株式会社ELYZAは2026年10月2日、「ELYZA RSI Research」の設立と、国立情報学研究所のLLM-jp-4シリーズを基盤にした2つの推論モデルの公開を発表しました。公開されたのは「ELYZA-Thinking-1.0-llm-jp-4-33b」と「ELYZA-Thinking-1.0-llm-jp-4-32b-a3b」です。
両モデルはELYZAがMid-trainingとPost-trainingを行い、日本語・英語の理解と生成、日本語の推論や指示追従を重視したモデルです。公式発表は商用利用可能な形での公開を示しており、自社環境で検証できる選択肢が増えました。
一方、RSI研究は「AIが完全に自分でAIを改良する機能」の提供を意味しません。ELYZAの発表は、基盤モデルやハーネス、評価機構を自律改善する研究を、RSIに至る前段階の要素技術として位置づけています。モデル選定と研究成果を分けて読むことが導入判断の出発点です。
※本記事は2026年10月14日時点の情報です。

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発表概要|2モデルの公開とRSI Researchを同時に開始
今回の発表は、モデル公開と研究組織の設立という2つの話で構成されています。ELYZA RSI Researchは、再帰的自己改善(Recursive Self-Improvement、RSI)に関する研究開発を担う組織です。AIが自身の能力や開発プロセスを反復的に改善し、成果を次の開発へ活用する考え方を扱います。
研究対象は、AIエージェントが基盤モデルやハーネスを改善し、評価結果を次の開発へ戻すサイクルです。将来は、開発を担うAIエージェント自身も改善対象に含めることを目指しています。
ELYZAは「AIによるAI開発」を4段階に整理しています。これは同社の研究上の整理で、一般に確立した成熟度標準ではありません。現時点はRSIそのものではなく、前段階の要素技術を研究する段階です。
自律改善エージェントの実運用を考えるときは、AIエージェント実験の失敗事例で扱われるような、人のレビューや監督体制の論点も外せません。研究の自律性と、企業が許可する権限は別に設計します。
ポイント
ニュースの主役は、商用利用可能な形で公開された2モデルと、AIによるAI開発を研究する組織です。RSIを実現済みの製品機能として扱わないことが重要です。
モデルの中身|LLM-jp-4を基盤に33B Denseと32B-A3B MoE
ELYZAは、LLMCが開発したllm-jp-4シリーズに社内のLLM学習基盤を適用しました。人間が介在する作業を1〜2人日程度に抑え、Mid-training、Post-training、評価までを実行したと説明しています。
33bはllm-jp/llm-jp-4-33b-baseを基盤にしたDenseモデルです。32b-a3bはllm-jp/llm-jp-4-32b-a3b-baseを基盤にしたMoEモデルです。ELYZAのモデルカードでは、表示モデルサイズをそれぞれ33B params、32B paramsとしています。
| モデル | 構成 | 表示モデルサイズ | 基盤モデル | Overall/日本語平均 | 導入時の確認点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 33b | Dense | 33B params | llm-jp-4-33b-base | 61.69/62.18 | モデル全体を読み込む実行環境。 |
| 32b-a3b | MoE | 32B params | llm-jp-4-32b-a3b-base | 58.46/59.61 | 活性化パラメータと推論実測。 |
32B-A3Bは128のrouted expertsから8つを活性化します。活性化パラメータは3,827,476,992、総パラメータは32,139,028,992、コンテキスト長は65,536です。32Bという表示だけで、必要なGPU容量や速度を33B Denseと単純比較することはできません。

基盤モデル、追加学習、ライセンス、実行環境を確認するときは、中国製オープンウェイトAIのモデル選定の論点も参考になります。
ポイント
33B Denseと32B-A3B MoEは、数字が近くても計算の仕組みが違います。総パラメータと活性化パラメータを分け、実行環境でメモリと速度を測定してください。
日本語推論と評価結果|ベンチマークは条件と一緒に読む
33bのモデルカードでは、7つの能力グループ内で平均してから全体を平均する方式です。Overallは61.69、日本語は62.18、英語は59.72です。32b-a3bはOverall 58.46、日本語59.61、英語55.94と掲載されています。
評価表には、MMLU-Pro、JMMLU、GPQA、MATH-500、JMATH-500、IFEval、コード、関数呼び出しなどが含まれます。33bカードの既定値はtemperature 0.6、top_p 0.95で、最大出力はネイティブコンテキストから4,096トークンを引いた値です。
ただし、Overallの差をそのまま自社業務の優劣に置き換えることはできません。モデルカードにはベンチマーク別スコアと一部の推論設定が掲載されています。評価用プロンプトや使用ハードウェアの詳細までは確認できません。日本語の社内用語、長い文書、ツール呼び出し、正解の判定方法をそろえて再評価します。
モデル選定では品質だけでなく、推論コストと処理時間も同じ条件で測ります。同一指示でAIモデル11種を比較した実験が示すように、公開ベンチマークの数値と実運用のコストは別の評価軸です。
ポイント
33bの平均値が高いことは、すべての業務での優位性を示しません。自社の日本語データ、ツール利用、完了条件、推論コストで再評価します。
商用利用とライセンス|Apache-2.0の条件を分けて確認する
ELYZAの公式発表は2モデルを商用利用可能な形で公開するとし、2つのモデルカードのLicense欄はapache-2.0です。Apache License 2.0は、有償・無償を問わず作品や派生作品の複製・配布を認める一方、再配布や改変には条件があります。
- ライセンス:再配布時にApache License 2.0のコピーを含める。
- 変更表示:変更したファイルに変更した旨を表示する。
- 表示の保持:著作権・特許・商標・帰属表示を保持する。
- NOTICE:配布物に含まれるNOTICEの帰属表示を読み取り可能な形で含める。
このライセンスは商標の使用許諾を含みません。モデルを商用サービスへ組み込めることと、ELYZAやLLM-jpの名称・ロゴを広告へ使えることは別問題です。推論利用か、重みや改変版の再配布かを分け、開発と法務で確認します。
ポイント
「商用利用可能」は無料・無条件・ロゴ利用可という意味ではありません。推論利用と再配布を分け、LICENSE、変更表示、NOTICE、帰属表示を確認します。
RSI研究の実験|モデル・ハーネス・評価を改善ループにする
ELYZAは、ベンチマーク「ELYZA Agent Tasks: Customer Service」をAIで半自動作成しました。日本語カスタマーセンターの問い合わせ応答業務が対象です。2026年10月2日に公開しました。通信、EC・フリマ、ホテル、宅配の4ドメイン96シナリオを評価できます。
評価では、業務データベース、ツール実行履歴、応対記録、会話ログの4種類の証跡を使います。モデル自身の自己申告だけでタスク達成と判定しない設計です。SOPの選択、SOPに沿った処理、ツール利用、最終処理結果という業務プロセスの段階を評価対象にしています。
自律改善エージェントでAIエージェントの動作やツール利用を制御するハーネスを改善しました。2種類の開発系ベンチマークで、タスク成功率が14.4ポイント、27.2ポイント向上しています。問い合わせ応答業務では、未使用のテストデータの完遂率が34.3%から52.9%へ上昇しました。差は18.6ポイントです。

