浄水場監視システム開発の進め方は、現状調査、要件定義、基本設計と調達方式の決定、技術選定と実証、詳細設計・構築、試験・移行、運用改善という7つの工程を順番に積み上げていくことが基本です。
本記事では、自治体や水道事業者、施設運営会社の担当者が浄水場監視システムを新規開発・更新する際に、どのような順序で検討を進め、どの工程で何を決めればよいかを具体的に解説します。監視のみか監視制御まで行うか、既設設備をどこまで流用するかといった、進め方を左右する分岐点もあわせて整理します。
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浄水場監視システムとは何ですか?

浄水場監視システムとは、取水・沈砂・凝集・沈殿・ろ過・消毒・送水などの処理工程と、ポンプや薬品注入設備、受変電設備、場外配水池などを、センサーとPLC・RTU、通信網、SCADA・HMIによって監視・制御する設備です。単に画面で状態を見るだけの「監視」と、設定値の変更やポンプ・弁の操作まで行う「監視制御」では、必要な安全対策や開発範囲が大きく異なるため、進め方を検討する最初の段階でこの違いを区別しておく必要があります。対象を自治体・水道事業者・施設運営会社のどの立場で導入するかによっても、求められる可用性や監査要件は変わります。
監視のみと監視制御の違いを最初に決めます
監視のみのシステムは、計測値やアラームを遠隔で確認できれば目的を達成できるため、比較的短期間・低コストで構築できます。一方、監視制御まで含める場合は、誤操作防止のインターロック、権限管理、通信断時のフェイルセーフ、操作履歴の監査ログなど、安全に関わる要件が一気に増えます。最初の企画段階で、対象施設のどこまでを制御対象にするかを決めておくと、後工程での仕様変更を防げます。
たとえば、夜間の巡回負担を軽減したいだけであれば監視のみで目的を達成できる一方、熟練職員の退職を見据えて操作そのものを省人化したい場合は監視制御まで踏み込む必要があります。目的を曖昧にしたまま進め方を検討すると、途中で範囲が膨らみ、期間と費用の両方が当初計画から大きくずれる原因になります。
主要機能と構成要素を把握します
主な機能は、流量・水位・圧力・濁度・残留塩素・pHなどの計測値収集、現場PLCとの自動制御、中央監視画面での状態表示・操作、上限下限や通信断・機器異常などのアラーム通知、トレンドや帳票・日報・履歴の保存、複数施設の広域監視、操作履歴や権限管理を含む監査ログ、そしてバックアップ・冗長化・停電時の復旧です。映像監視やタブレット対応、設備台帳や保全管理、電力使用量分析まで連携させる構成もあり、開発範囲を決める前にどこまで含めるかを整理しておくことが重要です。
これらの機能をすべて最初から作り込む必要はなく、優先度の高い機能から段階的に開発する進め方も現実的です。特に、アラーム通知と履歴保存は初期段階から整備しておくと、後から監視制御へ拡張する際の判断材料となるデータが蓄積され、要件定義の精度が上がります。
浄水場監視システム開発の進め方

