Cloudflare「Clairic」を解説|LLMより速い抽出モデルで帳票処理はどう変わるか

Cloudflareは2026年10月19日、非構造データから値を抽出・計算・推定・予測するSystem One型の抽出モデル「Clairic」を発表しました。Workers AIでプレビュー提供を始め、モデルID @cf/cloudflare/clairic で呼び出せます。

Clairicは、請求書や領収書、問い合わせメールの内容を自由文やJSONとして生成するのではなく、指定した型の値として返します。文字列の位置、欠損の確率、信頼度も受け取れるため、抽出結果を業務システムの後段へ渡す設計を組みやすくなります。

Cloudflareの損傷品請求テストでは、抽出・判断・返信をすべてLLMで行う構成と比べ、Clairicを含む構成が処理時間を69%短縮し、コストを49%抑えました。ただし、これは同社の比較条件での結果です。自社の帳票で使うなら、精度だけでなく人手確認率と切り戻し方法まで測る必要があります。

※本記事は2026年10月21日時点の情報です。

請求書・領収書・問い合わせメールをClairicが読み取り、confidence付きの型付きの値として業務システムへ渡す流れ
文章を作らず、型を決めた値と信頼度を後段のシステムへ渡す

Clairicとは|非構造データから型付きの値を返す

Clairicの位置付けを理解するには、生成AIに任せている仕事を分けて考えると分かりやすくなります。LLMは文章の作成や複数の情報を踏まえた説明を得意とします。一方、請求書から請求額を取り出す仕事は、答えの形が決まっている抽出です。

Clairicは後者に向けたモデルです。読み取った名前や注文番号を入力内の文字列として返し、金額や日付は指定した型に沿って返します。入力にない項目は値を作らず、null として扱える点も、自由文を解析する構成との違いです。

Cloudflareは、Clairicを「System One型の抽出モデル」と説明しています。1回のフォワードパスで処理し、回答のための文章や出力トークンを生成しません。System Oneの意思決定モデルが選択肢から判定するのに対し、Clairicは入力にある値、入力から計算した値、根拠のある推定値を返します。

この考え方は、TypeSafeのJevなどで知られるSystem Oneモデルの流れともつながります。System Oneモデルの考え方を踏まえると、Clairicは汎用LLMを置き換える製品というより、LLMへ渡す前のデータを整える役割だと捉えられます。

ポイント

Clairicは文章を作るモデルではなく、非構造データを型付きの値へ変換する前処理モデルです。抽出はClairic、判断は意思決定モデル、説明文はLLMという分担を設計できます。

APIの仕組み|stateとfieldsで抽出条件を定義する

Clairicへのリクエストは、読み取る内容を入れる state と、返してほしい項目を並べる fields で構成します。請求書なら、請求書番号を text、請求額を number、支払期限を date と定義する形です。

項目ごとに自然言語の指示も添えられます。日付や金額を後から文字列として解析するのではなく、最初に型を指定するため、システム側で小数点や日付形式を検査できます。複数の項目は同じ入力に対する並列パスで処理されます。項目数が1回の処理に収まらない場合も、入力全体を見せたまま分割される仕組みです。

text の回答には、値だけでなく入力内の文字列スパンとオフセットが付きます。注文番号がメールの何文字目にあったかを保存できるため、担当者は元の文面を見ながら結果を確認できます。入力に項目がないときは p_null と null が返り、回答の確からしさは confidence で示されます。

画像も最大4枚まで入力可能です。紙の領収書やスキャンした帳票を対象にする場合は、画像の解像度や傾き、文字の欠けを含めて正解データを作ることが先です。Vision対応でも、読めない文字が正しく補われるわけではありません。

推定と予測も同じ仕組みで扱います。estimate は指定した範囲内の分布と80%区間、forecast は将来の各ステップの推定値を返します。取り出した値を次のAPIへ渡す前に、型・欠損・信頼度を業務ルールで検査することが重要です。

