新規事業の立ち上げ方の完全ガイド

新規事業の立ち上げは、顧客視点を中心に置き、仮説を素早く検証して、学びに基づいて改善を重ねていく流れで進めるのが基本です。

ただ、実際には、アビームコンサルティングの調査では、取り組んだ新規事業のうち累積損失を解消できたのは7%にすぎず、93%は目標を達成できないまま終わっています。

事業開発の基本戦略は、次の記事で一つずつ解説しています。

プロダクトの展開や開発の進め方は、こちらの記事で確認できます。

リーンスタートアップ:最小コストで仮説を検証する思想

構築、計測、学習の3段階を循環矢印でつないだBMLループの図。
市場の反応を次の学びへつなぐ流れを示しています。

新規事業では、初期段階から多大なコストと時間をかけて完成品を作り込むやり方が、今日では大きなリスクを伴います。

リーンスタートアップは、こうした問題に向き合うための考え方です。「構築(Build)→計測(Measure)→学習(Learn)」というBMLループを繰り返し、最小限の投資で市場の反応を確かめながら事業を育てていきます。

MVP(実用最小限のプロダクト)という考え方

リーンスタートアップの核心となる概念のひとつが、MVP(Minimum Viable Product)です。MVPとは、顧客に価値を届けるための最低限の機能だけを備えたプロダクトを指します。

完成度を高めてから市場に出すのではなく、不完全であってもまずMVPを世に問い、実際のユーザーからフィードバックを得ることが大切です。得られたフィードバックをもとに仮説を修正し、次のMVPへとつなげていきます。このサイクルが、無駄な開発投資を避けながらプロダクトを磨き上げる道筋になります。

仮説検証では、「誰のどんな課題を解決するのか」を確かめるプロブレム・ソリューション・フィットが最初の関門になります。市場ニーズの不在は新規事業が失敗する最大の原因(42%)とされています。そのため、早い段階で顧客の課題を深く理解しておくことが欠かせません。

ピボットと継続判断:データが示す方向性

MVPを通じた学習の結果、当初の仮説が市場と合致しないと分かった場合は、大きく方向転換する「ピボット」が推奨されます。ピボットは失敗ではなく、学習の成果として位置づけられます。仮説と合わない場合とは逆に、データが仮説の正しさを示しているときは「継続(Persevere)」と判断し、プロダクトを磨き込んでいきます。

判断の拠り所は、感覚や思い込みではなく、実際のユーザー行動データや定量的な指標です。このようにデータに基づいて判断するからこそ、リーンスタートアップは「小さく始める」だけの思想にとどまらず、科学的なビジネス開発の手法として機能します。

詳しい内容は、関連記事「リーンスタートアップとは?:成功するビジネスのための新しいアプローチ」で解説しています。

ポイント

大きな投資を決める前に、MVPへの市場の反応から仮説が当たっているかを確かめられているかが判断の目安です。データが仮説と合わなければ、ピボットを検討します。

PMF(プロダクトマーケットフィット):市場と製品が噛み合う状態づくり

新規事業が中長期的に成長するためには、プロダクトと市場の適合状態、すなわちPMF(Product Market Fit)を達成することが不可欠です。

PMFとは「顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」を意味します。

この状態に達すると、ユーザーが口コミやリファラルで自然に広がり、チャーン(解約)率が下がって、事業のグロースが加速し始めます。

反対に、PMFを達成しないままスケールに投資すると、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるのと同じになります。

PMFを感じ取るための定性・定量サイン

PMFを達成しているかどうかは、複数の観点から確認する必要があります。定量的なサインとしては、月次アクティブユーザー数の持続的な増加、低いチャーン率、Net Promoter Score(NPS)の高さなどが挙げられます。

定性的なサインとしては、いわゆる「40%ルール」がよく知られています。これはショーン・エリス氏が提唱した指標で、「このプロダクトが使えなくなったら、とても残念だと感じる」と回答するユーザーが40%以上であれば、PMFに達しているとみなします。

PMF達成に向けた段階的戦略と市場セグメントの絞り込み

PMFを達成するうえで最もよくある誤りのひとつが、最初からターゲット市場を広げすぎることです。「誰にでも使えるプロダクト」は、往々にして「誰にも刺さらないプロダクト」になりがちです。

