ServiceNow「AI Passport」を解説|AIエージェントの権限を実行時に確かめる仕組み

ServiceNowは2026年10月15日、AIエージェントとModel Context Protocol(MCP)サーバーの許可範囲を実行時に確かめる「AI Passport」を発表しました。複数のエージェントが連携するワークフローでも、各段階で権限を検証するauthority layer(権限レイヤー)です。

企業のIT責任者にとっての意味は、エージェントが何をしたかを後から記録するだけでなく、実行中の行動を許可範囲に照らして制御できる点にあります。AI Passportは暗号学的に署名された資格情報として動き、ServiceNowのCMDB、GRCポリシー、ワークフロー承認を権限の根拠にします。

AI Passport、Shadow AI detection、AI Cost ManagementはQ4 2026提供予定です。提供を待つ間に、どのエージェントが何へ接続し、どの権限で動き、逸脱時に誰が止めるのかを整理しておくと、導入時の評価が具体的になります。

※本記事は2026年10月19日時点の情報です。

AI PassportはCMDB・GRCポリシー・ワークフロー承認を根拠にした署名付きの資格情報で、AIエージェントとMCPサーバーの許可範囲を実行時に検証する
事後の監査ログではなく、実行中に許可範囲を確かめる

AI Passportとは|AIエージェントの許可範囲を実行時に検証

AIエージェントは、モデルの回答を返すだけでなく、データを参照し、ツールを呼び出し、別のエージェントへ処理を渡します。処理が複数段階に分かれるほど、「最初に承認した仕事」と「途中で実行しようとする操作」が同じとは限りません。AI Passportは、この差を実行時の権限確認で扱います。

ServiceNowの発表では、AI PassportはAIエージェントとMCPサーバーが許可されている範囲を、複数エージェントのワークフローの各段階で検証する仕組みです。エージェントごとにAI Passportを付与し、許可された範囲内の動作は継続させ、範囲を外れた動作には対応を強制します。

ここで押さえたいのは、AI Passportがエージェントの自己申告をそのまま信頼する設計ではないことです。暗号学的に署名された資格情報を使い、誰がどの範囲を承認したかを検証可能な形にします。AIエージェントを増やす企業ほど、個々のプロンプトや担当者の記憶に頼らず、共通の権限記録を持つことが必要になります。

事後の監査ログは、問題が起きた後に経路を追うための記録です。AI Passportは、行動を許可する前に範囲を確認する点が異なります。ログを残すことと、許可されていない操作を実行させないことを分けて設計するため、セキュリティ担当と業務担当の責任分界も置きやすくなります。

ポイント

AI Passportの役割は、エージェントの行動を後から説明するだけでなく、実行中に許可範囲を確かめ、逸脱した操作を止めることです。

権限の根拠と逸脱時の対応|CMDB・GRC・承認を行動制御へつなぐ

実行時に権限を確認するには、何を許可するかを業務の文脈で定義しなければなりません。AI Passportは、ServiceNow Configuration Management Database(CMDB)を基に発行されます。Governance, Risk, and Compliance(GRC)ポリシーとワークフロー承認も根拠に含め、システムの構成、社内ルール、承認経路を一つの判断材料にする考え方です。

たとえば第三者のAIエージェントに業務データの参照を任せる場合、エージェント側が「参照してよい」と説明するだけでは権限の根拠になりません。企業側の承認と実際の業務コンテキストから資格情報を発行し、その資格情報を実行中の接続先で検証します。第三者エージェントを受け入れるときの確認点が、製品選定から権限発行の設計へ移ります。

許可範囲から逸脱したエージェントへの対応は、リダイレクト、制限、コンテキストへの再接続と段階を踏み、必要なときにkill switchで止める
一律に止めず、業務への影響に応じて対応を選ぶ

許可範囲から外れた場合の対応は一律の停止ではありません。ServiceNowは、エージェントをリダイレクトする、行動を制限する、正しいコンテキストへ再接続するという段階的な対応を挙げています。業務を続けられる軽い逸脱と、直ちに止めるべき逸脱を分けるための設計です。

それでも終了が必要なときはkill switchを使い、machine speedで停止できます。運用側が決めるべきなのは、どの条件でどの対応へ移るかです。たとえば読み取り範囲の逸脱、権限のないツール呼び出し、承認のない委任を同じ重大度として扱うのかを、業務影響と復旧手順に結び付けておきます。

AI Passportには、第三者エージェント向けの精密な失効と、範囲を絞った委任も含まれます。委任のたびに行動範囲を狭められるため、親エージェントの広い権限を子エージェントへそのまま渡さない設計が可能です。監査記録にはコンプライアンス署名が含まれ、許可の履歴を追える形にします。

ポイント

導入前に、CMDB・GRC・承認をどの権限へ変換するか、逸脱の重大度ごとにリダイレクトからkill switchまで何を発動するかの見極めが必要です。

NVIDIA連携とMCP接続|権限をエージェントの外側でも強制

ServiceNowはNVIDIAをAI Passportの設計・ローンチパートナーとし、NVIDIA Open Agent Safety Platformを使った本番運用向けの強制実装を構築します。NVIDIA Open Agent Safety Platformの仕組みを確認すると、エージェントの外側に境界を置く考え方が分かります。

NVIDIA Open Agent Safety Platformは、オープンなリファレンス設計です。OpenShellのsecure runtime、NVIDIA Sentry、BlueField-4によるin-silicon security enforcementを組み合わせています。

OpenShellは、エージェントごとに分離されたsandboxを用意し、直接のネットワークアクセスを与えません。supervisorは実行時にネットワーク要求をポリシーで評価し、許可された場合だけ資格情報を供給します。allowとdenyの判断は監査ログに残るため、AI Passportの権限情報を実行環境の制御へつなぐ層になります。