開発は、現状調査から運用改善までの7段階で進めると全体像を把握しやすくなります。ここでは、要件定義・企画フェーズ、設計・開発フェーズ、テスト・リリースフェーズの3つに分けて、それぞれで確認すべき内容を解説します。工程を飛ばして設計から着手すると、現地の実態と要件が食い違い、手戻りが発生しやすくなります。
要件定義・企画フェーズ
最初に行うのは現状調査です。P&ID(配管計装線図)やI/Oリスト、既設のPLC・盤・計装・ネットワーク・OS・ライセンスの保守期限、施設を止められる時間帯までを棚卸しします。老朽化したPLCやサポート切れのOSを使い続けている場合、更新の緊急度を判断する材料になります。
続く要件定義では、監視範囲、操作権限、アラームの優先度、データの保存期間、帳票の様式、水質に関する責任分界、災害時の運転継続方針、運転員への教育計画、保守のSLAまでを具体的に決めます。国土交通省が示す「水道情報活用システム」の考え方に沿って、データ項目、時刻同期、単位、タグ命名、通信プロトコル、APIの所有権を初期要件に含めておくと、将来の更新で特定のベンダーに縛られにくくなります。
この段階で導入効果も数値化しておくと、稼働後の評価がしやすくなります。夜間巡回にかかっている時間、異常発生から復旧までの平均時間、手作業での帳票作成にかかる工数などを基準値として記録し、稼働後の同じ指標と比較できるようにしておくことが望ましいです。
設計・開発フェーズ
要件が固まったら、基本設計と調達方式を検討します。既設を一括で更新する方式、監視アプリと設備工事を分離して発注する方式、設計・施工・維持管理を一括で任せるD/B/M方式、PFIや包括委託を活用する方式などを比較し、仕様書にはオープンなインターフェースやデータの持ち出し方法、引き継ぎ手順、検査方法を明記します。
次に技術選定と小規模な実証を行います。既製のSCADA・監視パッケージ、クラウド監視、水道情報活用システムに対応した製品、OPC UAなどの標準通信を比較検討し、まずは非制御のデータ収集や一施設だけで接続試験を行うと、本格導入前にリスクを洗い出せます。詳細設計・構築の段階では、PLC・RTU、HMI、サーバ、ネットワークの冗長化、時刻同期、バックアップ、権限・ログの設計とあわせて、現地施工や既設からの切替手順を具体的に作り込みます。
テスト・リリースフェーズ
試験は、工場出荷前に行うFAT(工場試験)と、現地に設置してから行うSAT(現地試験)の2段階が基本です。通信断、停電、センサー異常、復旧、誤操作といった異常系のシナリオも必ず試験に含め、旧システムと並行運転を行ってから本番切替に進みます。運転員向けの教育や操作マニュアルの整備も、この段階での重要な成果物です。
本番切替では、深夜や取水量の少ない時間帯を選んで実施し、切り戻し手順もあらかじめ用意しておきます。切替直後は通常より頻繁に巡回・確認を行い、想定していなかったアラームが発生していないかを人の目でも確認する期間を設けると、初期トラブルを早期に発見できます。
稼働後は、アラーム件数、巡回時間、復旧時間、水質逸脱の有無、電力使用量、保守費用といった運用KPIを継続的に追い、契約更新のタイミングでデータと仕様を次の事業者へ引き継げる状態を保つことが、長期的な運用改善につながります。
費用相場とコストの内訳

浄水場監視システムの費用は、対象施設数や監視のみか制御までかといったスコープによって大きく変わります。公開されている自治体案件をもとに整理すると、金額はおおむね3つの層に分けて考えると理解しやすくなります。一般的な業務Webシステムの相場をそのまま当てはめると、見積もりの妥当性を正しく判断できません。
規模別の費用レンジ
既設を活用した監視画面やテレメータの部分改修であれば、目安は500万〜3,500万円、期間は3〜9か月程度です。神戸市の2025年案件では、浄水場の中央監視制御設備改修が539万円、工業用水の監視システム改修が2,530万円で契約され、唐津市のテレメータ装置更新は3,355万円でした(出典: 神戸市「水道局随意契約(2025年11月物品等契約分)」、2025年)。
PLCやHMI、計装を含む小〜中規模の中央監視更新では、1,000万〜1億円、6〜15か月程度が目安です。1浄水場と場外施設、水道情報活用システムへの対応アプリまで含める場合は、5億〜15億円、24〜36か月程度になります。2025年の名張市の案件は、中央監視制御設備、対応アプリ、場外テレメータ5対向、計装機器を含み税込11.33億円、履行期間は約31か月でした(出典: 名張市「令和7年度上半期契約状況」、2025年)。複数浄水場を対象にした広域運転監視・クラウド共通基盤になると、10億〜30億円以上、24〜48か月以上が目安で、日立製作所が受注した広島県の9浄水場の広域運転監視・制御システムは契約金額約10億円、2022年6月から2025年3月までの案件でした(出典: 株式会社日立製作所「広島県の浄水場9カ所の広域運転監視・制御システムを受注」、2022年)。
初期費用以外のランニングコスト
初期費用だけでなく、年間の保守・監視費用、通信回線費、クラウド利用料、ライセンス費、脆弱性対応、現地への駆け付け費用も予算化する必要があります。15年・30年といったライフサイクルコストや運用費の上限、更新時に別のベンダーへ切り替えられるかという再競争性も、進め方を検討する早い段階から評価項目に加えておくことが重要です。
特に、24時間365日の遠隔監視や夜間の緊急駆け付けを保守契約に含めるかどうかで、年間の運用費は大きく変わります。初期費用の見積もりだけで比較すると、稼働後の保守費用が想定より膨らむことがあるため、契約前に保守範囲と対応時間を具体的に確認しておくことが望ましいです。
見積もりを取る際のポイント

