自社の業務課題を解決するためにシステム開発を検討するとき、多くの発注担当者の関心は初期の開発費用に向かいがちですが、実際にはシステムが完成した後も、保守・運用費用というランニングコストが継続的に発生します。「開発費用は聞いていたが、月々の保守費用がこんなにかかるとは思わなかった」「保守費用に何が含まれているのか分からず、追加請求のたびに驚いてしまう」といった声は、システム開発の発注経験が少ない担当者から特に多く聞かれる悩みです。システムは作って終わりではなく、稼働してからが本番であるという意識を持たずに予算を組んでしまうと、後になって想定外の出費に頭を悩ませることになります。
本記事では、特定のシステム種別に限定せず、受託開発・カスタムシステム開発全般に共通する保守・運用費用とランニングコストの考え方を体系的に解説します。規模別の月次保守費用の目安、保守費用に含まれる具体的な作業内容とインフラ費用との違い、そして内製・外注・オフショアといった体制によって保守コストがどう変わるのかまでを、具体的な数字とともに整理しました。これから開発を発注しようとしている方が、初期費用だけでなくトータルの予算感を持って意思決定できるようになることを目指しています。
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システム開発における保守・運用費用の全体像

システムをリリースした後の保守・運用費用は、一般的に年間で初期開発費用の15〜25%、月額換算では初期開発費の5〜15%程度が相場とされています。金額感としては月額数万円から数百万円まで幅がありますが、この幅の大部分はシステムの規模と、保守契約に含める作業範囲の広さによって決まります。開発を発注する段階で保守費用のイメージを持たずに予算を組んでしまうと、リリース後に想定外の月次コストが発生し、運用開始早々から予算超過に悩まされることになりかねません。まずは規模別の目安を押さえ、初期費用と保守費用をセットで捉える視点を持つことが大切です。
月次保守費用の規模別目安
初期開発費用の規模別に月次保守費用を当てはめると、初期費用300万〜1,000万円程度の小規模システムであれば、月額数万円〜20万円程度が目安になります。この場合、保守内容は最低限の問い合わせ対応や簡易な運用サポートが中心です。初期費用1,000万〜5,000万円程度の中規模システムでは、月額15万〜80万円程度が一般的な相場感で、SLA(サービス品質保証)に基づく障害対応や定期的なアップデート、軽微な改修枠が保守契約に含まれ始めます。そして初期費用5,000万円〜1億円以上の大規模システムになると、月額数十万〜数百万円以上が必要になる場合があり、24時間365日の監視体制や、他システムとの複雑な連携保守、厳格なセキュリティ対応が求められるため高額になりやすい傾向があります。
保守費用に含まれる作業内容
保守費用は、主にシステムを維持・管理するエンジニアの稼働に対する人件費であり、具体的には3段階の作業に分けられます。1段階目は、現場のユーザーからの質問対応や、不具合発生時の原因調査を行う問い合わせ対応(一次対応)です。2段階目は、システム停止時の初動対応や暫定復旧、恒久対策プログラムの適用といった障害対応・バグ修正で、SLAで「15分以内の着手」といった対応時間が定められることもあります。3段階目は、データバックアップの取得と復旧テスト、OSやセキュリティのアップデート対応、定例リリース枠を用いた使い勝手の改善といった運用作業・軽微な改修です。発注時には、これら3段階のどこまでが月額保守費用に含まれ、どこからが追加費用の対象になるのかを、契約書レベルで明確にしておくことがトラブル防止につながります。
インフラ費用との違いと内訳

ランニングコストを検討する際、保守費用としばしば混同されがちなのがインフラ費用です。両者は性質が異なるコストであるため、それぞれを分けて理解しておくことが、正確な予算策定につながります。
インフラ費用(クラウド利用料等)の内訳
インフラ費用は、システムを稼働させ続けるための物理的・ソフトウェア的な「場所代」にあたる実費です。主な内訳としては、クラウドサーバーの利用料、データベースやストレージの利用料、各種ソフトウェアのライセンス費用、外部APIや連携ツールの利用料、ドメインの維持費やSSL証明書の費用などが挙げられます。これらはシステムが稼働し続ける限り毎月・毎年固定で発生し、アクセス数やデータ量が増加すれば従量課金でさらに膨らんでいくという性質を持っています。開発・運用に関わる全体費用のうち、こうした諸経費が20〜30%程度を占めることもあり、決して無視できる金額ではありません。特にアクセス数の急増に応じてクラウドの利用料が跳ね上がるリスクがあるため、コストの上限設定や予算アラートの仕組みをあらかじめ用意しておくことが望まれます。
保守費用とインフラ費用を混同しないための整理
保守費用が「人」に対するコストであるのに対し、インフラ費用は「システムを動かす場所」に対するコストであるという違いを整理しておくと、見積もりを比較する際の混乱を防げます。開発会社によっては、見積もりの中で保守費用とインフラ費用を一括りにして提示してくることもありますが、発注担当者としては両者を分けて内訳を確認し、それぞれが何にどれだけかかっているのかを把握しておくべきです。特に、システムの利用者数や取扱データ量が将来的に増加する見込みがある場合には、インフラ費用がどの程度のペースで増加していくのかを開発会社に事前にシミュレーションしてもらうことで、中長期的な予算計画の精度を高めることができます。
内製・外注・オフショアによる保守コストの違い