判定モデルのAPI設計を知りたい場合は、Jev APIの使い方も参考になります。Clairicでは選択肢を列挙するのではなく、戻り値の型と範囲を先に定義する点が異なります。

ポイント

導入前に、業務項目をどの型で返すか、欠損時に何をするか、元文面へ戻れるかを決めます。モデルの回答をそのまま確定値にせず、後段の検査とレビューまで含めて設計します。

速度とコスト|Cloudflareの請求処理テストで69%短縮・49%低コスト

Clairicの効果を具体的に示すのが、Cloudflareが公開した損傷品請求の比較です。Clairicがメールから事実を抽出し、Clefが判断し、GLM-5.3が返信を書く構成と、GLM-5.3だけで3段階すべてを処理する構成を比べています。

比較項目Clairic→Clef→GLM-5.3GLM-5.3のみ
処理時間(1件)19.3秒61.7秒
抽出ステップ0.46秒16.1秒
コスト(100万件)6,032ドル(約90万4,800円)11,740ドル(約176万1,000円)

Cloudflareはこの結果を、処理時間69%短縮、約3.2倍高速、コスト49%低減と説明しています。差が生まれた理由は、LLMに抽出や判定までさせず、速い型付き処理に分けて、文章生成を最後の返信だけに残したことです。出力トークンを大量に使う工程を減らすことも、コスト差につながります。

ただし、これはCloudflareが選んだ入力とモデル構成による比較です。自社で測るときは、同じ帳票、同じ正解条件、同じ確認工程で、LLM単独と分担構成を比べます。抽出の速さだけでなく、誤抽出を人が直す時間まで含めた処理時間を記録してください。

Cloudflareの損傷品請求テスト。Clairic→Clef→GLM-5.3の構成は1件19.3秒・100万件6,032ドル、GLM-5.3のみは61.7秒・11,740ドル。処理時間69%短縮、コスト49%低減
Cloudflareが選んだ入力とモデル構成での比較結果

Cloudflareが示す料金は1件のAPI単価ではなく、抽出・判断・返信を組み合わせたパイプライン全体の試算です。モデルの価格表だけを見て採算を決めず、呼び出し回数、再処理、レビュー、保存と監視の費用を自社の業務量に当てはめる必要があります。

ポイント

69%短縮と49%低コストは、抽出・判定・文章生成を分担したCloudflareの比較結果です。自社ではモデル単価ではなく、正解率、人手修正、再試行を含む1件あたりの総コストで判断します。

限界と安全な使い方|confidenceだけで自動化を決めない

Clairicはプレビューであり、Cloudflare自身も現在のエンドポイントを「early checkpoint」と位置付けています。読み取りは強い一方、長い計算の連鎖や表の多くの行をまたぐ集計は難しいため、複雑な計算はコードへ移す運用が必要です。

推定にも条件があります。入力に比較対象や履歴などの根拠があれば推定しやすく、根拠がない値を尋ねても精度は期待できません。予測も専用の時系列モデルを置き換えるものではなく、入力に表れない休日や制度変更は捉えられません。

CloudflareのTSA空港利用者数の例では、21日間の翌日予測の平均誤差は3.3%、実測値は21件中17件が80%区間に入りました。一方、区間の外れには休日の影響が含まれました。この結果は、区間を表示する機能と、未知の要因まで予測できることを混同しないための例です。

信頼度を業務に組み込むなら、次のような分岐を先に決めます。confidenceで自動処理と人手確認を分ける方法と同じく、数値の大小だけでなく、業務の失敗コストを基準にすることが大切です。

  1. 自動処理:型、根拠、confidence、p_nullが業務の閾値を満たした値だけを後段へ渡す。
  2. 人手確認:欠損の確率が高い値、根拠を追えない値、金額の影響が大きい値を担当者へ送る。
  3. 差し戻し:画像が読めない、計算が多段になる、入力に根拠がない場合はコードや別モデルで処理する。