同じ「浄水場監視システムを更新したい」という依頼でも、条件の整理度合いによって各社の見積もりの前提がばらつきます。比較しやすいRFPを作るための3つのポイントを解説します。前提条件をそろえずに相見積もりを取ると、金額差の理由が説明できなくなります。
要件明確化と仕様書の準備
見積もり依頼の前に、監視のみか制御まで含めるか、対象施設数、既設のどこまでを流用するか、更新対象の計装・盤、クラウド接続の可否、保守年数を整理します。これらが曖昧なままだと、ある会社は監視画面だけの見積もりを出し、別の会社は現地工事や保守まで含めた見積もりを出すといった前提のずれが生じ、単純な金額比較ができなくなります。
整理した内容は、箇条書きの要望書ではなく、施設の系統図や既設一覧とあわせてRFPの形にまとめておくと、各社が同じ前提で提案しやすくなります。特に既設のPLCメーカーや通信方式は、接続可否を左右する重要な情報のため、正確に記載します。
複数社比較と発注先の選び方
候補会社は、公開実績、既設設備との接続性、保守体制、入札参加資格、地域拠点、夜間対応の可否、同規模のFAT・SAT実績で比較します。安い見積もりが提示された場合は、既設をどこまで流用する前提か、保守費用が含まれているかを必ず確認し、条件をそろえたうえで再提示してもらうことが大切です。
提案内容を評価する際は、価格表だけでなく、進め方の説明が具体的かどうかも確認します。現状調査の進め方、要件定義での確認項目、試験のシナリオ、切替時の立会体制まで具体的に説明できる会社は、実際のプロジェクト運営でも安定した進行が期待できます。
注意すべきリスクと対策
ベンダーロックインを避けるため、データ項目、通信プロトコル、APIの仕様が公開されているか、契約終了時にデータやソースを引き継げるかを確認します。また、国土交通省は2026年5月に「水道分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン」を第二版に改定しており、浄水場の監視制御システムは重要システムの例に含まれています。インターネット接続の可否、閉域網や分離の方針、主体認証、サポート中のOSの利用、不正プログラム対策、USBなど媒体の管理、ログ・バックアップ、インシデント対応を、要件定義の段階から仕様書に反映することが欠かせません(出典: 国土交通省「水道分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン」第二版、2026年5月改定)。
よくある質問(FAQ)

浄水場監視システムの開発を検討し始めた担当者から、進め方に関して特に多く寄せられる質問に回答します。金額や期間だけでなく、監視範囲の決め方についても質問が集まりやすい傾向があります。
浄水場監視システムの開発にはどれくらいの期間がかかりますか?
既設を活用した部分改修であれば3〜9か月、PLC・HMIを含む中央監視更新であれば6〜15か月、1浄水場と場外施設をまとめて更新する場合は24〜36か月程度が目安です。複数浄水場を対象にした広域運転監視基盤では、24〜48か月以上を見込む必要があります。現状調査から要件定義までの期間を短縮すると、後工程での手戻りが増えやすいため、初期工程には十分な時間を確保します。
既設のPLCや盤を止めずに更新できますか?
多くの案件で、既設設備を稼働させたまま段階的に切り替える方法が採られています。新旧システムを一定期間並行運転し、計測値やアラームが一致することを確認してから本番を切り替える進め方が一般的です。停止できる時間帯や範囲を現状調査の段階で正確に把握しておくことが、無停止に近い更新を実現する前提になります。
監視のみのシステムから監視制御へ段階的に拡張できますか?
可能です。最初は計測値の収集とアラーム通知にとどめ、運用が安定した段階でポンプや弁の遠隔操作まで拡張する進め方は、リスクを抑えながら投資を分散できる方法として広く採用されています。将来の拡張を見据えて、通信方式やデータ項目を標準化した設計にしておくと、後から制御機能を追加する際の改修範囲を小さくできます。
進め方の途中でベンダーを変更することはできますか?
契約の区切り方次第で可能です。要件定義とRFP作成までを独立したフェーズとして発注し、その後の設計・開発を別途入札にかける進め方であれば、要件が明文化されているため、途中からベンダーが変わっても引き継ぎがしやすくなります。逆に、企画段階から特定の1社だけに相談を続けると、仕様がその会社の製品に依存しやすくなる点に注意が必要です。
まとめ

浄水場監視システム開発の進め方は、現状調査と要件定義で対象範囲を固定し、設計・開発フェーズで方式とベンダーを選定し、試験・移行フェーズで安全に切り替えるという流れに沿って進めることが基本です。
監視と制御の範囲を最初に決めます
監視のみか監視制御まで行うかによって、必要な安全対策と開発規模が大きく変わります。企画段階でこの範囲を明確にし、水道情報活用システムの考え方に沿ったデータ標準化を意識しておくと、将来の更新でも同じ担当者や自治体が主導権を持って進めやすくなります。
次のアクションとして仕様書の整理から始めます
次に取り組むべきことは、現状設備の棚卸しと、監視範囲・保守年数・既設流用範囲を整理した仕様書の草案づくりです。費用相場や発注方法の詳細は、それぞれ別記事で解説していますので、あわせて確認しながら進めてください。段階を飛ばさずに一つずつ固めていくことが、結果的に最短で安全な更新につながります。
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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
