安否確認システムの導入では、対象を絞ってPoCを行い、結果を評価してから本開発へ進むと、失敗を防ぐ判断材料が得られます。
予算と期間が限られるなかで検証効果を高めたい導入・計画担当者に向けて、検証項目、費用、評価基準、対策をまとめました。全体像は安否確認システム開発の完全ガイドもご覧ください。
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本開発前にPoCが重要な理由

安否確認システムは平常時にはほとんど使われず、災害時に機能する点で一般的な業務システムとは性質が異なります。
カタログやベンダーのデモだけで実動作を試さず全社導入すると、配信・回答集計に失敗する恐れがあります。そこで、限定範囲でPoCやパイロットを行い、課題を洗い出してから段階的に展開することが成功の鍵です。
本開発の前に行うPoCでは、主に次の3つの観点から確かめます。
- 第一に、非常時の実効性:担当者の被災や通信制限、従業員がパニックでログインを忘れる状況でも機能するか
- 第二に、性能と耐障害性:短時間の一斉アクセスで遅延や停止を起こさないか
- 第三に、機能の必要性:不要な機能による費用増や操作の複雑化を防げるか
通常時のシステムとは異なる「非常時仕様」の検証
安否確認システムでは、平常時のオフィス環境での操作性に加えて、非常時に正しく機能するかを検証する必要があります。
- 回答操作:非常時にパスワードを忘れても、最小限の操作で回答できるか
- 通信不安定時:再送や再試行の仕組みが働くか
非常時の確認を一般的な業務システムと同じ感覚で省くと、本稼働後の災害時に初めて、非常時特有の不具合が表面化する恐れがあります。
PoCに関わるべき関係者
PoCには、情報システム部門に加えて、BCP・防災を担当する総務部門と、回答する現場従業員が加わります。現場の使いやすさは、要件定義の前に確かめておくことが大切です。
- 情報システム部門:システム面の検証を担う
- 総務部門:BCP・防災の運用面を確認する
- 現場従業員:回答操作の使いやすさを評価する
- 経営層・対策本部:結果を全社展開の判断材料として使う
特に、スマートフォンを日常的に使わない従業員や高齢の従業員が多い職場では、現場目線の評価が要件定義の精度を左右します。さらに、経営層や対策本部にも早い段階で結果を共有すると、後工程の手戻りを防げます。
検証で確認すべき項目
本開発前の検証では、管理者視点と従業員視点の両方からシステムを評価する必要があります。それぞれの確認項目を、次の見出しごとに具体的に示します。
震度連動トリガー・外部API疎通の精度検証(管理者視点)
管理者は、気象庁の地震情報データ(JMAデータ)や、LINE・SMS配信ゲートウェイとの外部API連携を検証し、遅延なく処理できるかを疎通テストで確かめます。
- ロードテスト:一斉アクセスを再現し、目標応答時間を満たすかを見る
- ストレステスト:限界時の遅延と、混雑案内画面が適切に出るか
- 耐久テスト:長時間のやり取りによる劣化の有無
ロードテストでは、例えば3秒以内の応答を目標に、安定して動くかを確かめます。
ストレステストでは、処理上限を大きく超える負荷をかけます。そのうえで、サーバーやデータベースの遅延の段階と、完全停止せず混雑案内画面を返せるかを確認します。
耐久テストでは、災害後24〜48時間以上にわたって断続的に通信が続く状況を想定し、メモリリークやパフォーマンス低下が起きないかを調べます。
一斉配信の到達率と回答のしやすさ(従業員視点)
従業員に実際に送信テストを行い、自動配信の条件設定が意図どおりに動くかを確かめます。また、回答のしやすさは、ログイン不要か最小限の操作で回答できるかを目安にします。
- 連絡手段:SMS・アプリPush・LINEなどを組み合わせる
- 操作性:マニュアルなしで直感的に回答できるか
- 視認性:文字の大きさが高齢の従業員にも適切か
メールだけに頼ると、通信障害時に連絡が取れない恐れがあります。そこで、複数の手段を用意しておくとともに、現場作業が中心で、スマートフォンに不慣れな従業員の回答率も確かめます。
モックアップ・プロトタイプ・PoCの期間と費用感