NVIDIA Sentryは、BlueField-4 DPU上で動く帯域外の監視機構です。NVIDIAは、エージェントがソフトウェア境界から出ようとした場合、ミリ秒単位で隔離・停止できると説明しています。モデルやエージェントの判断に安全性を委ねず、実行基盤側にも制御を置く構成です。

MCPは、AIエージェントが外部のツールやシステムへ接続するためのオープンな標準です。ServiceNowのAI Gateway FAQでは、MCPサーバーとツールのインベントリ、承認ワークフロー、OAuth 2.1認証を提供すると説明しています。実行時ポリシー、機密データ検出、Pauseも対象です。設定変更はキャッシュ更新で10分以内に反映されます。MCPサーバーの公開範囲と認証も、AI Passportの対象範囲と分けて点検します。

AI GatewayはServiceNow AI Agent Studioで作ったエージェントだけに閉じた機能ではありません。FAQでは、Microsoft Copilot Studio、AWS Bedrock、Google Vertex AI、カスタム基盤なども対象に挙げています。接続がAI Gatewayを通れば、プラットフォームを問わず統制できると説明されています。非人間IDの権限管理と合わせ、エージェントのID、MCP接続、ツール単位の権限を分けて管理する視点が必要です。

ポイント

AI Passportの設計では、資格情報を発行する場所、MCP接続を通す場所、実行環境で強制する場所を分けて確認します。1つの製品だけで全境界を扱う前提にしないことが出発点です。

導入前の確認|Q4 2026提供予定に備えて棚卸しを進める

AI Passportの提供時期はQ4 2026です。発表された機能を待つだけでは、利用開始時に権限の設計材料が足りません。まずは現在動いているAIエージェント、外部のMCPサーバー、接続するデータとツール、発行済みのIDを一覧にします。

導入前に、資産(AIエージェント・MCPサーバー)、権限(CMDB・GRCポリシー)、停止(kill switch)、価値(コスト・品質)の4項目を棚卸しする
提供開始を待つ間に、誰が何へ接続しているかを一覧にしておく

ServiceNowは、未承認エージェントを見つけるShadow AI detectionを発表しました。プラットフォームやベンダーをまたいだAI検出には400+の標準コネクターを使う設計です。実際の権限付与状況に基づくAccess mappingと、エージェントのトレース・挙動を追うcontinuous enterprise AI observabilityも含まれます。自社の棚卸しでも、台帳と実際の接続・権限が一致しているかを確認します。

  • 資産:AIエージェント、MCPサーバー、利用モデル、接続ツールの所有者と用途をそろえる。
  • 権限:CMDB、GRCポリシー、承認記録と、実際に付与された権限を照合する。
  • 停止:リダイレクト、制限、再コンテキスト化、kill switchの発動条件と責任者を決める。
  • 価値:利用量、コスト、品質、実現した利用者価値を追える指標を置く。

ガバナンスはセキュリティだけの仕事ではありません。ServiceNowは、利用者・部門・実行時間単位のコスト管理と、消費・コスト・品質・実現価値を結ぶValue Intelligenceを発表しています。モデルやSaaS組み込みAI、ハイパースケーラー、データセンターGPUの費用をまとめるAI Cost Managementも含まれます。許可範囲を広げる判断には、守れるかだけでなく、価値が費用に見合うかも必要です。

ポリシー違反への対応は、alert、throttle、blockの段階で管理できます。最初から全面停止にすると業務が止まり、警告だけでは逸脱を防げません。業務影響とデータの機密度を基準に、どのエージェントは警告、どのツールは絞り込み、どの操作は即時ブロックとするかを決めることです。

実行時の可視化を運用へつなげるときは、AgentOpsの可観測性・評価・監視で扱うような、実行経路と評価結果の記録も確認します。AI Passportの資格情報、MCPの呼び出し、ツールの結果、停止判断を同じ監査の流れで追える状態が、現場の復旧を早める設計です。

ポイント

提供予定日までに、AI資産・MCP・権限・停止条件・監査・費用と価値を棚卸しします。準備ができていれば、AI Passportの検証機能は導入判断に直結する材料です。

よくある質問

Q. AI Passportは何を確認しますか?

AIエージェントとMCPサーバーが実行時に許可されている範囲を確認します。資格情報はCMDB、GRCポリシー、ワークフロー承認を根拠に発行されます。

Q. AI Passportはいつ利用できますか?

ServiceNowの発表では、AI Passport、Shadow AI detection、AI Cost ManagementはQ4 2026提供予定です。

Q. NVIDIAとの連携は何を担いますか?

NVIDIAは設計・ローンチパートナーとして、Open Agent Safety Platformを使ったAI Passportの本番運用向け強制実装を構築します。

Q. 導入前に企業が確認すべきことは何ですか?

AIエージェント、MCPサーバー、接続データとツール、ID、権限、逸脱時の停止条件、監査、コストと価値を棚卸しします。

まとめ

ServiceNowのAI Passportは、AIエージェントとMCPサーバーの許可範囲を実行時に検証する権限レイヤーです。CMDB、GRCポリシー、ワークフロー承認を根拠にした署名付き資格情報を使い、逸脱時には制限やkill switchを適用します。

企業が確認すべきなのは、AI Passportの名称だけではありません。AI資産とMCP接続の棚卸し、権限の発行・委任・失効、実行環境での強制、監査、停止、費用と価値の計測を一つの運用にまとめることです。Q4 2026の提供に備え、まず現状の権限と接続先を一覧化します。

ポイント

AIエージェントを本番へ広げる判断は、何を任せられるかだけでなく、許可範囲を実行中に検証し、逸脱したときに止められるかで決まります。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。