EC刷新の完全ガイド

EC刷新は、既存のECシステムを新しい技術やプラットフォームへ移行・再構築する取り組みです。

刷新手法、移行計画、開発会社の選定、費用と発注方法を順に検討すると、自社に合う構成と進め方が見えてきます。

▼関連記事一覧
・EC刷新の進め方|手順・プロセスを徹底解説(No.1951)
・EC刷新でおすすめの会社|選び方のポイントも紹介(No.1952)
・EC刷新の費用相場|コストと予算の目安を解説(No.1953)
・EC刷新の発注方法|外注・委託時の注意点も解説(No.1954)

EC刷新の全体像

EC刷新の方式としてSaaS移行、スクラッチ、Headless Commerceを並べた図。
方式ごとの要件を見比べる出発点になります。

既存のECシステムを新しい技術やプラットフォームへ移行・再構築する取り組みは、一見すると見た目を新しくする作業に見えます。実際には、基盤、データ、業務フロー、外部連携まで見直す大規模プロジェクトです。

刷新が必要かどうかは、レガシーECの問題点を見ると判断しやすくなります。

レガシーECシステムの具体的な問題点

レガシーECは、構築から5〜10年以上が経ち、現在の技術水準や顧客ニーズに対応できなくなったECシステムです。

典型的な問題として最初に現れるのは表示速度の低下で、次に深刻なのがスマートフォンへの非対応です。

  • 表示速度:1秒の遅れでCVRが最大7%低下するというデータもあります。
  • スマートフォン対応:ECアクセスの6〜7割を占めるのに、PC向けに設計されたサイトでは文字やボタンが使いにくい場合があります。
  • セキュリティと改修:古い技術のリスクに加え、機能追加や改善に膨大な工数がかかる技術的負債も、刷新の大きな要因です。

Googleが推奨するCore Web Vitalsでは、LCP(最大コンテンツ描画時間)は2.5秒以内が基準です。特に古いシステムでは、この基準を大きく超えるケースが頻繁に見られます。

サポートが終了したフレームワークを使い続けると、個人情報の漏洩やカード情報の不正利用につながる恐れがあります。また、損害賠償に加えて、ブランドの毀損を招く可能性もあります。

刷新の手法(SaaS移行・スクラッチ・Headless Commerce)

刷新の方式は、規模や独自の要件によって向き不向きが分かれます。方式ごとに、初期費用、開発期間、業務への合わせやすさがどう違うかを見ておきます。

  • SaaS移行:初期費用を抑えやすく、セキュリティやインフラ管理をベンダーに任せられます。中小規模のECで選ばれやすい方式です。
  • スクラッチ:完全に新規で作るため、業務フローや独自の要件に対応できる一方、開発期間と費用が大きくなります。
  • Headless Commerce:表示速度とカスタマイズ性を両立できます。

SaaSには、Shopify、BASE、EC-CUBEのクラウド版などがあります。

Shopify Plusのランニングコストは、月約3万〜10万円に売上手数料を加えた額になります。

スクラッチは、大規模ECや複雑な商取引フローを持つ企業に選ばれています。

Headless Commerce(コンポーザブルコマース)は、フロントエンドとバックエンドを分離する最新手法です。たとえば、表示部分を独自に開発し、在庫・決済・注文処理はSaaSに任せるといった形になります。

Headless Commerceに対応できる開発会社は限られるため、導入時は設計・開発の難易度も考えておく必要があります。

▶ データ移行を含む手順の詳細はこちら:EC刷新の進め方(No.1951)

