漏水監視システム開発の完全ガイド

漏水監視システムは、兆候の継続監視、候補地点の絞り込み、現場調査に分けて考えると、限られた予算と人員でも漏水課題に対応しやすくなります。

まず定義と検知方式を確認し、続いて開発の進め方と費用を見ます。そのうえで、発注先の選び方と安全対策を取り上げます。各テーマの詳細は関連記事もご覧ください。

▼関連記事一覧
・漏水監視システム開発の進め方
・漏水監視システム開発でおすすめの開発会社6選と選び方
・漏水監視システム開発の見積相場・費用
・漏水監視システム開発の発注・外注・委託方法

漏水監視システムの定義と役割

漏水監視システムは、水道管・弁・ポンプ・メーターから水圧や流量、音・振動、水位を継続して取得します。取得したデータから漏水や異常の兆候を早期に見つけ、担当者への通知から現場調査、修繕の記録までをつなぎます。画面表示では、地図で監視地点や管路を確認しながら、異常度に応じて優先順位を付けます。

水道管路は、法定耐用年数の40年を超えた経年化率が約23.6%で、更新ペースが続けば今後20年で約69%に上昇すると試算されています。

さらに、年間2万件を超える漏水・破損事故も報告されています(出典:国土交通省水管理・国土保全局、2024年度全国水道主管課長会議資料)。そのため、限られた予算と人員で課題に対応する手段として、システムの重要性が高まっています。

「監視」と「調査」の区別

監視と調査は、担う範囲が異なります。役割を分けて捉えると、担当の範囲がはっきりします。

  • 監視:異常の兆候を捉え、担当者へ通知
  • 調査:現場での特定・確認を通じて、漏水箇所を確定
  • 修繕:調査結果をもとに、修繕へつなげる

両者を組み合わせる場合は、業務フローと費用を分けて整理します。役割を先に定めておくと、システムに求める機能を検討しやすくなります。

主な検討者と抱える悩み

検討者は、水道事業体や自治体の上下水道担当、施設管理者、導入を支援するSI担当者です。設備管理者には、工場・商業施設・集合住宅の担当者も含まれます。いずれも、限られた予算と人員で、どの管路から始めるかが共通の課題です。

  • センサー配置:センサーの数と設置場所
  • AIの役割:AIによる漏水の確定の可否
  • 総額:初期費用と月額費用の金額
  • 既存連携:水道管路GISや監視制御システムとの連携の可否

検討初期には、誤報を抑えながら、異常を現場作業へつなぐ運用も課題になります。

漏水の検知方式と主要機能

検知方法は一つに絞らず、対象規模や管路特性に応じて組み合わせることが、実運用で成果を出すための前提になります。

検知方式の種類と使い分け

方式は、対象範囲やデータに応じて選びます。複数の方式を段階的に使う方法もあります。

  • 流量・水圧:配水区域の広域監視向け
  • 音響・振動:特定管路の継続監視向け
  • 衛星・地盤・履歴:センサー設置候補の絞り込み用

たとえば、衛星・履歴データで候補を絞り、IoTセンサーで監視し、現地調査で確定する三段階のモデルがあります。

総務省の実証事業では、八代市水道局管区でIoT振動センサーによる多地点同期計測を実施しました。その結果、検知率90%で128件を発見し、人手による従来の約70件を上回りました(出典:総務省「令和6年度地域デジタル基盤活用推進事業(実証事業)」)。

システムに求められる主要機能

主要機能は、データ取得から異常対応、既存システム連携までを支えます。通信が途切れた場合に備えて、一時保存と再送も要件に含めます。

  • データ収集・通信:水圧・流量・音響・振動・水位センサーやスマートメーターのデータを、LTE・LPWA等で送り、ゲートウェイ経由でクラウドに蓄積
  • 可視化:監視値、しきい値、トレンド、夜間最小流量の表示
  • 異常検知:しきい値・平常時との差、AIによる正常範囲の推定
  • 対応管理:通知から現場調査、修繕完了までの管理
  • 外部連携:GIS、SCADA、料金システム、資産台帳との接続

