基幹システム/ERPリアーキテクチャとは、モノリス化した基幹システムをドメイン境界に沿って分解し、マイクロサービスやコンポーザブルな構成へ段階的に組み替えることです。業務要件やパッケージの入れ替えは議論されても、既存構造の組み替えまで踏み込めている企業は多くありません。
- 業務要件の洗い出しとパッケージの入れ替え
- モノリシック構造を内部から組み替える設計論
- マイクロサービスやコンポーザブルな構成への再設計
IT部門やアーキテクト、エンジニアの方が、自社にとってこの技術的な再設計がどこまで必要かを判断できるよう、実務に即して解説します。このテーマ全体については、次の記事をご覧ください。
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基幹システム/ERPリアーキテクチャの定義

基幹システム/ERPリアーキテクチャは、既存のERPや基幹システムを廃棄して作り直すことではなく、内部構造を段階的に組み替えることを指します。会計、生産、販売、人事給与といった業務領域が一つの巨大なコードベースに閉じ込められている状態を、ドメインごとに独立したサービス群へ再構成していく取り組みです。
対象はすでに稼働している既存システムで、新規に基幹システムを立ち上げるプロジェクトとは前提が異なります。
巨大なモノリスをコンポーザブルな構成へ組み替える取り組み
従来の基幹システムやERPパッケージの多くは、会計、購買、生産、販売、在庫、人事給与といった機能が一つのアプリケーションとして密結合しています。そのため、ある機能を変更しようとすると、関連する他の機能への影響範囲を広く確認する必要があり、小さな改修であってもリリースまでに長い検証期間がかかります。
リアーキテクチャは、こうした一枚岩(モノリス)の構造を、ドメインごとに独立してデプロイ・スケールできるコンポーザブルな構成へ組み替えることを目的とします。
既存の基幹システム・ERPが対象であること
リアーキテクチャという言葉は、ゼロから基幹システムを新規構築するグリーンフィールドのプロジェクトとは区別して使われます。
対象になるのは、すでに事業を支えている既存のERPや基幹システムであり、稼働を止めずに内部構造を組み替えるブラウンフィールドの取り組みです。稼働中の業務を続けながら移行する必要があるため、一度にすべてを置き換えず、対象ドメインを絞って少しずつ進める設計になります。
モノリシックな基幹システムの構造的限界とリアーキテクチャが必要になる背景

基幹システムのモダナイゼーションには、リホスト、リプラットフォーム、リファクタリング、リビルド、リプレースという複数の手法があります。リアーキテクチャは、このうちリファクタリングやリビルドをさらに一段深掘りし、構造そのものの設計に踏み込む取り組みです。
構造の再設計まで必要になる理由は、モノリシックな基幹システムが抱える限界にあります。
一体化した業務ロジックによる変更・拡張の遅れ
モノリシックな基幹システムでは、会計処理と在庫管理、販売管理と生産管理といった異なる業務ロジックが同じコードベースの中で相互に参照し合っていることが珍しくありません。
この状態では、一つの機能改修が意図しない箇所に影響するリスクが常にあり、テスト範囲を絞れないままリリースサイクルが長期化します。
たとえば、市場の変化に合わせて販売条件やキャンペーン機能を素早く追加したい部門があっても、基幹システム全体の改修サイクルに引きずられてしまいます。
需要が集中する機能だけを個別にスケールできない制約
モノリシックな構成では、決算期の会計処理やキャンペーン時の受注処理のように特定の機能へアクセスが集中する場面でも、アプリケーション全体を一括でスケールさせるほかありません。
負荷の高くない機能まで含めてリソースを増強することになり、インフラコストが業務量に対して非効率に膨らみます。
リアーキテクチャによってドメインごとにサービスを分けられれば、負荷が集中する機能だけを選んでスケールでき、インフラコストを最適化できる余地が生まれます。
リアーキテクチャの仕組み(1):モノリス分解とストラングラーフィグパターン