精度向上とコスト削減の双方を目的にした場合、精度向上だけを目的にした場合と比べ、精度をほぼ維持しながら推論コストを67%削減しました。いずれも特定の研究結果です。一般の業務導入で同じ改善率が得られると示したものではありません。
企業が得られる示唆は、AIに改善を任せること自体ではなく、改善を判定する仕組みの設計です。対象タスク、完了条件、評価証跡、再評価の手順を先に決めます。
ポイント
14.4ポイント、27.2ポイント、18.6ポイント、67%は特定の研究実験の結果です。評価証跡と再現条件を用意してから改善率を測ります。
導入判断|オープンモデルと自律改善を安全に検証する
ELYZAはRSI関連研究に伴う想定外の挙動や技術の悪用リスクを挙げています。安全性を重要な研究課題に位置づけました。LLM-jp-4の基盤モデルカードも、研究開発の初期段階にあり、人間の意図や安全性に沿う出力へ調整されていないと注意しています。
PoCは読み取り専用のデータと限定されたツールから始めます。出力は外部システムへ書き込ませません。人のレビューを通過した操作だけに限定し、失敗時の影響範囲を抑えます。
導入前には、次の項目を決めておきます。モデルの性能と業務の安全性を同じ計画で扱うためです。
- 対象業務:正解と完了条件、日本語の固有表現を定義する。
- 評価:代表データ、ツール実行履歴、再現条件を残す。
- 権限:ツール呼び出しと外部書き込みの範囲を限定する。
- 運用:人のレビュー、停止条件、推論コスト、再配布時のライセンス対応を決める。
自律改善を業務へ広げる前に、人間レビューと停止条件を設計します。失敗時に誰が止め、どの証跡で再開を判断するかまで決めて、企業の検証工程です。
ポイント
PoCの最初に、業務の完了条件、評価証跡、権限、人のレビュー、停止条件、コストを定めます。RSIは前段階の要素技術として検証し、実現済みの機能とは扱いません。
よくある質問
Q. ELYZA-Thinking-1.0とは何ですか?
LLM-jp-4を基盤にELYZAが追加学習した、33B Denseと32B-A3B MoEの推論モデルです。
Q. ELYZA-Thinking-1.0は商用利用できますか?
公式発表は商用利用可能な形での公開を示し、2つのモデルカードはapache-2.0を表示しています。再配布・改変時はライセンス、変更表示、著作権・帰属表示、NOTICEの条件を確認します。
Q. 33Bと32B-A3Bの違いは何ですか?
33bはDenseの33B params、32b-a3bはMoEの32B paramsです。32B-A3Bは128 routed expertsのうち8を活性化し、活性化パラメータは3,827,476,992です。
Q. ELYZAはRSIを実現したのですか?
RSIそのものを実現したという発表ではありません。基盤モデル、ハーネス、評価機構を自律改善する研究を、RSIに至る前段階の要素技術として位置づけています。
まとめ
ELYZA-Thinking-1.0は、LLM-jp-4を基盤にELYZAが追加学習と評価を行った33B Denseと32B-A3B MoEの推論モデルです。モデルカードにはApache-2.0が表示されています。
ELYZA RSI Researchの成果は、ハーネスや評価機構を含む自律改善の研究です。14.4ポイントや27.2ポイントの成功率向上、完遂率34.3%から52.9%、推論コスト67%削減という数値は、対象タスクと評価設計を持つ実験結果です。
ポイント
導入時は、モデルの構成・ライセンス・自社タスクの評価を確認し、自律改善には権限・人間レビュー・停止条件を組み込みます。RSIは前段階の要素技術として検証します。
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