AIの判定は、調査の優先度を示すものとして扱う設計が安全です。漏水の確定は、現場での確認に委ねます。

漏水監視システム開発の進め方

目的とKPIの設定から現地・データ調査とPoC、技術方式の選定、本番運用へ進む流れを示した図解。
PoCで条件を確かめてから、導入方式を決める流れです。

開発は、まず目的とKPIを定め、次に現地・データ調査とPoCを行います。その後、技術方式を選んで本番運用へ移行します。

全管路を一度に対象にせず、事故の影響が大きい重要管路や漏水リスクの高い区域から始めると、限られた予算でも効果を出しやすくなります。

目的設定と現地調査・PoC

実証の前に、成果を測るKPIを決めます。KPIは、漏水率の低減、被害の縮小、巡回調査の負担軽減などから、一つ以上選びます。

  • 監視範囲:対象管路と監視地点の整理
  • 許容時間:検知から通知までに許せる時間
  • 既存データ:利用できるデータの有無

まず、管路材質・口径・埋設環境と、弁室やマンホールの電源・通信を調べます。あわせて、過去の漏水・修繕履歴とGISデータも集めます。

数地点で1〜3か月程度の実証を行い、検知率に加え、誤報率、通知遅延、現地確認に要した時間を評価します。

評価を終えてから、本格導入の計画を確定します。なお、現地条件の確認前に導入範囲を広げないことが大切です。

技術方式の選定と本番運用への移行

技術方式は、導入の速さ、拡張性、既存連携のうち、何を重視するかに合わせて選びます。

  • パッケージ・SaaS:早期導入と標準機能の重視
  • クラウドIoT:センサー増設や遠隔監視の重視
  • スクラッチ:既存連携と独自の判定ロジックの重視
  • ハイブリッド:標準監視SaaSと個別開発の組み合わせ

本番移行後は、一次判定から修繕までの流れと、モデルへのフィードバックを標準手順にします。

AIの結果だけで止水や掘削を判断しない仕組みが必要です。保守計画には、センサー校正、電池交換、通信監視を含めます。年次の訓練とセキュリティ点検も、保守契約の中で計画します。

▶ 詳細はこちら:漏水監視システム開発の進め方

ポイント

迷ったときは、目的とKPIを先に決め、重要管路や高リスク区域に絞ってPoCで効果を確かめてから、技術方式と本番移行を決めると整理しやすくなります。

開発会社・サービスの選び方

候補企業を比較する4つの観点として、検知方式・管径、既存連携、精度と運用、保守・権利を並べた図解。
同じ観点で提案を見比べると、得意領域を整理できます。

各社が強みを持つ分野は異なるため、会社やサービスは順位ではなく得意領域を基準に比べます。

  • 広域監視:水インフラを広く監視する領域
  • 音響検知:基幹管路の異常を捉える分野
  • 通信・自治体実証:通信や自治体での実証に強い分野
  • AI解析・現場連携:音響解析や現場調査との連携

対象規模に合わせた選定基準

候補企業は、管路規模や既存システムに合うかを同じ条件で比べます。比較項目をそろえて提案を受けると、知名度に左右されにくくなります。

  • 検知方式・管径:水圧・流量・音響・振動のどれを中心にするかと、対応する管径
  • 既存連携:GIS・SCADA・料金管理とのAPI連携の可否
  • 精度と運用:AIの検証方法と、誤報時の対応
  • 保守・権利:窓口、データの所有権、災害・通信断時の体制

提案時に確認すべき質問

提案では、実績だけでなく、障害や契約終了時の対応も確かめておきます。確認する質問は次のとおりで、候補企業すべてに同じ形で尋ねます。

  • 実績・精度:類似案件の管路規模と、精度の検証方法
  • 障害・提供時期:障害事例と再発防止策、実証中の場合は本格提供の時期
  • 契約体制:共同契約や再委託先の有無
  • データ移行:契約終了時の返却や移行の条件

可能であれば、管路データを匿名化して短期のPoCを行います。その際は、検知率だけでなく、誤報率と現地調査への引き継ぎやすさも評価します。PoCの評価を経て本契約へ進む2段階の発注方式も検討できます。