まずは特定の顧客セグメントに深く刺さることを優先し、そこで強固なフィードバックループを作ってから市場を広げると効果的です。PMFは一度達成しても、市場環境や競合状況の変化によって失われることがあるため、継続的に顧客の声を聞き、プロダクトを更新し続ける必要があります。

詳しい内容は、関連記事「PMF(Product Market Fit)の成功ガイド:市場で成功するためのステップと戦略」で解説しています。

ポイント

投資を広げる前に、口コミで利用が広がっているか、解約率が下がっているかを確かめるのが目安です。「使えなくなったら残念」と答えるユーザーが40%以上いるかも判断材料になります。

サービスデザイン:ユーザー体験から逆算した設計

発見、定義、開発、実装の4フェーズを左から右へ並べたダブルダイヤモンドの図。
情報を広げて収束させる段階が前半と後半にあります。

新規事業のプロダクトやサービスを設計する際、機能や技術から考え始めるアプローチには限界があります。

サービスデザインは、ユーザーが実際にサービスを体験する場面(タッチポイント)を中心に据え、それぞれの接点での体験を一貫して優れたものにするための設計思想です。

単なるUIデザインにとどまらず、業務フロー、システム、組織の仕組みまでを包括的に設計します。だからこそ、新規事業の立ち上げでも有効な手法です。

カスタマージャーニーマップとサービスブループリント

サービスデザインの現場でよく使われるツールのひとつが、カスタマージャーニーマップです。これは、ユーザーがサービスを認知してから利用・継続・離脱するまでの一連の行動・感情・思考を、時系列で並べたものです。

このマップを描くと、ユーザーが感じる不満やフラストレーションのポイント(ペインポイント)を見つけやすくなります。さらに、サービスブループリントを使うと、ユーザーの行動だけでなく、裏側の業務フローやシステムとの連携まで含めた全体像を構造的に整理できます。

ダブルダイヤモンドプロセス:発見から実装までの流れ

サービスデザインのプロセスとして国際的に広く使われている枠組みが、英国デザインカウンシルが提唱した「ダブルダイヤモンド」モデルです。「発見(Discover)」「定義(Define)」「開発(Develop)」「実装(Deliver)」の4フェーズから成り、広く情報を集めて収束させるフェーズを2回繰り返します。

最初の収束では「正しい問い」を設定し、二度目の収束では「正しい解決策」を導き出します。新規事業のサービス設計でこのプロセスを意識すると、思い込みによる設計ミスを大きく減らせます。

詳しい内容は、関連記事「サービスデザインの全体像とそのプロセス:ユーザー中心のアプローチで成功するためのステップ」で解説しています。

ポイント

機能を決める前に、ユーザーの行動と裏側の業務・システムを一つの流れとして説明できるかが判断の目安です。思い込みによる設計ミスを避けるには、発見と定義の段階で問いを固めておくことも欠かせません。

SaaS事業の開発戦略:サブスクリプション型ビジネスの立ち上げと成長

新規事業としてSaaS(Software as a Service)を立ち上げることは、近年のビジネスにおいて有力な選択肢の一つとなっています。

サブスクリプション型の収益モデルは、継続的な収入と顧客との長期的な関係構築を可能にします。

SaaSの成功は「一度リリースすれば終わり」ではなく、継続的な価値提供とユーザー起点の開発によって支えられるものです。

立ち上げ初期段階から成長期まで、それぞれのフェーズで取るべき戦略は異なります。

SaaS立ち上げの基本ステップとMVP開発

SaaSの立ち上げでは、まず解決すべき課題と対象顧客を明確にすることが出発点になります。その後、最小限の機能を備えたMVPを開発し、早期にユーザーを獲得してフィードバックを集めます。

MVP開発の費用は一般的に300万円程度が目安とされています。一方で、その後の本格的なローンチには1,000万円以上の投資が必要になるケースが多いとされています。

