電子申請システムとは、住民や事業者がオンラインで申請し、行政側が受付・審査・決裁・通知・交付までを一貫して電子処理する仕組みです。フォームをWeb化するだけではなく、認証、添付書類、既存業務システム連携、セキュリティ、職員の審査業務まで設計して初めて効果が出ます。
本記事では、電子申請システムの全体像、主な機能、開発・導入の進め方、費用相場、開発会社やサービスの選び方、発注時の確認事項、導入後のKPIまでをまとめます。初期費用だけで判断せず、5年間の総額とオンライン完結率、不備率、審査時間を基準に、自組織に合う方式を選ぶためのガイドです。
▼関連記事一覧
・電子申請システム開発の進め方
・電子申請システム開発でおすすめの開発会社6選と選び方
・電子申請システム開発の見積相場・費用
・電子申請システム開発の発注・外注・委託方法
電子申請システムの全体像

電子申請システムは、申請者が操作するインターネット側と、職員が処理する内部業務側をつなぐ業務基盤です。申請を受け付けるだけでなく、申請内容を確認し、必要に応じて差し戻し、決裁し、結果を通知・交付するところまでを一つの流れとして設計します。
電子申請システムとは何ですか?
電子申請システムとは、申請者の入力、本人確認、書類提出、手数料の支払い、受付状況の照会、行政側の審査・決裁、処理結果の通知までをオンラインで扱うシステムです。単独のフォームサービスでも申請データは集められますが、職員が印刷して手入力するなら業務全体は電子化されていません。受付後の処理までつなげることが、開発の重要なポイントです。
パッケージ・SaaS・個別開発の違い
パッケージやSaaSは、標準的な申請フォーム、認証、通知、権限管理などを早く使い始めやすい方式です。ノーコード型なら職員が手続を追加・変更できる場合もあります。一方、独自の審査や基幹システム連携を細かく作り込む場合は、追加開発や個別開発が必要になります。自由度が高い方式ほど、法改正、脆弱性対応、担当者異動、保守契約まで自組織の責任範囲が広がります。
電子申請システムに必要な主な機能

機能要件は、申請者向け、職員向け、管理者向け、外部連携向けに分けると整理しやすくなります。特に、申請者の使いやすさだけを評価すると、受付後の審査や決裁が紙に戻るリスクがあります。画面機能と業務処理を同じ一覧で確認することが大切です。
申請者向けに必要な機能
手続の検索、スマートフォン対応の入力フォーム、入力内容のチェック、途中保存、添付ファイルの登録、申請状況の照会、差し戻し後の修正・再提出が基本です。入力例や必須項目の説明を画面内に置くと、申請者が別ページを行き来せずに済みます。代理申請、家族分のまとめ申請、多言語表示、アクセシビリティも、手続の対象者に応じて要件化します。
職員・管理者向けに必要な機能
職員側には、受付一覧、担当者への割り当て、審査、差し戻し、職権訂正、一括処理、決裁、文書交付、通知、検索、集計が必要です。管理者側には、フォーム作成、権限設定、手続ごとの公開期間、手数料、審査ルート、操作履歴、監査ログの管理機能を用意します。申請データをCSVで出力できるだけでなく、既存の台帳・文書管理・決裁システムへ安全に渡せることも確認します。
認証・電子署名・決済をどう組み込むか
本人確認の方法は、手続のリスクと法的要件で決めます。マイナンバーカードを使う公的個人認証、法人向けのGビズID、メール認証、既存アカウントなどを候補にし、本人確認レベル、電子署名の要否、代理申請の可否を手続ごとに分けます。手数料がある場合は、クレジットカード等のオンライン決済、電子納付、返金、支払い失敗時の再申請まで業務フローに含めます。
電子申請システム開発の進め方

開発は、フォームの画面から作り始めるのではなく、現行業務と対象手続の整理から始めます。最初から全手続を対象にすると要件が膨らむため、代表的な手続で小さく検証し、効果を確認してから横展開する進め方が安全です。
要件定義・対象手続の選定
まず手続一覧を作り、申請件数、対象者、添付書類、本人確認、手数料、審査担当、決裁者、交付方法、保存年限、現行の処理時間を記録します。そのうえで、住民メリット、不備率、職員工数、オンライン化の法的適合性から優先順位を決めます。成果物は業務一覧、業務フロー、権限表、非機能要件、連携先一覧です。
設計・開発・連携の実装
次に、申請者の画面遷移、職員の審査フロー、通知文面、エラー時の扱いを設計します。インターネット接続系、LGWAN接続系、個人番号利用事務系を分離する場合は、どのデータをどの経路で連携し、誰が認可し、どのログを残すかを先に定めます。フォーム、認証、決済、API、文書管理、決裁を別々に作るのではなく、受付番号をキーに一連の状態遷移として設計します。
テスト・リリース・改善
テストでは、正常系だけでなく、入力不備、添付容量超過、決済失敗、差し戻し、代理申請、同時申請、通知不達、連携先停止、権限誤設定を確認します。職員が実際の申請を審査する受入テストを行い、研修と運用手順を整えてから公開します。公開後は申請完了率、不備率、差し戻し件数、審査時間、問い合わせ件数、オンライン完結率を月次で追い、フォームや案内を改善します。
▶ 詳細はこちら:電子申請システム開発の進め方
電子申請システムの費用相場と5年TCO

