能(契約・解約・MRR/ARR分析)

自社向け管理機能は、SaaSを提供する自社(運営側)が、事業を運営・成長させるために使う管理画面の機能です。ここがSaaSと単発のアプリ開発を最も強く分ける部分になります。

SaaSは、契約を積み上げ、解約を抑え、収益を伸ばし続けるストック型ビジネスです。そのため、経営判断を支える自社向け管理機能に、SaaS事業基盤の本質が表れます。

顧客・契約管理と解約(チャーン)管理機能

自社向け管理機能の基盤となるのが、顧客・契約管理機能です。どのテナント(顧客企業)が、どのプランを、いつから、いくらで契約しているかを一元管理します。契約の開始・更新・プラン変更・停止を正確に追跡できなければ、請求ミスや、契約状態とサービス提供の不整合が起きてしまいます。

テナントごとの契約・課金・利用状況を運営側が把握できる管理画面は、SaaS運営の生命線です。さらに、SaaSで特に重要なのが解約(チャーン)管理機能です。どの顧客が、いつ、どんな理由で解約したかを記録し、解約率の推移を可視化します。

SaaSはストックビジネスのため、新規獲得を続けても解約が多ければ売上は積み上がりません。利用頻度が落ちている、ログインが減っているといった「解約の兆候」を検知し、カスタマーサクセスが先回りして手を打てるようにする機能は、SaaSの収益を守る要です。解約管理は、事業の存続に関わる必須機能です。

MRR/ARRレポートと利用分析機能

SaaSの経営を数値で支えるのが、MRR/ARRレポート機能です。MRR(月次経常収益)やARR(年次経常収益)は、サブスクリプション事業の健全性を示す最重要指標です。新規契約による増加、アップセルによる拡大、解約・ダウングレードによる減少を分解して、収益がどう動いているかを可視化します。

この数値を見て初めて、自社のSaaSが成長しているのか、解約に侵食されているのかを正しく判断できます。これらのレポートは、運営側の管理機能として標準で持っておきたい要素です。また、テナント横断の利用分析機能も価値があります。

どの機能がよく使われ、使われていないか、どんな利用パターンの顧客が解約しやすいかを分析すれば、プロダクト改善や解約防止の根拠になります。ただし、分析機能は最初から完璧に作る必要はなく、まずは契約・課金・解約の根幹を押さえ、高度化は成長に合わせて進めるのが現実的です。機能選定の最初から、自社向け管理機能こそ事業の心臓部だという視点を持つことが大切です。

ポイント

解約率とMRR/ARRを経営判断に使える形で見られるかが、運営側の管理機能の最低ラインです。契約、解約、収益の数値をそろえて見られるかを基準に、最初に作る範囲を決めます。

外部連携機能とコストを抑える機能の切り分け

外部連携機能を中央に置き、API、Webhook、iPaaSを3つの手段としてつないだ図。
接続の役割に応じて、連携方式を使い分けられます。

外部連携機能は、SaaSの価値を広げる機能です。SaaSは単独で完結するより、利用企業がすでに使っている他のツールと連携できるほど業務に組み込まれ、解約されにくくなります。

連携は「あれば便利」から「乗り換えコストを生む武器」へと位置づけが変わってきています。機能を盛り込むほど費用が膨らむため、必須と便利を切り分ける考え方が、SaaS開発のコスト管理では欠かせません。

API・WebhookとiPaaS連携の機能

外部連携の中核となるのが、API(外部からSaaSのデータや機能を呼び出すための窓口)とWebhook(SaaS内でイベントが起きたときに外部へ通知する仕組み)です。利用企業が自社の他システムとデータをやり取りしたり、業務を自動化したりするには、整理されたAPIが公開されていることが前提になります。

法人向けSaaSでは「APIがあるか」が導入判断の条件になることも多く、連携を見据えるなら早い段階でAPI設計を意識すべきです。Webhookがあれば、契約変更やデータ更新といったイベントを外部システムにリアルタイムで伝えられます。さらに、ZapierやMakeといったiPaaS(SaaS同士をノーコードでつなぐ連携プラットフォーム)への対応も、連携機能を広げる現実的な手段です。

自社で個別に連携を作らなくても、iPaaS経由で多数のSaaSとつながれば、開発コストを抑えながら連携の幅を広げられます。ただし、誰も使わない連携を先回りで作り込むと開発費だけが膨らむため、外部連携はターゲット顧客が本当に求めているかを見極めることが大切です。連携は、顧客の要望に応じて段階的に拡充するのが、コストと効果のバランスが良い進め方です。

必須機能と「あれば便利」を切り分ける考え方

5層の機能を把握したあとに大切なのは、「必須機能」と「あれば便利な機能」を切り分ける作業です。SaaSは機能を盛り込むほど費用が膨らむため、すべてを最初から作ろうとすると予算が破綻し、立ち上げも遅れます。マルチテナントとデータ分離、サブスクリプション課金は、事業運営に欠かせない必須機能です。

解約管理も、事業の存続に欠かせない必須機能です。一方、高度な利用分析、凝ったダッシュボード、多数の外部連携などは、顧客の声を聞きながら後から追加できる「あれば便利」に分類できます。この切り分けの威力は、市場相場700〜1500万円(13〜18人月)規模の開発を、AI駆動開発(AIコード自動生成と発注体制の工夫)により実質8人月・約500万円に圧縮した実績に表れています。

必須機能に絞ってまず最小構成(MVP)で立ち上げ、収益と顧客の声を見ながら機能を拡充する段階的なアプローチが、限られた予算でSaaS事業を始める現実解です。なお、運用フェーズも見据える必要があり、SaaSの運用保守費は初期開発費の年間15〜20%が目安です。機能をどうRFPや要件定義書に落とし込むかは、関連記事で詳しく解説しています。

ポイント

外部連携は、利用企業がすでに使うツールとつながるかどうかで判断します。ただし、誰も使わない連携を作り込むと開発費だけが膨らむため、顧客の要望を見ながら段階的に広げるのが現実的です。

まとめ

SaaSに必要な機能は、事業運営を支える次の5つの層にまとめられます。

  • プラットフォーム基盤:マルチテナント・データ分離・サブスクリプション課金
  • 認証・セキュリティ:SSO・RBAC・監査ログ
  • テナント向け機能:オンボーディング・ダッシュボード
  • 自社向け管理:契約・解約管理・MRR/ARR分析
  • 外部連携:API・Webhook・iPaaS

なかでも、データ分離が甘いと情報漏えいに直結するため、マルチテナント設計は土台と言えます。収益と解約を見える形にする管理機能も、事業を続けるうえで欠かせません。

基盤は、課金機能だけで80〜200万円かかるなど重い投資です。ただし、必須と便利を分けて優先順位を付ければ、限られた予算でも事業を立ち上げられます。

機能の検討は、一覧を作ったあとに自社の状況へ当てはめて進めるものです。自社の収益モデル、ターゲット顧客のセキュリティ要件、事業フェーズに照らして、「事業が回らなくなる機能はどれか」を見極めます。そのうえでMVPで立ち上げ、要件定義へ落とし込むことが欠かせません。

AI駆動開発により、市場相場700〜1500万円規模の開発を実質約500万円に圧縮した実績もあります。riplaは、フルスクラッチ受託と国内開発を組み合わせ、SaaS事業基盤に必要な機能の洗い出しから、自社の事業モデルに合わせた機能設計まで一貫して支援します。

全体像を確認するには、完全ガイドもあわせてご活用ください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。