初期段階では特定のニッチ市場に絞り込み、そこで圧倒的な支持を得てから市場を広げる進め方が、多くの成功事例で見られます。

SaaS成長を測る重要指標:ARRとチャーンレートの管理

SaaSビジネスの健全性を評価するには、特有の指標を正しく理解する必要があります。ARR(年間経常収益)は事業規模の成長を測る最も重要な指標のひとつで、チャーンレート(解約率)はその持続性を示します。

LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)のバランスを見ると、収益構造の健全性を把握できます。一般的に、LTVがCACの3倍以上あることが、持続的なSaaSビジネスの目安とされています。これらの指標を定期的に確認し、改善施策に反映させることが、長期的な成功につながります。

詳しい内容は、関連記事「SaaSの開発戦略や立ち上げプロセスを学ぶ完全事例ガイド」で解説しています。

ポイント

立ち上げ期は、特定のニッチ市場で圧倒的な支持を得られているかが目安です。成長期は、LTVがCACの3倍以上あるかと、ARRやチャーンレートを定期的に確かめるのが目安です。

マルチプロダクト戦略:複数製品展開で競争優位を築く方法

ひとつのプロダクトで一定の市場シェアを確立した後、次のステージとして考えられるのがマルチプロダクト戦略です。

複数のプロダクトを組み合わせると、顧客との接点が増え、競合他社が容易に置き換えられない深い関係を築けます。

しかし、マルチプロダクト展開はリソースが分散するリスクも伴うため、タイミングと優先順位を慎重に見極める必要があります。

マルチプロダクト移行のタイミングと判断基準

マルチプロダクト戦略に踏み出すタイミングとして重要なのは、コアプロダクトでの成功が十分に確立されていることです。具体的には、コアプロダクトのPMFが達成され、安定したARRと低いチャーンレートが実現できていることが前提条件となります。

この状態に達する前に複数のプロダクトの開発に着手すると、どれも中途半端になるリスクがあります。また、第二のプロダクトは既存顧客が抱える別の課題を解決するものが理想的で、クロスセル・アップセルの自然な流れを生み出せる設計が望ましいとされています。

プラットフォーム化による顧客ロックインと収益拡大

マルチプロダクト戦略が成熟すると、複数のプロダクトが連携するプラットフォームとしての価値が生まれます。顧客が複数のプロダクトを活用するようになると、スイッチングコストが高まり、競合への乗り換えが難しくなります。

これが「顧客ロックイン」と呼ばれる状態で、長期的な収益の安定性に大きく貢献します。また、プラットフォームとしての地位が確立されると、サードパーティの開発者やパートナー企業がエコシステムを広げてくれる「ネットワーク効果」も期待できます。

詳しい内容は、関連記事「マルチプロダクト戦略の成功法:複数の製品展開による市場競争力強化ガイド」で解説しています。

モックアップとプロトタイプ:開発前に設計を確かめる重要ステップ

モックアップの静的なビジュアル設計と、操作できる機能を持つプロトタイプを左右に対比した図。
見た目の確認と操作の検証で使い分けます。

プロダクト開発の現場では、本格的なコーディングに入る前に設計の方向性を関係者間で合わせるプロセスが欠かせません。その際に活用されるのが、モックアップとプロトタイプです。

これらは似たように聞こえますが、目的と作り方が異なります。どちらをどのタイミングで使うかを理解しておくと、手戻りを最小限に抑えられ、開発コストと時間を無駄なく使えます。

モックアップとは:静的なビジュアル設計の役割

モックアップとは、実際の画面デザインを視覚的に表現した静的な設計図です。色使い、フォント、レイアウト、ボタンの位置など、プロダクトの見た目を具体化するために使われます。

動きや機能は持ちませんが、デザインの方向性を確認したり、クライアントや開発チームに完成イメージを伝えたりするのに非常に有効です。

FigmaやAdobe XDなどのデザインツールで作られることが多く、比較的短期間で作れるため、設計の初期段階で多く使われます。

プロトタイプとは:動作確認と仮説検証のための試作品

プロトタイプは、実際に操作できる機能を持つ試作品です。ユーザーが触って操作感を確かめたり、特定の機能の動作を検証したりするために使われます。プロトタイプには、紙とペンで描く「ペーパープロトタイプ」から、ほぼ実際のアプリと変わらない「高忠実度プロトタイプ」まで幅があります。