▶ 詳細はこちら:漏水監視システム開発でおすすめの開発会社6選と選び方

ポイント

迷ったときは、各社の得意領域を見たうえで、管路規模と既存連携の可否から候補を絞ります。提案では、障害時や契約終了時の対応まで同じ質問で確かめると比べやすくなります。

費用相場とコストの内訳

漏水監視専用の公開見積は多くありません。そのため、公開実績と類似する業務システムの規模から、2025〜2026年時点の目安を示します。

対象規模別の費用レンジ

四日市市上下水道局のクラウド型IoT遠隔漏水監視業務は、2024年度の落札価格が230万円(1年間)でした。また、同種委託の債務負担限度額は340万円です(出典:四日市市上下水道局「令和6年度入札結果(業務委託)」、2024年度)。

  • 小規模PoC・先行導入:5〜20地点で初期100万〜500万円、年間運用200万〜500万円。
  • 中規模クラウド導入:20〜100地点で初期500万〜1,500万円、年間運用300万〜1,200万円。
  • 個別開発:既存GIS・SCADA・料金管理との連携を含み1,000万〜3,000万円。
  • 本格開発:AI・音響解析・複数事業体対応を含み3,000万〜8,000万円。
  • 大規模案件:広域基盤や複数拠点を含み8,000万〜2億円超。

費用レンジは目安で、地点数や連携範囲など、案件の条件に応じて見積もりは変わります。

費用の内訳と変動要因

費用は、次の費目ごとに分けて、個別に提示してもらいます。

  • 機器・通信:センサー・ゲートウェイの購入・レンタル、通信SIM・回線
  • 設置・クラウド:現地設置・電源・防水、クラウド利用料・監視
  • 開発・連携:AI学習・再調整、既存システム連携
  • 安全・保守:セキュリティ診断・運用訓練、保守・交換

なお、古い複数センサー構成の月額価格情報は、2025〜2026年の相場とは扱わず、比較用の参考値にとどめます。実際の見積もりは、対象規模と検知方式、通信条件を伝えたうえで、開発会社ごとに確認します。

▶ 詳細はこちら:漏水監視システム開発の見積相場・費用

ポイント

費用は地点数や連携範囲、検知方式によって変わるため、公開された目安は比較の出発点として扱います。見積もりは費目ごとに分けてもらい、同じ条件で比べます。

発注・外注・委託の進め方

発注者が要件と責任範囲を自ら整理しておくと、外注後の認識違いを防ぎやすくなります。

RFPに記載すべき項目

RFPでは、対象範囲と検知要件を具体化し、既存連携とAIの役割も書き込みます。管路台帳などの保有データと、委託範囲は分けて示します。

  • 対象・方式:管路と監視地点数、検知方式
  • 通知・連携:通知までの許容時間、GIS・SCADA・メーター・料金管理との連携範囲
  • AIの判定範囲:調査優先度の提示か、自動判定まで求めるか
  • 役割分担:発注者の台帳・漏水履歴と、受託者の設置・運用範囲

自治体・水道事業体は、自らの調達がどこに当たるかも整理します。公募、一般競争入札、随意契約のほか、実証から本調達への流れもあります。

検収条件と責任分界

受入テストと障害時の対応は、契約前に決めておきます。合格基準には、検知率と誤報率の目標を数値で記載します。

  • 対応時間:通知から現地対応までの許容時間
  • 停止時対応:システム停止時の代替手順の有無
  • 誤検知・見逃し:連絡フローと閾値の見直し手順
  • 改善義務:システム側の改善義務の範囲

発注者と受託者の責任分界を合意しておくことが、稼働後のトラブルを避ける準備になります。

▶ 詳細はこちら:漏水監視システム開発の発注・外注・委託方法

ポイント

迷ったときは、RFPに対象範囲と役割分担を具体的に書き、検収条件と責任分界を契約前に合意しておくことを優先します。

セキュリティ・法規制上の注意点

水道施設を中央に置き、ネットワーク、認証・暗号化、監視・更新、継続・復旧の対策で囲んだ図解。
通信の分離から障害後の復旧まで、対策範囲を広く捉えます。

水道は、停止や機能低下が住民生活に影響する重要インフラです。そのため、費用や精度と並んで、安全対策と法規制も初期から考えます。

水道分野のセキュリティガイドライン

国土交通省は、重要インフラの行動計画・安全基準等策定指針の改定を案内しています。水道分野では、情報セキュリティ確保の安全ガイドラインが整備されています。2026年5月には、第二版への改定も案内されました。