EC刷新の進め方

EC刷新時に移行対象となる商品マスタ、注文履歴、会員データを示す図。
対象データを種類ごとに整理できます。

EC刷新は、要件定義、設計、開発、テスト、移行、本番稼働の順に進みます。ただし、EC固有の課題も随所に現れます。

特に移行時期とデータ移行の計画は、軽視するとプロジェクト全体が炎上するリスクを高めます。

繁忙期を避けた移行タイムライン設計【重要】

見落とされがちな論点は、本番稼働の時期をどう決めるかです。年末商戦や大型セールの前後は、移行直後の不具合が売上に直撃する恐れがあります。

  • 稼働時期:閑散期の1〜2月や6〜7月が候補です。
  • 並行運用:旧・新システムを一定期間動かし、切り戻しに備えるための運用です。
  • 稼働後の監視:本番稼働から少なくとも1〜2週間は、人員を確保しておく体制です。

移行時期は、年末商戦(11〜12月)のほか、楽天スーパーセールやアマゾンプライムデーなどの大型イベントとも重ならないようにします。

候補日から逆算して計画を立てます。

並行稼働中は運用コストが2倍になります。その一方で、想定外の不具合に備えて切り戻しの選択肢を保てます。本番稼働後は旧システムへ戻すことが難しくなるため、監視体制には余裕を持たせておきます。

EC特有のデータ移行課題(商品マスタ・注文履歴・会員データ)

データ移行は、EC刷新のなかで最も工数がかかる作業です。対象データの漏れや形式の違いは、運用開始後の問題につながります。

  • 商品マスタ:商品名、価格、在庫数、属性情報が対象です。
  • 注文履歴:過去の購入記録で、問い合わせへの対応に備えて移行します。
  • 会員データ:氏名、住所、購入履歴が対象です。

注文履歴の移行漏れで問い合わせに対応できず、「注文したのに記録がない」と信頼を損なった事例があります。

旧・新システムで商品データの構造が異なる場合は、変換ルールを設計しておく必要があります。

サイズやカラーなどの商品バリエーションは、方式ごとに扱いが異なるため、移行設計の段階で確認します。

会員データは、ハッシュ化方式の違いによって、利用者にパスワードの再設定を求める場合があります。

データ移行を開発会社と発注者のどちらが担うかは、契約前に明確にしておきます。

▶ 詳細はこちら:EC刷新の進め方(No.1951)

ポイント

稼働日を年末商戦や大型セールと重ならないよう決められるか、データ移行の対象を漏れなく挙げられるかを、判断の目安にします。

開発会社の選び方

見積金額や提案資料だけで決めると、期待とのずれや追加費用が生じかねません。そのため、会社の種類と評価基準を確認しておきます。

EC専門企業とSIerの違い

開発会社は、EC専門企業と総合SIerに大別できます。得意分野は異なりますが、近年は対応範囲が重なる例もあります。

  • EC専門企業:ShopifyやEC-CUBEの導入、EC固有の課題に詳しい傾向です。
  • 総合SIer:ERPや基幹システムとの連携、大規模な構成に強みがあります。

EC専門企業は決済連携、商品管理、SEO対策に精通しています。一方で、総合SIerは複雑なシステム構成を扱う経験を持ちます。

年商数億円規模のECでSaaSへ移行する場合はEC専門企業が、基幹システムとの深い連携が必要な大規模刷新では総合SIerが選ばれる傾向です。

ただし、EC専門企業が基幹連携に対応したり、SIerがShopify Plusを構築したりする例もあります。

会社を評価する際は、実績、体制、対応範囲を具体的に確認します。

Headless Commerce対応・Core Web Vitals改善能力の評価基準

技術力は、刷新後に必要な拡張性や表示性能を実現できるかで評価します。提案の段階では、それを裏づける実績と見積もりの中身を、具体的な項目で確かめます。

  • Headless Commerce:Next.jsやNuxt.jsを使ったフロント分離の実績。
  • Core Web Vitals:指標の改善実績と、刷新後の目標値。
  • 見積書:工数、単価、成果物の粒度が妥当かどうか。

Googleは、LCP・FID・CLSを検索順位の評価基準に組み込んでいます。そのため、刷新後のスコア改善はSEOにも関わります。

提案段階でPageSpeed Insightsの目標値や過去の改善事例を求めると、技術力を判断しやすくなります。

▶ 詳細はこちら:EC刷新でおすすめの会社(No.1952)