電子申請システムの費用は、人口や申請件数、手続数、認証・決済の有無、既存システムとの連携数、LGWAN構成、職員数で大きく変わります。公開された全国共通の価格表は少ないため、以下は公開料金例と公共系システムの工程感から整理した目安です。特定サービスの価格や市場全体の統計ではなく、同じ条件で相見積もりを比べるための基準として使います。
方式別の初期費用・月額・導入期間
小規模なノーコードやSaaS導入は、初期費用0〜150万円、月額3〜30万円、導入期間1〜2週間から2か月程度が目安です。自治体向け標準SaaSに認証・決済を加える場合は、初期100〜500万円、月額10〜50万円、導入2〜6か月程度を見込みます。基幹・決裁・LGWAN連携を含めると初期300〜1,500万円、月額20〜100万円、導入4〜9か月程度に広がります。独自業務のスクラッチ開発では3,000万円から1億円超、開発期間12〜24か月に及ぶケースもあります。
見積書で分けるべき費用項目
見積書では、要件定義、画面・フォーム作成、認証、電子署名、決済、API連携、LGWAN接続、データ移行、テスト、研修、初期設定、運用保守、法改正対応を分けて記載してもらいます。追加フォームの単価、職員アカウントの追加料金、保管容量、通知件数、問い合わせ対応、障害時の復旧時間も確認します。行政向け近接サービスの公開資料では、導入料金458,400円、基本料金1,000,000円以上、月額30,000円、金融機関連携556,800円という構成例が示されています(出典: デジタル庁「給付支援サービス利用説明資料」、2025年12月)。電子申請システムそのものの相場ではありませんが、初期設定・規模別基本料・月額・オプションに分かれる料金構造の参考になります。
月額ではなく5年間の総額で比べる
方式を比較するときは、初期費用に60か月分の利用料、保守費、追加手続の登録費、決済手数料、職員研修、法改正対応、データ移行・返却費を加えます。ノートに整理されたSaaS型の試算例では、初期約120万円、月額約18万円、5年間のTCO約1,200万円という水準が示されています。これは個別サービスの公開価格ではないため、人口、件数、連携数を合わせた試算として扱い、契約前には必ず自組織向けの見積もりで置き換えます。
▶ 詳細はこちら:電子申請システム開発の見積相場・費用
電子申請システムにはどのようなセキュリティ対策が必要ですか?

必要なのは、ネットワーク分離、アクセス制御、暗号化、ログ、バックアップ、脆弱性対応、障害時の受付継続、委託先の管理です。電子申請では、申請内容に個人情報や特定個人情報が含まれる可能性があるため、機能比較より先に安全管理要件を決めます。手続ごとに必要な本人確認や保存証跡が違うため、すべてを一律に重くするのではなく、リスクに応じて設計します。
LGWAN・個人番号利用事務系・ISMAPを確認する
自治体では、インターネット接続系、LGWAN接続系、個人番号利用事務系を分離し、必要なデータだけを認可された経路で連携する構成が基本です。クラウドサービスを利用する場合は、データ保管場所、暗号化、監査ログ、バックアップ、再委託、インシデント通知、サービス終了時のデータ返却を確認します。ISMAPは、政府が求めるセキュリティ要求を満たすクラウドサービスをあらかじめ評価・登録する制度です(出典: ISMAPポータル「ISMAP概要」、2026年確認)。登録の有無だけで安全性を断定せず、対象サービスと利用範囲が登録内容に合うかを調べます。
次期オンライン申請サービスで何が変わりますか?
2025年4月から、次期オンライン申請サービスの先行実証が進められています。住所や氏名などの再入力を減らし、自治体が保有する情報の転記、補正連絡、通知書のオンライン送付までを目指す取り組みです。デジタル庁は2026年9月以降の本格運用開始を予定しており、国民の約8割がマイナンバーカードを保有していると説明しています(出典: デジタル庁「行政手続のオンライン化」、2026年6月)。独自開発を始める前に、今後の標準機能やAPIと重複しないかを確認することが重要です。
開発会社・サービスの選び方

開発会社やサービスを選ぶ際は、知名度や月額料金だけでなく、対象手続に必要な機能を実装・運用できるかで比較します。電子申請の実績があっても、本人確認だけが得意な場合、申請フォーム中心の場合、審査・交付や既存システム連携まで対応できる場合で得意領域が異なります。
実績・技術・運用体制を確認する
実績は導入件数だけでなく、人口規模、年間申請件数、対象手続、認証方式、決済、LGWAN接続、審査・交付、既存システム連携まで自組織に近い条件で確認します。提案時には、実際の画面、受付から決裁までのデモ、障害時の運用、法改正時の役割分担を質問します。要件定義、開発、導入後の問い合わせを誰が担当するか、担当者の交代時に情報を引き継げるかも確認します。
比較表に入れるべき質問
「標準機能と追加開発の境界はどこか」「手続を追加するといくらかかるか」「APIの仕様と利用制限は何か」「データを検索・出力・返却できるか」「解約時にどの形式で返却されるか」「法改正や脆弱性対応の費用は誰が負担するか」を同じ書式で回答してもらいます。提案評価では、機能適合性、セキュリティ、連携性、導入期間、5年TCO、運用体制、データの出口を配点化すると、価格だけで決まりにくくなります。
▶ 詳細はこちら:電子申請システム開発でおすすめの開発会社6選と選び方
発注・外注・委託で失敗しない方法