検証の方法は、既存SaaSの無料トライアルを使う方法と、フルスクラッチやカスタマイズ開発を前提に制作する方法に大別できます。どちらを選ぶかは、予算と検証目的に応じて判断します。
SaaS無料トライアルを活用したスモールスタート(推奨)
低コストかつ短期間で検証する方法として、既存のクラウド型安否確認システムの無料トライアルがあります。例えば、ANPIC、安否コール、トヨクモ「安否確認サービス2」などが、トライアル期間を設けています。
- 配信と回答:従業員への送信や回答操作を試す
- 条件設定:自動配信が想定どおり動くか確かめる
- 運用負荷:メンテナンスの手間を見極める
トライアルを使えば、初期費用と利用料を抑えたまま実機で検証できます。また、継続費用がかかる導入後に、機能は充実していても使いにくいと気づく失敗を、トライアルで防げます。
目安として、トライアル評価は1〜2週間、対策本部メンバーなどに限定したパイロット導入は1〜2ヶ月です。
フルスクラッチ/カスタマイズ前提の場合の費用感
自社独自の危機管理基盤をフルスクラッチで開発する場合、ノーコード・ローコードでプロトタイプを作るときの費用は、10万〜200万円程度が目安です。
- 要件定義・基本構想:1〜2ヶ月、20万〜80万円程度
- 画面UI/UX・DB詳細設計:1〜2ヶ月、30万〜100万円程度
- 実装・バックエンド構築:3〜6ヶ月、100万〜600万円程度
- テスト・品質検証:1〜2ヶ月、20万〜100万円程度
画面の確認に加えて、気象庁データとのAPI連携ができるかを、スパイク(技術検証)で確かめることが望ましいです。外部APIの疎通確認まで行うと、本開発の手戻りを減らせます。
予算に制約がある場合は、まずSaaSの無料トライアルで運用要件を検証します。満たせない要件が明確になった段階でフルスクラッチのPoCに進めば、費用と確実性の釣り合いを取りやすくなります。
PoCの評価基準と本開発移行の判断ポイント

評価の基準があいまいなままだと、「なんとなく良さそう」という感想だけで本開発を決めてしまい、災害時に機能しない事態を招きかねません。そこで、PoCの成果を客観的に評価し、移行を適切に判断できるよう、基準は設計の段階で定めておきます。
定量的な評価指標の設定
PoCの評価は、できるかぎり定量的な指標で行います。開始前に指標を決めておけば、開始時と終了時を比べられます。
- 性能:ロードテストの目標時間(例えば3秒以内)を達成する
- 回答率:訓練配信・テスト送信で目標(例えば80%以上や100%)に届く
- 連携と操作性:自動転記の成功率や現場アンケートを評価する
異常な負荷がかかったときのエラー制御も、指標に加えます。さらに、導入効果を数値で示しておくと、経営層に本開発予算を説明する際にも役立ちます。
本開発移行の判断基準(Go/No-Go判定)
本開発や全社展開へ移るかどうかは、事前に定めたGo/No-Go基準に沿って判断します。例えば、次の4項目に具体的な閾値を設けます。
- 自動配信:震度連動トリガーが想定の時期と対象に実行される
- 回答率:訓練配信で80%を超える
- API連携:疎通エラーが発生しない
- 応答時間:ロードテストで目標をクリアする
基準を満たさない場合は、要件やベンダー選定を見直す方法と、PoCの期間を追加する方法があります。無理に本開発へ進める必要はありません。
基準を満たした場合は、PoCの定量データを本開発の要件定義書や、投資対効果を説明する社内稟議資料に使えます。また、全社展開までの予定も立てやすくなります。
PoCでよくある失敗と対策
設計や実施を誤ると、PoCそのものが時間と費用の浪費になりかねません。安否確認システムでよくある失敗と、それぞれの対策を見ていきます。
訓練シナリオが甘く実災害時に機能しない失敗
平常時だけの訓練で終わり、通信の混雑や担当者の被災、パニック時の操作ミスを想定しないまま検証を終えてしまう失敗があります。その結果、本物の大地震では、想定外の負荷や操作に対応できず、システムが機能しない恐れがあります。
- 平日日中の発災:勤務中の連絡と回答集計を確かめる
- 深夜の発災:時間帯によって配信と回答がどう変わるかを確かめる
- 複数拠点の同時被災:一斉配信と集計の検証
PoCの範囲を絞る場合でも、シナリオに幅を持たせることが、実効性の高いPoCの鍵です。
現場を巻き込まず情シス主導だけで進めてしまう失敗
情シスだけでPoCを完結させると、現場の声を拾えないまま本開発を決めてしまう失敗があります。機能要件を満たしていても、スマートフォンに不慣れな従業員が操作に迷えば、災害時の回答率が上がらない恐れがあります。
- 拠点代表者:計画段階からレビューメンバーに加える
- 現場の声:操作性のヒアリングやアンケートを行う
現場の当事者意識を早い段階で高めておくことは、本稼働後のスムーズな定着にもつながります。
まとめ
PoCの必要性、確認項目、期間と費用を中心に解説しました。ほかに、次の内容も取り上げています。
- プロトタイプ・モックアップの必要性
- 評価基準
- 失敗への対策
災害時に確実に動くかどうかは、平常時だけの検証では確かめきれません。そのため、スモールスタートで多様なシナリオを試すことが、導入の成功につながります。
管理者は震度連動トリガーや外部APIを、従業員は配信の到達率や回答のしやすさを確かめます。費用を抑えたい場合は、SaaSの無料トライアルが有効です。
プロトタイプ作成は10万〜200万円程度が目安で、工程ごとの目安も異なります。移行は、定量指標とGo/No-Go基準を設け、複数シナリオと現場参加の結果をもとに判断します。
要件定義は20万〜80万円、設計は30万〜100万円、実装は100万〜600万円、テストは20万〜100万円が目安です。
震度連動配信やBCPとの緊密な連携が必要な場合は、本開発前の検証が実災害時の実効性を左右します。
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会社紹介
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