リリース後の保守を誰が担うかによっても、コスト構造は大きく変わります。開発ベンダーへの外注、自社での内製、そして体制によってはオフショア拠点を活用するケースまで、それぞれの特徴を理解したうえで自社に合った体制を選ぶことが重要です。
外注保守のメリットとベンダーロックインのリスク
外部ベンダーに保守を委託すると、月額数十万円〜数百万円が継続的に発生しますが、SLAを結ぶことで障害発生時の対応スピードを担保できる安心感が得られます。専門知識を持つエンジニアが体制として確保されているため、自社でIT人材を抱える必要がないというメリットも大きいといえます。一方で注意すべきなのが、システムがブラックボックス化し、開発を担当した特定のベンダーに依存してしまう「ベンダーロックイン」のリスクです。ソースコードの内容や設計思想を発注元が十分に把握できていない状態が続くと、ちょっとした改修を依頼するだけでも高額な追加見積もりが提示され、将来的な改修費用が想定以上に高騰してしまう事態を招きかねません。契約時には、ソースコードや設計書の納品範囲、そして他社への引き継ぎのしやすさについても確認しておくことをお勧めします。
内製保守のメリットと必要な体制
自社のエンジニアや現場の担当者が運用を担う内製保守では、外部への委託費を大きく削減できるという利点があります。近年はローコード・ノーコードツールを活用してシステムを構築するケースも増えており、専門的なプログラミング知識がなくても現場主導で仕様変更や軽微な改修を行いやすくなっています。ただし内製保守を選ぶ場合は、システムを継続的に監視・保守できるだけのIT人材を確保するコストや、ツールの学習コスト、そして障害発生時に責任を持って対応できる社内体制づくりが不可欠です。特に、担当者の異動や退職によって保守のノウハウが属人化してしまうリスクには注意が必要で、手順書やマニュアルの整備、複数人での体制構築をあらかじめ検討しておくことが望まれます。
保守・運用費用が想定より膨らむ主な原因

保守・運用費用は、契約段階での見立てと実際の運用開始後の費用感にギャップが生まれやすい領域です。想定より費用が膨らんでしまう典型的な原因を理解しておくことで、契約前に対策を講じられます。
ブラックボックス化・技術的負債の蓄積
リリース後に場当たり的な改修を繰り返していると、システムの内部構造が複雑化し、当初の設計思想からかけ離れた「技術的負債」が蓄積していきます。ドキュメントが整備されないまま改修が積み重なると、次第にシステム全体がブラックボックス化し、簡単な修正であっても影響範囲の調査に多くの工数がかかるようになります。結果として、同じような規模の改修でも年々費用が高くなっていくという悪循環に陥りやすくなります。対策としては、改修のたびに設計書やドキュメントを更新するルールを保守契約に盛り込み、定期的にシステム全体の健全性を点検する棚卸しの機会を設けることが有効です。
SLA未整備による対応範囲の認識齟齬
もう一つの典型的な原因が、保守契約におけるSLA(サービス品質保証)が曖昧なまま契約してしまうことです。「保守費用に含まれる範囲」と「別途費用が発生する範囲」の線引きが不明確だと、発注側は「当然含まれているはず」と考え、開発会社側は「契約外の作業」と捉えるという認識のズレが生じ、追加請求のたびにトラブルになります。特に、軽微な改修とみなされる作業の範囲、障害対応の初動時間、月間で対応できる改修件数の上限などは、契約前に具体的な数値で合意しておくべき項目です。契約書やSLAの内容を発注担当者自身が理解できる形で確認し、不明点があれば署名前に必ず質問しておくことが、後々のトラブルを防ぐ最も確実な方法です。
保守・運用コストを適正化するためのポイント

保守・運用費用は削れば良いというものではなく、必要な品質を保ちながら無駄なコストを排除する視点が求められます。発注担当者として実践できる具体的なポイントを紹介します。
SLAと保守契約範囲の明文化
保守契約を結ぶ際は、対応時間、対応可能な作業範囲、月間の改修対応件数の上限、追加費用が発生する条件を、契約書やSLAとして具体的に明文化しておくことが基本です。あわせて、保守費用に含まれる作業内容を月次レポートとして可視化してもらう仕組みを取り入れることで、支払っている費用に対してどれだけの作業が行われているのかを客観的に把握できるようになります。こうした可視化の仕組みがあると、保守内容が形骸化していないかを定期的にチェックでき、必要に応じて契約内容の見直しを提案する材料にもなります。
保守費用も含めた総所有コスト(TCO)での比較検討
複数の開発会社から見積もりを取る際は、初期の開発費用だけでなく、保守・運用費用まで含めた総所有コスト(TCO)で比較検討することが重要です。初期費用が安く見えても、月次の保守費用が割高に設定されていれば、5年、10年という長期スパンで見たときのトータルコストは逆転することが少なくありません。見積もり依頼の段階から、初期開発費用と月次保守費用、想定されるインフラ費用の増加ペースをセットで提示してもらい、複数年でのシミュレーションを行ったうえで比較することをお勧めします。目先の金額だけでなく、長期的な費用対効果を見据えた判断こそが、システム開発を成功に導く鍵となります。
まとめ

本記事では、システム開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、規模別の月次保守費用の目安、保守費用に含まれる作業内容とインフラ費用との違い、内製・外注・オフショアによる保守コストの違い、費用が想定より膨らむ主な原因、そしてコストを適正化するためのポイントまでを体系的に解説しました。保守費用の目安は年間で初期開発費用の15〜25%であり、これに加えてクラウド利用料などのインフラ費用が別途発生することを理解しておく必要があります。想定外のコスト増加を防ぐためには、SLAと保守契約範囲を明文化し、初期費用と保守費用を合わせた総所有コストで比較検討する視点を持つことが欠かせません。システム開発の発注を検討されている方は、初期費用の見積もりと同時に、リリース後の保守・運用費用についても具体的な内訳を確認しながら、複数の開発会社に相談していくことをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