モノリスをどのように分解していくかは、リアーキテクチャの実務において最も具体的に問われる部分です。
ここでは、モノリス分解の進め方、稼働を止めずに新旧を共存させるストラングラーフィグパターン、そして分解が本番稼働からROI回収に至るまでの大まかな時間軸を取り上げます。
段階的なステップによるモノリス分解
モノリス分解では、まず対象システムの中からドメイン境界を特定し、切り出す範囲を決めます。
次に、既存の処理を残したまま新しいサービスを並行して構築します。新サービスが正しく機能することを確認できるまでは、旧来の処理へフォールバックできる状態を維持します。
そのうえで、トラフィックを段階的に新サービスへ切り替え、問題がないことを確かめてから旧コードを削除します。次のドメインへも、同じ手順を繰り返します。この反復によって、一度に全体を作り替えるビッグバン型の移行に伴うリスクを抑えられます。
ストラングラーフィグパターンによる新旧の並行稼働
ストラングラーフィグパターンは、既存のモノリスを覆うように新しいサービスを少しずつ配置し、最終的に旧来の処理を置き換えていく進め方です。
この方法の利点は、スプリントごとに「どのドメインが新サービスへ移行できたか」という測定可能な成果を示せることです。全体の完成を待たずに途中経過を評価できるため、経営層やプロジェクト関係者にも説明しやすい進め方です。
新旧の処理を同時に運用する期間が生じるため、二重運用や整合性の確保が実務上の負担になる点も理解しておく必要があります。
パイロットからスケールまでの4つのフェーズ
一般には、リアーキテクチャの取り組みを4つのフェーズに分けて捉えます。最初は技術的な実現可能性を確かめるパイロットで、次に一部を段階的に本番稼働させるMVPへ進みます。そのうえで、対象ドメイン全体を本番へ移すプロダクション移行と、投資回収を進めるスケールへ至ります。
目安として、パイロットは3〜6か月程度、MVPは6〜12か月程度で一部のROIが表れ始めます。プロダクション全体の移行には12〜18か月程度、投資回収が進むスケールまでは18〜36か月程度を要するとされています。
これらの期間はあくまで一般的な目安であり、対象ドメインの数や既存システムの複雑さによって大きく変動します。
リアーキテクチャの仕組み(2):ドメイン駆動設計によるドメイン境界の設計

モノリスをどこで切り分けるかという判断には、ドメイン駆動設計(DDD)の考え方が広く用いられます。ここでは、コアドメインの絞り込み方と、境界を可視化する手法、業務領域ごとに異なるサービス粒度の使い分けを解説します。
コアとなる3〜5のビジネスドメインへの絞り込み
DDDに基づくドメイン境界の設計では、最初から会計、生産、販売、人事給与といったすべての業務を細かく分解しようとはしません。まずは自社の基幹業務にとって重要度の高い3〜5程度のコアドメインを特定するところから始めるのが一般的です。
すべての業務領域を一度に対象にすると、境界の見極めが甘くなり、後から手戻りが発生しやすくなります。
優先度の高いドメインから着手し、分解・運用して得た知見を次のドメインの設計に反映していく進め方が、過度な分解を避けるうえで有効とされています。
EventStormingによるビジネスプロセスの可視化
ドメイン境界の妥当性を検証する手法として、EventStormingと呼ばれるワークショップ形式の手法が用いられることがあります。
業務担当者とエンジニアが同じ場で、発注や検収、支払いといった業務上の出来事(イベント)を時系列に並べます。そのうえで、どこまでを一つの「境界づけられたコンテキスト」として扱うか、部門ごとに異なる言葉の意味(ユビキタス言語)をどう統一するかを議論します。
境界の決定に業務側の理解を反映させることが、後工程での手戻りを減らすことにつながります。
安定領域と変動領域によるサービス粒度の使い分け
ドメインを切り分ける際は、サービスの粒度を領域ごとに変えてもかまいません。
一般会計や人事給与のように変更頻度が低く安定している領域は、比較的大きな単位の「マクロサービス」としてまとめて維持します。一方、販売促進やキャンペーン管理のように仕様変更が頻繁に起こる領域は、「マイクロサービス」や「ミニサービス」として細かく分解します。こうした使い分けは、実務上のベストプラクティスとされています。
安定領域まで無理に細分化すると、サービス間の呼び出しや運用管理の複雑さだけが増えてしまうため、注意が必要です。
API-first設計とクラウドネイティブアーキテクチャパターン