ただし、適用の範囲は、接続する水道施設や制御系によって変わります。そのため、法務・情報セキュリティ部門と所管官庁への確認を前提にします(出典:国土交通省「上下水道:水道分野におけるサイバーセキュリティ対策」、2026年)。

RFPに含めるべきセキュリティ項目

RFPでは、資産・通信経路・データフローを台帳にまとめます。あわせて、通信や保存データ、権限、ログの管理も対象になります。

  • ネットワーク:監視系と、インターネット・業務系の分離
  • 認証・暗号化:端末・センサー・利用者の認証、最小権限、データ暗号化
  • 監視・更新:操作・設定変更・アラートのログ、脆弱性・パッチ・証明書・秘密情報の管理
  • 継続・復旧:バックアップ、通信断・停電時のローカル継続、復旧訓練
  • 供給網・終了時:供給者を含む管理、データ返却・消去、事故報告・復旧時の連絡体制

制御系へ指令を返さない構成にすると、リスクを下げやすくなります。分離の方法は、既存の構成と業務継続の要件に合わせて設計します。

ポイント

安全対策は、通信や権限、更新、復旧、供給者まで含めて考えます。適用の範囲は接続する施設ごとに変わるため、所管官庁への確認を前提に整理すると判断しやすくなります。

よくある質問(FAQ)

検討初期によく挙がる質問を、規模や体制にかかわらず確認される点から取り上げます。

何から始めればよいですか?

事故の影響が大きい重要管路や漏水リスクの高い区域を洗い出し、KPIを一つ以上決めます。そのうえで、まず数地点でPoCを行います。

全管路へ一括で導入せず、小規模導入で検知率、誤報率、費用対効果を確かめます。その後、対象範囲を段階的に広げていきます。この進め方は、多くの導入事例で採用されています。

AIの判定はそのまま信じてよいですか?

AIの判定だけを信じるのは避けます。判定は、漏水の確定ではなく、調査優先度を示すものとして扱います。固定しきい値や流量収支などの複数データと、AIの推定値を組み合わせます。

止水や掘削は、現場確認のあとに判断する運用フローを事前に決めておきます。

通信断や停電が起きたときはどうなりますか?

通信断時の一時保存と再送、停電・サイバー攻撃時の代替手順を、要件定義とRFPの段階で確かめます。制御系へ指令を返さない構成は、リスクの低減に役立ちます。

バックアップとローカル継続があれば、復旧時にデータを取りこぼさずに済みます。代替手順を確認しないまま契約すると、障害時に現場が混乱する原因になります。

まとめ

導入では、監視と調査の役割を分けたうえで、目的とKPIを決めることから始めます。そのあと、PoC、方式の選定、本番移行へと進めます。

限られた予算と人員に合わせて、重要管路や高リスク区域から着手します。評価では、検知率に加えて、誤報率と現地対応時間も見ます。

自社の対象規模と予算感の診断

対象の管路や設備を、数十地点未満、数十〜百地点程度、それ以上に分けて、規模を整理します。

  • 小規模:初期100万〜500万円、年間運用200万〜500万円程度。
  • 中規模:初期500万〜1,500万円程度。
  • 本格開発:既存連携やAI機能を含み3,000万〜8,000万円程度。

この規模感をもとに、パッケージ・SaaS、クラウドIoT、スクラッチ、ハイブリッドから方式を絞ります。

現場確認と代替手順の確認

AIの判定だけに頼らず、現場で確認する手順を発注前のチェック項目に加えます。

通信断・停電・サイバー攻撃時の代替手順も確認します。そのうえで、監視、調査、修繕の流れを選定の段階から意識します。

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張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。