発注では、実現したい機能を並べるだけでなく、業務上の成果と受入条件を明確にします。発注側が要件を整理しきれない場合は、要件定義だけを先に委託し、その成果物をもとに開発を調達する方法もあります。開発と運用を同じ契約に含める場合は、費用と責任範囲を分けて記載します。
RFPと仕様書に盛り込む項目
仕様書には、対象手続、利用者数、年間申請件数、想定ピーク、申請から交付までの業務フロー、認証・署名・決済、添付書類、通知、既存システム連携、権限、ログ、バックアップ、可用性、障害対応、アクセシビリティ、データ移行、研修を記載します。参加資格や類似実績だけでなく、クラウドの評価制度、個人情報の管理、再委託先、担当体制、情報セキュリティ事故時の連絡方法も確認します。
契約・受入・運用の責任分界
契約では、成果物、納期、検収方法、仕様変更の手続、SLA、障害の優先度、復旧目標、保守時間、再委託、知的財産、ログの保存、データの返却・消去、解約時の移行支援を定めます。受入テストは「画面が表示される」だけでなく、差し戻し、再提出、通知不達、連携停止、権限変更、災害時の復旧まで確認します。運用開始後に職員がフォームや案内を変更する場合は、変更申請と承認の流れも決めておきます。
よくある失敗と対策
失敗しやすいのは、フォーム公開を成果と考えること、全手続を一度に対象にすること、既存業務との連携を後回しにすること、月額料金だけで比較すること、利用後の改善担当を決めないことです。対策として、代表手続でPoCを実施し、申請完了率と不備率を基準値と比較します。自治体の公開事例では、既存の電子申請画面に操作ガイドを追加し、学校給食申込書の不備率を81.7%、国民健康保険資格喪失届の不備率を56.6%改善し、後者で年間約105時間の業務削減につなげています(出典: 川崎市の電子申請改善事例、2025年公開)。機能追加だけでなく、利用データを見て案内を改善する運用が効果を左右します。
▶ 詳細はこちら:電子申請システム開発の発注・外注・委託方法
よくある質問(FAQ)

電子申請システムの導入では、方式、費用、本人確認、既存システムとの関係について質問が多く寄せられます。ここでは、検討初期に判断しやすいように結論から回答します。
電子申請システムはSaaSとスクラッチ開発のどちらがよいですか?
標準的な手続を早く始め、法改正やセキュリティ更新の負担を抑えるならSaaSが向いています。独自の審査・交付や複雑な基幹連携が競争力や業務要件に直結するなら個別開発を検討しますが、5年TCOと保守責任を含めて比較する必要があります。
電子申請システムの開発費用はいくらですか?
小規模なSaaS導入なら初期0〜150万円、月額3〜30万円程度、標準SaaSに認証・決済や連携を加えると初期100〜1,500万円程度まで広がります。独自業務のスクラッチ開発は3,000万円から1億円超になる場合があるため、手続数、申請件数、連携数、職員数を揃えた相見積もりで確認します。
マイナンバーカード認証は必須ですか?
必須とは限りません。申請内容のリスク、法令、本人確認や電子署名の要件に応じて、マイナンバーカード、GビズID、メール認証などを使い分けます。認証を強くするほど離脱や問い合わせが増える可能性もあるため、手続ごとに必要な確認レベルを決めます。
既存の基幹システムを残したまま導入できますか?
導入できますが、連携方式とデータの責任分界を先に決める必要があります。申請データをCSVで受け渡すのか、APIでリアルタイム連携するのか、受付番号やステータスをどのシステムが管理するのかを整理し、障害時の再送や重複登録もテストします。
まとめ

導入前に確認するポイント
電子申請システムは、申請フォームを公開するだけの仕組みではありません。申請者の入力、本人確認、添付、決済、職員の審査・決裁、通知・交付、既存システム連携、監査ログまでを一つの業務フローとして設計し、利用後のデータをもとに改善する業務基盤です。
導入後に成果を判断する基準
導入時は、まず対象手続と現行業務を棚卸しし、SaaS・パッケージ・個別開発を5年TCOで比較します。次にLGWANや個人番号利用事務系の分離、認証、法令、ISMAP、データ返却、障害対応を要件に含め、代表手続のPoCで不備率や審査時間を測定します。オンライン化の成否は、公開日ではなく、住民の完了率と職員の処理負担が継続的に改善しているかで判断します。
▼関連記事一覧
・電子申請システム開発の進め方
・電子申請システム開発でおすすめの開発会社6選と選び方
・電子申請システム開発の見積相場・費用
・電子申請システム開発の発注・外注・委託方法