ドメインを分解した後、各サービスをどうつなぐかという設計も、リアーキテクチャの重要な要素です。
ここでは、API-first設計の考え方、クラウドネイティブなアーキテクチャで採用される代表的なパターン、そしてデータベース分離の考え方を整理します。
API-first設計によるコントラクトの先行定義
API-first設計とは、実装に着手する前にサービス間のインターフェース仕様(コントラクト)を固め、それを起点に各チームが並行して開発を進める考え方です。仕様はOpenAPIやProtocol Buffersなどの形式で定義します。
コントラクトを先に固めることで、フロントエンドや他サービスの開発チームは、実サービスの完成を待たずにモックサーバーを使って開発を進められます。
さらに、契約テストをCIパイプラインに組み込めば、サービス間のインターフェースが後から食い違うリスクも早い段階で見つけられます。統合や仕様変更にかかる時間の短縮効果が報告されています。特に、複数チームが並行して基幹システムの機能を開発する体制では、この考え方が有効に働きます。
クラウドネイティブなアーキテクチャパターンの採用
クラウドネイティブなアーキテクチャでは、コンテナ化されたサービスをKubernetesのような基盤上で運用し、サービス間の通信や可観測性をサービスメッシュで管理する構成がよく採用されます。
マイクロサービス化とDevOps体制を組み合わせることで、リリースサイクルの加速や市場投入までの期間短縮につながるという報告もあります。
ただし、サービスメッシュや分散トレーシングといった基盤そのものの導入・運用には専門知識が必要です。そのため、基幹システムの機能開発とは別に、プラットフォームを整備する工数を見込んでおく必要があります。
サービスごとのデータベース分離とマスタデータの連携
サービスを分解する際は、データベースについても各サービスが専有する「Database-per-Service」の考え方が原則になります。
ただし、取引先マスタや品目マスタのように複数ドメインが参照する共有データは、複数の方法を組み合わせて設計します。具体的には、データを重複させてイベント駆動で同期する方法、共有の参照データサービス経由でAPIから取得する方法、DTO(データ転送オブジェクト)で内部のスキーマを隠して受け渡す方法があります。
マスタデータの扱いを曖昧にしたままサービスを分割すると、後になってデータ不整合の解消に多くの工数を要することになります。
リアーキテクチャの目的・効果と関連する取り組みとの違い

リアーキテクチャに投資する目的は、技術を新しくすることそのものより、変更しやすさとコスト構造の改善にあります。
ここでは期待される効果を見たうえで、混同されやすい「モダナイゼーション」「刷新」「更改」「リニューアル」との違いを確認します。
TCO削減と変更容易性の両立という目的
リアーキテクチャに取り組む主な目的は、変更容易性の向上とコスト構造の最適化を両立させることにあります。
ドメインごとに独立してリリースできる構成になれば、特定の業務機能だけを迅速に改修・拡張できます。需要が集中する処理だけを選択的にスケールさせることで、インフラコストの無駄を抑えられます。
中長期的なTCO(総保有コスト)が2〜4割程度削減される可能性が報告された事例もあります。ただし、これは分解対象の規模や既存システムの状態によって大きく変わるため、自社の状況に照らして参考値として扱う必要があります。
モダナイゼーション・刷新・更改・リニューアルとの軸の違い
基幹システムやERPに関する取り組みには、目的の異なる複数の切り口があります。「モダナイゼーション」は、リホストからリプレースまでの複数手法を並列に扱います。「刷新」は、経営判断として全社合意形成を進めます。「更改」は、保守契約やハードウェアの期限を起点とします。「リニューアル」は、現場ユーザーの画面操作性を起点とします。
これに対してリアーキテクチャは、モノリスの分解、ドメイン境界の設計、API-first、クラウドネイティブといった、アーキテクチャそのものの技術的な再設計に特化した切り口です。経営会議で「なぜ今刷新するのか」を議論する場面とは異なり、IT部門やアーキテクトが「どのようにシステムの内部構造を組み替えるか」を検討する場面で必要になる考え方です。
こう捉えると位置づけがはっきりします。自社に合う進め方や種類を具体的に比べたい場合は、基幹システム/ERPリアーキテクチャの選定ポイント/選び方/種類もあわせてご確認ください。
基幹システム/ERPリアーキテクチャ導入前の確認ポイント