ポイント

見積金額だけでなく、実績、体制、対応範囲を見て比べます。Headless CommerceやCore Web Vitalsの改善実績を示せるかも、技術力の目安になります。

費用相場

費用は、手法や規模、要件の複雑さによって異なります。初期費用だけでなく、運用・保守を含む5年間の総コストで比べます。

SaaS EC vs スクラッチの5年間トータルコスト比較

方式別の費用は、継続費用と業務への適合性も含めて比べる必要があります。

  • SaaS移行:ライセンス費用と売上手数料が継続してかかる方式。
  • スクラッチ開発:保守費用はかかるものの、自社業務に合わせられ、SaaSの売上手数料はありません。
  • 大規模EC:業務への適合性などによっては、SaaSとスクラッチの総費用が逆転する場合があります。

Shopify Plusの初期構築費用は300万〜1,000万円程度が一般的です。

ライセンス費用は月額3万〜10万円で、売上手数料0.25%が加わります。

月10万円のランニングコストと仮定すると、5年間で600万円です。これに初期費用を加えると、SaaS移行の総費用は1,600万円程度までになります。

スクラッチ開発の初期費用は1,000万〜5,000万円以上です。

年間の保守費用は、初期開発費の15〜20%が目安とされます。

初期費用が2,000万円なら、年間保守費は300〜400万円になり、5年間では1,500〜2,000万円が加わります。その結果、この例では総費用は3,500万円以上となり、規模によっては7,000万円以上のケースもあります。

フリーランスエンジニアを活用する場合、平均月単価は78〜80万円程度が相場です。

EC特有のランニングコスト(決済手数料・CDN・SEO維持費)

ECサイトには、一般的なWebサイトとは異なる継続費用があります。見落としやすいのは、次の項目です。

  • 決済手数料:クレジットカード決済では売上の2〜4%程度です。
  • CDN:商品画像の表示速度改善に、月額数万〜数十万円かかります。
  • SEO維持費:コンテンツ制作や技術的なSEO対応が、継続して必要になります。
  • その他:セール時のサーバー増強やセキュリティ対策も必要です。

月商1,000万円のECサイトでは、決済手数料だけで年間240〜480万円になる計算です。決済手数料は毎月発生するため、年間で積み上がる費用として見ておく必要があります。

大規模セールのアクセス集中に備えて、サーバーのスケールアップ費用も予算に含めておきます。

▶ 詳細はこちら:EC刷新の費用(No.1953)

ポイント

費用は初期費用だけでなく、5年間の総コストで比べます。SaaSは売上手数料とライセンス費、スクラッチは保守費が、予算に長く響くかどうかが目安です。

発注・外注方法

作業範囲定義書を中心に、並行稼働、リダイレクト、データ移行を配置した図。
3つの作業領域を契約時に整理する構成です。

外注先と依頼範囲の設計が、EC刷新の成否を左右します。一社への一括発注と、専門会社への分離発注では、コストや品質、管理の難易度が異なります。

デザイン会社と開発会社の分離発注の検討

UI/UXデザインと技術開発を一社に依頼するケースが多いですが、専門性に応じて分離発注する方法もあります。

  • デザイン会社:体験設計、ブランドイメージ、コンバージョン最適化に詳しい傾向です。
  • 開発会社:システム品質、性能、セキュリティに強みを持つ傾向です。

分離発注では各専門領域の品質を確保しやすい一方で、発注者がプロジェクト管理の調整役を担うことになります。さらに、デザイン仕様の解釈違いや変更による開発費の増加、会社間の連絡調整が課題です。