本格開発に入る前に、プロトタイプでユーザーテストを行い、設計の仮説を検証することが大切です。この段階で課題を見つけて修正すれば、開発コストを大きく削減できます。

詳しい内容は、関連記事「プロダクト開発/システム開発のモックアップとは?プロトタイプとの違いなど」で解説しています。

ポイント

見た目の方向性を合わせたいときはモックアップ、操作感や機能の動きを確かめたいときはプロトタイプが目安です。本格開発の前にプロトタイプで検証しておくと、手戻りを抑えられます。

ユーザーストーリー:開発チームとビジネスをつなぐ共通言語

プロダクト開発において、ビジネスサイドと開発チームの間で認識のズレが生じることは珍しくありません。

「何を作るか」ではなく「誰のために何を実現するか」という視点で開発の要件を整理するのが、ユーザーストーリーです。

アジャイル開発の現場で広く使われているこの手法は、新規事業のプロダクト開発においても、チーム全員が同じ目標に向かって動くための重要な基盤になります。

ユーザーストーリーの書き方と「誰が・何を・なぜ」の構造

ユーザーストーリーは「〇〇として(As a…)、〇〇したい(I want to…)、なぜなら〇〇だから(So that…)」という定型フォーマットで書きます。

例えば「新規登録ユーザーとして、メールアドレスだけで会員登録できるようにしたい。なぜなら、SNSアカウントを持っていない人もスムーズにサービスを使い始めてほしいから」のように書きます。ユーザーの立場と目的、その背後にある理由を明確にすることが狙いです。

このフォーマットによって、開発者は機能の意図を正しく理解したうえで、設計と実装を進められます。

バックログ管理と優先順位づけ:開発スプリントへの落とし込み

作成したユーザーストーリーは、プロダクトバックログにまとめて管理します。そのうえで、優先順位をつけながらスプリント(開発サイクル)に割り当てていきます。ユーザーにとって本当に価値のある機能から順にリリースするには、この流れが欠かせません。

優先順位は、ユーザーへのインパクトの大きさ、実装の複雑さ、ビジネス的な重要度などを総合的に判断して決めます。さらに、MoSCoW法(Must have / Should have / Could have / Won’t have)などのフレームワークを使うと、チーム全員が優先度の認識を合わせやすくなります。

詳しい内容は、関連記事「プロダクト開発とシステム開発におけるユーザーストーリーの重要性と活用法」で解説しています。

まとめ:新規事業を成功させるための一貫した思考と実践

ここまで、新規事業の立ち上げに必要な7つのテーマを見てきました。具体的には、リーンスタートアップによる仮説検証、PMFを目指す顧客の深耕、サービスデザインによるユーザー体験の設計、SaaSの成長戦略、マルチプロダクト、モックアップ、ユーザーストーリーです。各テーマは、独立したトピックではなく、新規事業の立ち上げという大きな流れの中でつながっています。

新規事業を成功に導くには、顧客理解から学びを次の改善へつなげる一連の姿勢が必要です。

  • 顧客視点を中心に据えた進め方
  • 仮説の素早い検証
  • 学びに基づく改善の積み重ね

大企業の新規事業が93%失敗するというデータが示すように、豊富なリソースがあっても、顧客理解と仮説検証を怠れば成功は難しくなります。

正しいプロセスと方法論を身につけていれば、スモールスタートであっても市場で確固たる地位を築くことは十分に可能です。

活用すべきフレームワークや指標は、事業の立ち上げ段階から成長段階にかけて変わっていきます。たとえば、初期はリーンスタートアップやPMFの達成に集中し、安定成長期にはSaaS指標の改善やマルチプロダクト展開を検討するというように、段階ごとに適切な戦略を選ぶことが大切です。

各テーマの詳細は、それぞれの関連記事で掘り下げています。次に読むテーマは、ご自身の事業フェーズや課題意識に合うものから選ぶとよいでしょう。

Webサービス開発やAI駆動開発については、次の資料で解説しています。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。