リアーキテクチャは効果の大きい取り組みですが、すべての企業に同じように当てはまるわけではありません。そのため、着手する前に確認しておきたい実務上のポイントを整理します。
開発体制の規模と適用範囲
分散したサービス群を安定して運用するには、CI/CDパイプライン、監視基盤、サービスメッシュといった運用基盤を扱えるエンジニアリング体制が欠かせません。
開発組織の規模が小さいまま対象ドメインを大きく広げてしまうと、運用監視が行き届かなくなり、かえって障害対応に時間を取られることになります。
一般的には、開発者数が一定規模を超え、リクエスト量も相応に大きい組織で全面的なリアーキテクチャの投資対効果が見込みやすいとされています。一方、それに満たない組織では、対象ドメインを絞った部分適用から始める判断が現実的です。
分散型モノリスなどのアンチパターン
サービスを分割したつもりでも、サービス同士が同期呼び出しで密に依存し合ったままでは、障害の影響範囲だけが広がる「分散型モノリス」に陥ります。
ほかにも、典型的な失敗パターンがいくつか知られています。旧来のESB(エンタープライズサービスバス)のように、ロジックを中継層へ集約してしまう「スマートパイプ」の誤用があります。さらに、イベント連携の流れを誰も把握できなくなる「スパゲッティ・イベント」や、データの不整合を放置したまま運用を続ける状態も知られています。
分解を進める前に、こうしたアンチパターンを避ける設計指針をチーム内で共有しておくことが重要です。
部分適用と全面再構築の選び方
リアーキテクチャの進め方には、大きく2つあります。一つは、変動性の高い一部のドメインだけをストラングラーフィグパターンで切り出す部分適用です。もう一つは、レガシーの構造的な限界に達した場合に、全面的にコンポーザブルなERPへ再構築する進め方です。
部分適用は既存システムを維持しながら段階的に投資できる一方、新旧の並行運用という負担が伴います。
全面再構築は投資回収までの期間が長くなりやすく、対象範囲を誤ると分散型モノリスに陥るリスクも高まります。そのため、部分適用から着手して知見を蓄積する進め方が、現実的な選択肢として挙げられています。
まとめ

基幹システム/ERPリアーキテクチャは、既存のモノリシックな基幹システムを、ドメイン境界に沿ってマイクロサービスやコンポーザブルな構成へ段階的に組み替える、アーキテクチャそのものの技術的な再設計です。
モノリス分解の進め方、DDDによるドメイン境界の設計、API-first設計とクラウドネイティブなアーキテクチャパターンを理解しておく必要があります。そのうえで、経営判断の刷新、契約起点の更改、現場体験起点のリニューアルとは軸が異なることを踏まえて、計画を進めます。
技術的な再設計であり万能策ではない点
リアーキテクチャに取り組めば必ず開発スピードが上がり、コストが下がるというわけではありません。
分散システムには、可観測性の確保やサービスメッシュの運用負荷といった新たなコストが生じます。そのため、自社の開発体制の規模や対象業務の変動性を踏まえて、部分適用から始めるか、どの範囲まで広げるかを見極める必要があります。
効果が得られるのは、構造的な限界に直面している領域を正しく特定し、段階的に検証しながら進めた場合に限られます。
対象ドメインの洗い出しと優先順位づけ
着手する際は、まず自社の基幹システムがどの業務領域でどのような構造的な制約に直面しているかを洗い出し、優先度の高いドメインを1つか2つに絞り込むことから始めてください。
既製パッケージの機能だけでは対応しきれない独自業務や、既存システムとの複雑な連携が必要な場合があります。そうした場合は、ドメイン境界の設計支援、フルスクラッチによるマイクロサービスの構築、既存基幹システムとのAPI連携を含めた開発が必要になります。
riplaはフルスクラッチ開発の立場から、こうしたドメイン境界の設計や既存システムとの連携を含む基幹システムのアーキテクチャ再設計を支援しています。
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会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