一社発注のほうが、自社の管理能力によっては円滑に進む場合もあります。

並行稼働・URLリダイレクト・データ移行の責任分界点

契約書やSOW(作業範囲定義書)で、並行稼働、URLリダイレクト、データ移行の責任を明確にしておきます。

  • 並行稼働:期間、運用体制、費用の範囲。
  • リダイレクト:設計、実装、検証それぞれの担当範囲。
  • データ移行:合格基準と、移行後の検証担当。

並行運用では、誰が旧システムの注文処理を続け、誰が新システムを確認するかを、事前に合意しておきます。

URLが変わる場合、301リダイレクトが不適切だとSEO評価が引き継がれない恐れがあります。実際にアクセスが激減した事例もあるため、担当範囲の確認が欠かせません。

移行完了の定義は、何件中何件の成功を合格とするかまで決めておきます。そのうえで、移行後に誰がどこを確認するかをあらかじめ合意しておくと、後のトラブルを防げます。

▶ 詳細はこちら:EC刷新の発注方法(No.1954)

ポイント

一社発注にするか分離発注にするかは、発注側がプロジェクト管理の調整役を担えるかで決めます。担当の境目は、並行稼働、リダイレクト、データ移行ごとに契約へ明記します。

EC刷新で失敗しないためのポイント

計画を立てても、予期せぬ問題は起こり得ます。そのため、SEO評価の維持と、プロジェクトが炎上した場合の対応を事前に考えておきます。

SEO評価の継続性を確保するURLリダイレクト設計

旧URLから新URLへの301リダイレクトが不適切だと、Googleに新規ページと認識され、検索順位や被リンクの評価が引き継がれない恐れがあります。

  • 対応表を作る:全商品・全カテゴリについて、旧URLと新URLを結びつけます。
  • 公開前に確認する:全件のリダイレクト動作の検証。
  • 移行後に監視する:順位変動の毎日チェック(2〜4週間)。

移行直後に自然検索の流入が半減・激減した事例もあり、売上への影響は深刻です。

サイトマップを更新してGoogle Search Consoleへ再登録し、被リンクも確認します。さらに、問題が起きたときにすぐ対処できる体制を整えておきます。

ERP移行では、在庫情報の混乱が3ヶ月で数億円の損失を招いた事例があります。また、EC刷新でも、SEO評価の損失が数ヶ月分の売上低下として現れる場合があります。

プロジェクト炎上時の「撤退の作法」

進捗が遅れたまま追加費用を払い続け、リリースが1年以上ずれ込むケースがあります。こうした場合は、対応を継続するか撤退するかを検討します。

  • 成果物を確保する:ソースコード、設計書、データの所有権と引き渡し条件の取り決め。
  • 判断基準を決める:遅延期間や合意不履行の回数を、計画書に明記。
  • 移行策を考える:旧システムを動かしたまま新ベンダーへ切り替える方法もあります。

成果物の権利や引き渡し条件がなければ、撤退後に何も残らない恐れがあります。

判断基準を先に定めておくと、感情に流されず、客観的に意思決定できます。また、旧システムを並行稼働させて新ベンダーへ移る二段階移行も、リスクを抑える撤退戦略の一つです。

ポイント

移行後のSEO評価を守るリダイレクト体制と、炎上時の撤退条件を契約前に決められているかが目安です。撤退時に成果物を手元に残せるかどうかも、判断の材料になります。

まとめ

EC刷新は、レガシーシステムの課題を解消し、ECサイトの競争力を取り戻すための投資です。表示速度、スマートフォン対応、セキュリティ、機能拡張性を見直します。

方式はSaaS移行、スクラッチ、Headless Commerceから選びます。

規模や要件、予算に合わせて、移行時期とデータ計画も整えます。

会社選びでは、EC専門企業とSIerの特性を踏まえて技術実績を確認します。費用は5年間の総コストで比べ、発注時は作業ごとの責任分界点を契約に明記します。

SEO評価の維持と、炎上時の撤退条件も、事前に準備しておくことが大切です。

各テーマの詳細は、下の関連記事一覧でご覧いただけます。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。