ポイント

型付きの回答は、正しさの保証ではありません。confidence、p_null、80%区間を業務ルールと組み合わせ、重要な処理は別の根拠または人手確認へ分けます。

企業が導入前に確認すること|プレビューで小さく測る

ClairicはWorkers AIのプレビューで、入力100万トークンあたり0.10ドルです。1ドル=150円で換算すると約15円で、出力トークンの料金はありません。コンテキストウィンドウは65,536トークン、画像入力にも対応し、WorkersのバインディングまたはREST APIから呼び出せます。

料金が低いことは試す理由になりますが、本番採用の判断材料はそれだけではありません。プレビューでは提供条件やモデルの挙動が変わる可能性があるため、呼び出し先を1か所に隔離し、結果の型を業務システムへ直接埋め込まない構成が扱いやすくなります。

最初の対象は、正解データを作りやすく、誤りの影響を人が確認できる業務が向いています。請求書の番号・日付・金額、問い合わせメールの注文番号・配送日、領収書の合計額など、項目と型を先に決められる処理から始めます。

  • 正解データ:帳票の種類ごとに正しい値と、許容できない誤りを用意する。
  • 確認分岐:自動処理、人手確認、差し戻しをconfidenceと業務影響で分ける。
  • 運用計測:抽出精度、確認率、処理時間、再試行、1件あたりの総コストを記録する。
  • 切り戻し:プレビューの更新や停止に備え、既存LLMや手作業へ戻せる経路を残す。
Clairicを試すときに先に決める4項目。正解データ、確認分岐、運用計測、切り戻し
精度だけでなく、確認率と総コスト、戻し方まで先に決めておく

自社で運用した結果、抽出だけでなく分類や文章作成まで必要なら、Clairicを単独で使うのではなく、専用モデルとLLMを組み合わせます。小型モデルの費用対効果を考えるときも、低価格モデルでAIアプリの採算を合わせる考え方が参考になります。

ポイント

まずは正解を定義しやすい帳票やメールで小さく測り、精度・確認率・処理時間・総コストを記録します。プレビューの変更や停止に備え、既存の処理へ戻せる経路も残します。

よくある質問

Q. Clairicは何に使うモデルですか?

非構造データから文字列・数値・日付などを抽出・計算し、根拠がある場合は推定・予測する用途です。自由文の作成はLLMに任せる役割分担ができます。

Q. ClairicはLLMよりどの程度速く安いですか?

Cloudflareの損傷品請求テストでは、19.3秒対61.7秒、1百万件あたり6,032ドル(約90万4,800円)対11,740ドル(約176万1,000円)でした。前者は69%短縮、約3.2倍高速、49%低コストという条件付き結果です。

Q. Clairicの出力は常に正しいですか?

いいえ。型を満たす値でも正しさは保証されず、confidenceやp_null、区間を使って別の根拠との照合や人手確認に分ける必要があります。

Q. 料金と利用方法は?

Workers AIで入力100万トークンあたり0.10ドル(約15円)、出力トークン料金なしです。WorkersバインディングまたはREST APIからプレビュー利用できます。

まとめ

CloudflareのClairicは、LLMにJSONを作らせる工程を、型付きの抽出・計算・推定・予測へ置き換えるSystem One型モデルです。Workers AIのプレビューとして、テキストと画像から値を返し、confidenceやp_nullを使った確認分岐を設計できます。

Cloudflareの比較では速度とコストに差が出ましたが、帳票の種類、正解データ、レビュー体制によって結果は変わります。企業が最初に取り組むべきことは、対象業務を限定し、既存LLMとの比較を同じ条件で測ることです。

ポイント

Clairicを導入するかは、69%短縮や49%低コストという数字だけで決めません。正解率、人手確認率、処理時間、総コスト、プレビュー終了時の切り戻しを一つの評価表で比べてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。